連載「ニッポンのスラング採集記」では、マッコーリー大学講師で日本語の研究をしている言語学者のウェス・ロバートソン先生が、日本語のスラングや若者言葉のあれこれを英語で解説し、日本の文化について考察していきます。今回取り上げるのは「デフォ」と 「量産型」という言葉。どちらも「普通」を意味する言葉ですが、若い世代が使うニッポンの「普通」の現在形について、考察します。
私の常識はあなたの非常識 ニッポンの「普通」を考える
さて、初回のテーマはニッポンの「普通」についてです。「特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること」を、日本語では「普通」と呼びますが、「私の常識はあなたの非常識」なんて言葉もあるように、実は「普通」は人それぞれ。国籍や世代によって何が「普通」なのかは異なってきますよね。
さらに言えば、現代では「普通」という感覚それ自体も多様化し、若者文化を中心にその呼び名も変わってきているようです。「普通」は「普通」でも、そのニュアンスにはいろいろな「普通」があるということですね。
初期設定やありのままの状態のことを「デフォ」と呼んだり、大勢と同じような没個性的な髪形・髪色・服装・メイクなどを「量産型」と呼んだりするのを聞いたことはないでしょうか?今回は、そんなニッポンの「普通」の現在形について、考えていきます。
ラーメン好きがよく使う「デフォ」ってどういう意味?
「デフォ」という言葉のお話です。日本語の「デフォ」という言葉は、英語の”default”の短縮形です。大ざっぱに言うと、この「デフォ」はコンピューターの世界の専門用語から借用されており、(「デフォルトの設定」のような)基本的なもの、基礎的なもの、普通のルールなどを意味しています。最も基本的な使い方は、「(X)がデフォ」のような構文を使って、何かが「デフォ」であると言うことです。例えば、次のTwitterの例では、投稿者は「揚げニンニクが浮かんだサラっとした塩豚骨」のラーメンのことを「デフォ」と呼んでいます。
つまりこの場合の「デフォで」とは「〔特別なトッピングなどを〕何も加えない」という意味です。これもラーメンの写真ですが、この場合の「デフォ」の使い方は、ニンニクを入れる前に、マヨを入れる前に、「デフォで食べなさい」、つまり「そのまま食べなさい」と指示しているのですね。
ラーメンについて語る際に「デフォ」という言葉を用いるのは、あるあるなのでしょうか? ネット界隈(かいわい)ではキーワードになっていると思われるほど、この言葉の使い方を検索すると、かなりの数の人がラーメンを語るときに「デフォ」という言葉を使用していました。そうなんです、「デフォ」は特にラーメンファンの間で人気のあるスラングなんです。
でも、もちろん「デフォ」はラーメン界隈(かいわい)限定のスラングではありません。ご飯の量が「デフォ」という場合もあります。それは個人の「デフォ」じゃなくて、この店で食べるときに期待する量のことを言っており、つまりこの場合は、常に大盛りということです。ここでは、いつもご飯の量が多いことを「デフォ」という言葉で表現していますが、「期待する」「普通」「いつも」などの言い方と似ていますね。
英語の原文
Alrighty, it’s デフォ-nately time to talk about デフォ. The word デフォ is a shortening of デフォルト, or “default”. Broadly speaking, デフォ has been borrowed from the computing world (as in “default settings”) to refer to something which is basic, fundamental, a normal rule, etc. As a result, the phrase has a number of important grammatical functions. The most basic is to say that something is デフォ, using a construction like デフォだ or [X]がデフォ. For instance, this person has a specific ramen meal that is their “go-to”, stating via 馴染みのデフォ that “floating cooked garlic with salt-pork-bone-broth and home made noodles” is their norm.
デフォで can also mean “without anything added”. Here’s another ramen picture... The use of デフォ in this case is that the author instructs you to まずデフォで食べ, or “eat as-is”, before adding garlic and then mayo.
I should note that using デフォ to talk about your favorite ramen is like, a thing? A fair number of people were using デフォ when talking about ramen when I searched for uses of the term, to the extent that it seems to be a key phrase in the corner of the internet. Yes, that’s right, デフォ is a popular slang in the ramen fandom specifically.
Certainly, "デフォ" is not slang exclusive to the ramen community. Or, this amount of rice is the デフォ, or what you expect when you eat here, and constantly too much. The rice is a lot, and that’s the デフォで here, translatable as “expect”, “normal”, “always”, or something similar.
「量産型」女子ってどんなスタイル?
次の言葉は、「普通」の言葉として既に存在していたものが、サブカルチャーの文脈で二次的な意味に派生したものの一つです。一般的な意味としては、量産型は「大量生産型」の短縮形であり、つまり「大量生産」を意味します。しかし最近では、「ちょっと流行に敏感な人」とか「ある集団内でみんな同じような服装や行動をしている」ことを意味したりします。
つまり、確固たる個人ではなく、「量産型」の人間ということです。しかし意外なことに、これらの組み合わせは、確かに侮辱として使われていますが必ずしも侮辱を意図しているわけではありません。むしろ、自分たちのグループのコーディネートやスタイルの良さをアピールするために、(ハッシュタグなどで)自分たちを「量産型」と呼ぶことも少なくないのです。
量産型+グループの一般的な構文は、量産型オタク/ヲタクと量産型女子の2つです。量産型オタクが先で、ジャニーズや2.5次元ミュージカルのファンの間で自己言及的に使われ、グループで集まって同じ服を着ること(コンサートなどで)を指していました。例えば下の人は、〔女性アイドルの戦慄かなの〕に気づいてもらうために、量産型ヲタクを「したい」と話しています。
実際、#量産型ヲタクというハッシュタグは、他のヲタクとつながるために使われることもあります。例えば、下の投稿者は、莉犬という歌手(70万人以上のフォロワー)のファンで、Twitterで#量産型ヲタクと繋がりたいなどのタグを使って、一緒にドレスアップするファンを探しています(下の服はその通り)。どんなコーディネートでも量産型オタクになり得ますが、特に下の画像は分かりやすいと思います。パステルカラー、毛先をゆるく巻いた髪、ブラウン系のメイク、推しのアイドル・歌手のチャームや写真、うちわなどが、典型的な「量産型オタク」のスタイルです。
量産型女子というバージョンもよく似ていて、〔量産型女子〕を使う場合は特に、上で説明したようなファッションスタイルをしている場合があって、「量産型ヲタク」と意味がほぼ同じです。しかし状況によってヲタクと使い分けをすることもあります。ファッションや言葉の流行に興味があり、ネットに強く、かわいいイメージを演出することにこだわる若い女性のことも指します。また、ヲタク版と同様に、「量産型女子」という響きはお世辞にも良いとは言えませんが、この言葉ははっきりとした中傷だというわけでもありません。若い女性が自分のことを「量産型女子」と呼び、ハッシュタグなどを使って、そういうスタイルに興味のある人を探すという使い方が一般的みたいです。やっぱり、自分のことを量産型と自ら呼ぶと知らない人に量産型と呼ばれるなんて全然違うでしょうね。
英語の原文
Next term is one of those words that already existed as a “normal” term but has taken on a secondary subcultural meaning. Outside of the world of slang, 量産型 is just a shortening of 大量生産型 that means “mass production”. Recently though, people have been attaching nouns to 量産型 to indicate that someone is a bit of a trend follower, or that a group of people all dress/act the same.
That is, that they are a “mass produced” human being rather than a distinct individual. Surprisingly though, these combined terms are not necessarily intended to be insulting, although as we shall see they certainly can be. Rather, it is not uncommon for people to refer to themselves as a 量産型-individual (e.g., via a hashtag) to show off their group’s ability to coordinate and style together.
The two common constructions of 量産型+group are 量産型オタク/ヲタク and 量産型女子. The phrase 量産型オタク came first, and was used self referentially among fans of Johnny’s artists and 2.5D musicals to refer to getting together and wearing the same clothing in a group (for a concert etc.). For instance, the person below talks about how they want to “do” 量産型ヲタク so that someone named Kanano will notice them.
Indeed, the hashtag #量産型ヲタク is even used to connect with other, well, ヲタク you can 量産型 with. The poster below, for instance, is a fan of someone who goes by @rinu_nico on Twitter (700K+ followers) and is using tags like #量産型ヲタクと繋がりたい to express their desire to find other fans to dress up with (as per the clothing below). While arguably any coordination can be 量産型ヲタク, I’m using the below image especially because there is actually a specific “量産型ヲタク” style that is associated with the term: pastel colors, slightly curled hair (at the bottoms), brownish makeup, and charms, pictures, or fans of the person/idol/singer you are into.
The version 量産型女子 is quite similar, and can be used interchangeably with ヲタク in some circumstances. Especially when they are using the fashion style I described above. But it also refers to young women who are interested in following trends in fashion and/or language, very online, and care about producing a kawaii image. Once again, like the ヲタク version, despite that “mass produced girl” doesn’t sound flattering I didn’t see any evidence that the term is generally treated as a slur. The word’s use was very commonly by young women referring to themselves as 量産型女子, and using hashtags etc. to find others interested in the style. After all, it may be different to be called 量産型 by somebody you don't know When you call yourself 量産型.
校正・翻訳:渡邊雄介
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