英語は「学習者エージェンシー」の力を始動させれば習得できる!【SLA式】

自律的学習者への変身術

学習法や教材を工夫するのも大切ですが、確立されたメソッドや良質の教材だけでは、高いレベルでの外国語習得は難しいでしょう。しかし、「自律的学習者」になれば、おのずと英語力は上がっていきます。語学やそれ以外の学びにも一生役立つヒントを、第二言語習得の専門家、新多 了さんが紹介します。第1回は「学習者エージェンシー」です。

「SLA」(Second Language Acquisition)とは?

これから6回にわたって、皆さんの日々の英語学習に役立つ「SLA」の考えを紹介していきます。

いきなり言われても、「SLAって何???」という方もいらっしゃるかもしれません。

SLAとは、Second Language Acquisition(第二言語習得)の頭文字。私たちが第一言語(母語とも言います)を習得した後に、2つ目以降の言語(3つ目でも4つ目でも)をどのように身に付けることができるのかを研究する分野です。

SLAが始まったのは、1960年代後半。言語学や心理学と比べると随分新しい分野ですが、近年は急速にグローバル化が進展していることもあり、注目が高まっています。SLAの考えや研究成果は、いろいろと英語学習に役立てることができます。

この連載では毎回、皆さんの日々の学びの参考になることを紹介していきますが、1つ注意が必要です。それは、SLAは簡単に英語ができるようになる方法を教えてはくれないということです。

というか、そんな魔法のようなメソッドはあり得ないことが、これまでの研究から分かってきました。

第一言語習得は100パーセント成功する

SLAの話に入っていく前に、第一言語(これを読んでいる皆さんの多くにとっては日本語)の習得について少し考えてみましょう。

第一言語習得の成功率はほぼ100パーセントです。私たちは当たり前のように日本語を使っていますが、これだけ複雑な能力を全ての人が身に付けているのは、考えてみると不思議なことです。

一人一人の子どもは遺伝的に異なる個性を持って生まれてきますし、育てられる環境もさまざま。そうした違いがあっても、全ての子どもが第一言語をしっかりと習得します。

また、どんな言語でも、おおよそ同じ発達段階とスピードで第一言語を習得することが知られています。例えば、1歳前後で最初の言葉を発し、4、5歳ごろには基本的な第一言語能力が完成します。

第二言語習得は複雑で多様

一方、第二言語習得の成功率はぐっと低くなります。

その理由の一つは、第一言語習得と比べて第二言語習得が複雑で多様現象だからです。なぜ複雑で多様かというと、学習を始める年齢も違えば、それぞれの人が持つ能力、興味、経験、環境など、さまざまな要因が全て影響するからです。

もちろん、どんな方法でどんな教材を使うかは重要なポイントです。でも、何を使ってどのように学習すれば良いかは一人一人異なります。また、同じ人でも、英語が上達すれば適切な方法は変化していきます。

「学習者エージェンシー」(learner agency)を始動させる

「英語学習は複雑で多様だ」ということを前提に、英語を学ぶ上で最も大切なことは何でしょうか?

英語学習法は私たちの外にあります。外にあるものをスムーズに内へ取り入れるためには、何よりもまず、私たち自身の「構え」を整えてやる必要があります。

つまり、英語学習がうまくいくかどうかは、自分が自分の学びに「主体的に」関わる姿勢を持っているか。これに尽きます。

「主体的に学ぶ」とは、どういう意味でしょうか?

例えば、授業に真面目に出席して、先生から与えられた課題をこなしているだけでは、自分の意志や判断が入っていないので、主体的に学んでいるとは言えません。

主体的に学ぶ姿勢のことを、SLAでは「学習者エージェンシー」(learner agency)と呼びます。

より具体的には、学習者自ら決断する力、そして自分自身と環境を変える力を指します。

例えば、英語を学ぶための方法はたくさんあります。英会話スクールに通ってもいいし、オンライン英会話もある。もちろん、アルクの英語教材を使ってもいい。さらに、インターネット上には英語学習に役立てられるものが無数にあります。

こんなにたくさんあると迷ってしまいますが、その中から自分に合ったものを自分で探して、自分で選んで、自分で使ってみる。そのときに私たちの内側で活発に動いているのが、エージェンシーです。

また、エージェンシーは「環境を変える力」でもあります。

今、英語をあまり使わない環境にいるなら、英語を日常的に使う場所に自分を置いてみる。留学する、英語を使う仕事に転職する。そうした行動を起こすときにも、エージェンシーが働いています。

「自律的学習者」になれば学習は進歩する

「主体性に学ぶこと」は、この連載のタイトルである「自律的学習者」とも深く関係しています。

「自律的」は、「自立的」とよく混同されます。

どちらも大して違わないように見えるかもしれませんが、英語にすると違いが際立ちます。

まず、「自立的」は“independent”。この言葉からは、自分の足でしっかりと立っている力強さを感じます。その一方、孤立しているようで、どことなく寂しさも感じる言葉です(いろいろな意味で、アメリカの大統領は“independent”だなと思います)。

それに対して、「自律的」は“autonomous”。語源は「自分自身(auto)の物差し(norm)を持っている」こと。

名詞の“autonomy”には「自治」という意味もあります。この場合、さまざまな組織や人が協力して、共同体を運営することを意味します。

一方、学習者が「自律的」であるとは、自分の中にあるさまざまな要素が有機的に連携して、うまく学習ができている状態です。

環境に適応しながら自分を自在に変化させる自律的な学習者は、どこかしなやかさを感じさせます。「自律的学習者」になることができれば、後は放っておいても英語学習は前へ前へと進んでいきます

「主体的・自律的な学習者」になるには?

では、どうすれば「主体的・自律的な学習者」になれるのでしょうか?

それが、この連載で考えたい一番のポイントです。

「自律的学習者」への変身は簡単ではありません。なぜなら、自律的でない状態は、これまで長い時間をかけてじっくりとつくられてきたものだからです。

では、どうすればいいか?

忘れてはならないポイントは、教師や周りの人たちが無理やり変身させることはできないということ。つまり、教育者や指導者の立場からは、学習者の中からエージェンシーが生まれ、「主体的に」変身する時が来るのを、ただひたすら待つしかありません。

そういうわけで、SLAの研究者も何か特別なことができるわけではありません。唯一できることは、

  • 「英語を使うと、こんな楽しい経験ができるよ」
  • 「英語を身に付けると、『新しい自分』に出会えるよ」
  • 「こんなふうに考えると、英語の学習がうまくいくよ」

などなど、英語を学んでいる人のエージェンシーが芽生えるような言葉を(繰り返し)投げ掛けるしかありません。

これは、あまりにも原始的で非効率的な方法ですが、他に方法がないのだから仕方がありません。でも根気よく続けていると、時々、投げ掛けた言葉がカタリスト(触媒)になって、目の前の学習者のエージェンシーが始動する瞬間が訪れます。

もしかしたら、この連載で書くことが、どこかの誰かが「自律的学習者」に変身するきっかけになるのでは?ということをちょっと期待しながら、英語学習に役立つSLAの考えを紹介していきます。

学習で最も大切なことが分かる本『「英語の学び方」入門』

新多 了さんの著書『「英語の学び方」入門』は、英語の「学び方」を知る教科書です。一日で読めて一生役に立つ、英語学習の必須知識が身に付きます。

「英語の学び方」入門

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  • 作者:新多 了
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2019/08/22
  • メディア: 単行本
 

新多了

文:新多 了(にった りょう)

立教大学外国語教育研究センター教授。著書に『はじめての第二言語習得論講義――英語学習への複眼的アプローチ』(共著、大修館書店)、『「英語の学び方」入門』(研究社)など。現在は、立教大学の新しい英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。

編集:GOTCHA!編集部