世界を相手にビジネスを行うためには、英語力だけでなく、多様な文化を受け入れるグローバルマインドセット、つまり視野の広いもののとらえ方が必要となります。本コラムでは経営コンサルタントのロッシェル・カップさんに、グローバルマインドセット獲得のヒントを教えていただきます。
改善しないのは能力が低いから!
現在、会社のハンガリーの工場に赴任中のあなたは、現地採用の部下に対してとてもいら立っています。
彼は常に同じことをやり続けているだけでOKだと思っているように見え、違った方法を導入して、絶えず改善していく改善活動の必要性を分かっていないようです。
このような状況では、どのように対応するのが最も適切でしょうか?
【a】その部下は教育レベルや能力が低いので改善活動は無理だと決めつけ、諦める
【b】自分が率先して改善を図り、その方法に部下を従わせる
【c】「改善」がなぜ大切なのかを説明し、改善の方法(QCサークル、問題分析方法など)を部下に教える
こういった状況で、多くの日本人は【a】 を選びます。異文化の相手が自分とは違っている場合、相手に対して否定的なレッテルを貼りがちです。
つまり、「日本人のように改善をしないから、日本人よりもレベルが低い」などと決めつけてしまうのです。また、その部下は改善ができないと判断し、代わりに自分で改善活動を計画し、それを実行することをハンガリー人の部下に一方的に強要するという【b】の選択肢も、似たようなものです。しかしそのような行動を取ると、現地採用者の間で参加意識が生まれず、モチベーションの低下に繋がってしまいます。
ハンガリー人はなぜ改善しない?
「改善しようとしない」ハンガリー人部下の行動の背景には、何があるのでしょうか? その鍵となるのは、「変化に対する態度」かも知れません。
上記の表で左側に位置する文化ほど、伝統を大切にし、現状維持を好む傾向があります。「壊れていないものを直す必要はない」と考えますので、やり方を改善して変えるよりも、従来のやり方に沿った方が良いと感じています。過去を模範として捉え、迅速な変化は好みません。
一方、右側の文化は、進歩と新規性を重視します。つまり、新しい方が良いと思っています。 過去よりも将来に目を向け、迅速な変化を好みます。
変化に対するスピード感覚が違う
このスケールで、日本はちょうど真ん中に位置します。急激な変化は好みませんが、持続的で着実な変化を歓迎します。「カイゼン」という概念を生み出した文化ですから。
日本人にとって改善が望ましいのは当たり前のことですが、右側の文化の人にとっては、それでは変化のスピードが遅過ぎるかもしれません。反対に左側の文化の人は、改善の必要性を感じないかもしれません。ハンガリーは左側にある文化なので、おそらくこのケースのハンガリー人従業員は、改善を求める上司の態度に戸惑っているはずです。「すでに素晴らしい品質なのに、なぜ変化が必要なのだろうか?」と思っているかもしれません。
このケースのような状況で、最も適切な対策は【c】です。ハンガリー人の部下は今までに、改善という概念に出合ったことがないかもしれませんし、そのような方法になじみがないかもしれません。しかし、それがなぜ求められるかを論理的に説明すれば、身に付けて実行しようと努力してくれるかもしれません。ぜひトライしたいことです。
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執筆:ロッシェル・カップ
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社社長。
異文化コミュニケーションと人事管理を専門とする経営コンサルタントとして、日本の多国籍企業の海外進出とグローバル人材育成を支援している。イェール大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営学院卒業。日本語が堪能で、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』(アルク)、『英語の品格』(集英社) をはじめ、著書は多数。朝日新聞等にコラムも連載している。
編集:GOTCHA!編集部