「4技能の英語民間試験を大学入試に導入」の根拠とされる学習指導要領改訂のポイントとは?

自律的学習者への変身術

学習法や教材を工夫するのも大切ですが、確立されたメソッドや良質の教材だけでは、高いレベルでの外国語習得は難しいでしょう。しかし、「自律的学習者」になれば、おのずと英語力は上がっていきます。語学やそれ以外の学びにも一生役立つヒントを、第二言語習得の専門家、新多 了さんが紹介します。第3回は、学校の英語教育や受験の現場で話題の「4技能の習得」です。

なぜ大学入試で英語民間試験なのか?

この連載では、第1回で「SLA(第二言語習得)」と「学習者エージェンシー」、第2回で「ネイティブ英語の呪い」から私たちを解放する「マルチコンピタンス」という、英語学習に役立つ考えを紹介しました。

今回は、学校での英語教育について考えてみます。とはいっても、もちろん、日頃の英語学習に役立つ考えがいろいろとあるはずです。

昨年の暮れに突然発表された、英語民間試験の大学入試導入延期のニュースは、大きく報道されたのでご存じの方が多いでしょう。確かに、受験生への地域的・経済的な配慮が十分でないなど制度設計に問題があり、一度立ち止まってしっかりと検討するのは賢明な判断だったように思います。

その一方、導入への反対意見ばかりが取り上げられ、そもそも「なぜ英語民間試験を導入するのか」については十分に報道されていないのが残念でした。

なぜ民間試験を使うのかといえば、スピーキング・ライティングのいわゆるアウトプットスキルを大学入試に取り入れるためです。

何をテストするかは、何を学ぶかに大きな影響を与えます。これをウォッシュバック効果(washback effect、波及効果)と呼びます。学校の英語の授業でいくらアウトプットを重視しても、大学入試で問われないのであれば、生徒はなかなか真剣に学ぼうとしないでしょう(私も高校時代はそうでした・・・)。

大学入試にスピーキング・ライティングも取り入れるということは、学習の早い段階から4技能を全て学んでいこうという強いメッセージになるのです。

論争となった「インプット仮説」とは?

ところで、なぜ英語学習の早い時期からアウトプットが必要なのでしょう?最初はインプット(リスニング・リーディング)だけでは駄目なのでしょうか?

「インプットか、アウトプットか?」は、SLAでもかつて大きな論争になりました。その代表的な考えが、「インプット仮説」(Input Hypothesis)と「アウトプット仮説」(Output Hypothesis)です。

インプット仮説は、学習者の現在のレベルを“ ”と仮定し、これを少し上回るレベルのインプット“ i+1”を受けることで、第二言語を自然に習得できるという考えです。

「少し難しいレベルのインプットが大事」なのは、感覚的に納得できると思います。ただ、このインプット仮説は、「“ i+1”を受ける“だけ”で習得できる」と主張した点で過激でした。

確かに、子どもはインプットを受けるだけで自然に第一言語を話し始めます。独り言を言ったり、頭の中でリハーサルをしたりしているので、厳密にはインプットだけというわけではありませんが。

いずれにしても、第一言語習得がかなりインプットに偏っているのは確か。果たして、この「インプット・ファースト」の法則は、第二言語習得にも当てはまるのでしょうか?

対する「アウトプット仮説」とは?

第二言語を習得するにはインプットだけでは不十分。スピーキング力・ライティング力はもちろん、総合的な英語力を付けるにはやはりアウトプットの機会が絶対必要。そう主張するのが「アウトプット仮説」です。

アウトプットは英語学習のさまざまなプロセスに影響を与えます。ポイントはいろいろあるのですが、ここでは「気付き」と「文法の意識化」に絞って説明します。

まず、アウトプットは自分の英語の知識が十分でないことに気付く機会を与えてくれます。これを「穴に気付く」(noticing a hole)と言います。

例えば、自分では理解したつもりだったけれど、テストでは思ったほどできなかった・・・。そんな経験が誰にでもあるでしょう。

頭の中で考えているだけでは、本当に分かっているかどうか判断するのは難しいのです。実際にアウトプットして初めて、自分の知識やスキルに穴があることに気付けます。

また、アウトプットは文法への意識を高めてくれます。

私たちは英語のインプットに対して、何よりもまずその意味に意識がいくものです。一方、アウトプット時には「語順はどうすればいいだろうか」「動詞はどのような形にするべきだろうか」「前置詞はどれにすべきか・・・」などなど、さまざまな文法的側面に注意を向けざるを得なくなります。

インプット・ファースト派は「まずはしっかりと文法を理解してから、アウトプットの練習をしよう」と考えます。でも実際には、学習の早い段階からアウトプットを試みることで、使える文法力を効果的に身に付けられるのです。

スピーキングは「英会話」だから高度ではない?!

英語学習にはアウトプットが重要だと確認したところで、ここからはスピーキングについて考えてみましょう。

4技能の中で、スピーキングは、習得方法に関する意見が最も分かれるスキルです。

まず、スピーキングは多くの英語学習者にとって最も身に付けたい、一番人気のスキルです。その一方、スピーキング=「英会話」「日常会話」のイメージが強く、とかく低く見られがちです。

果たして、スピーキングは他の3技能よりも劣ったスキルなのでしょうか?

スピーキング力と一言で言っても、母語話者であれば自然に習得する「基本的な会話能力」と、継続的な学習によって身に付けられる「高度な口語能力」に分けられます。スピーキング軽視派は、この2つの能力を混同しています。

日常会話は条件反射的な側面が強く、集中的に訓練すれば、比較的短期間で身に付けられます。英語圏で生活すれば(もちろん英語を使って住む場合ですが)、半年から1年程度でほとんどの人が身に付けられるでしょう。スピーキングを一段低く見るとき、この「基本的会話能力」だけが想定されています。

高度な口語能力「オーラシー」は創造的で芸術的

一方、異なる意見・バックグラウンドを持つ人たちとディスカッションをしたり、自分の意見を、説得力を持って伝えるディベートを行うには、より高度な口語能力が求められます。この能力は、読み書き能力を意味するリテラシー(literacy)に対して、オーラシー(oracy)と言います。

相手の意見を理解しながら、自分の考えを組み立てて発話するには、かなり高度な思考力が求められます。しかも、ゆっくりと考えたり辞書を調べたりする時間はなく、一瞬で発話を組み立てないといけません。

高度なオーラシーは創造的で、芸術的でさえあります。

4技能を統合的に使う必要がある

ずいぶんとスピーキングに肩入れした意見を述べてきましたが、基本的に4技能に優劣はありません。

もちろん、スピーキングだけが難しいわけではなく、ライティングにはライティングの、リーディングにはリーディングの難しさがあります(詳しくはぜひ『「英語の学び方」入門』をご覧ください)。

これまで学校英語では、インプット(中でもリーディング)を重視した教育が行われてきました。でもこれからは、もっとインプットとアウトプットのバランスの取れた授業が求められます(決してアウトプットだけというわけではありません)。

なぜなら、実際のコミュニケーションでは、どれか一つのスキルだけを使うことはあまりなく、4技能全てを「統合的」に使う必要があるからです。

「主体的・対話的で深い学び」への転換

ここで、話は冒頭の英語民間試験に戻ります。

そもそも4技能試験が検討されてきた背景には、新しく改訂された「学習指導要領」があります。学習指導要領とは、各学校でカリキュラムを設定し授業を行う基準となるものです。

この学習指導要領改訂の最重要ポイントは、これまでの講義中心の授業から「主体的・対話的で深い学び」への転換です。 

この「主体的・対話的で深い学び」のためには、4技能の学習が不可欠です。あるいは、4技能学習を通じて、「主体的・対話的で深い学び」が実現できると言うこともできます。

「主体的な学び」は、生徒自身が自分の学習に責任を持ち、自分で考えて学習を進めていくこと(詳しくは、第1回記事をご覧ください)。

「対話的な学び」は、他の生徒と協力して議論を組み立てながら自分の考えを形成していくことです。

つまり、「主体的・対話的な学び」とはコミュニケーションそのものですから、そのために4技能をしっかりと使いながら身に付けていくことが求められます。

さて、「主体的・対話的な」英語の授業によって、生徒たちはどのような「深い学び」を得ることができるのでしょう?

私は英語を通じて得られる「深い学び」の一つに、自分とは異なる価値観・考え方があることを理解すること、その新しい視点を(部分的にでも)自分の中に取り入れることがあると思います。

この点について、もう少し具体的に見てみましょう。

英語を使って物事を合理的に説明する

英語を通じた深い学びに関して、最近読んだ本の中に印象的なエピソードがありました。

著者は国際関係論を学ぶためにアメリカの大学院に留学しようとしますが、その入学直前に妊娠したことが分かります。「子どもができたら、母親は全てを投げ打って、育児に専念すべき」という考えにとらわれていた著者は、大学院進学を諦めようと思い、大学事務局に申し出ると、次のような反応が返ってきたそうです。

「どうしてあなたには学業と子育ての両立は不可能なのか、合理的に説明してみて」と言われて、はじめてハッとしたのです。

合理的に説明せよとは、「根拠を示せ」ということ。そのとき、公共政策を専門とする大学院の職員を納得させる根拠など一つもないことに気づいたのです。

『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(大崎麻子著、経済界、p. 90)

著者は古い価値観にとらわれていたことに気付き、大学院に進学することを決断します。そして卒業後は国連に就職。現在は、世界各地で女性のための教育や雇用支援の専門家として活躍しています。

「言葉を使って合理的に説明せよ」とは、いかにも英語のスピーカーらしい態度だなあと思います。何かに迷ったとき、他人はもちろん、自分を説得するために合理的な説明ができるか?合理的に説明できないのであれば、もっと深く考えてみる必要があるはずです。

こうした考え方を身に付けることは、単に英語学習だけでなく、生きていく上で大きな力になることは間違いありません。英語の4技能学習はこのような「深い学び」を得るための大切なプロセスなのです。

 

※この記事で案内していたシンポジウム「グローバル社会で生き抜く力を育てる外国語教育」(2/29、立教大学)は、コロナウィルスの感染拡大を受け、開催延期となりました。代替開催日は現在調整中ですが、決まり次第立教大学ウェブサイト(www.rikkyo.ac.jp)でお知らせいたします。

学習で最も大切なことが分かる本『「英語の学び方」入門』

新多 了さんの著書『「英語の学び方」入門』は、英語の「学び方」を知る教科書です。一日で読めて一生役に立つ、英語学習の必須知識が身に付きます。

「英語の学び方」入門

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  • 作者:新多 了
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2019/08/22
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新多了

文:新多 了(にった りょう)

立教大学外国語教育研究センター教授。著書に『はじめての第二言語習得論講義――英語学習への複眼的アプローチ』(共著、大修館書店)、『「英語の学び方」入門』(研究社)など。現在は、立教大学の新しい英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。

編集:GOTCHA!編集部