
気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。
今月の1本
『ベルファスト』(原題:Belfast)をご紹介します。
※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。
北アイルランド、ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)。出稼ぎに行っている父さん(ジェイミー・ドーナン)、厳しく愛情深い母さん(カトリーナ・バルフ)らよき家族と大好きな友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、笑顔にあふれ、たくさんの愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。住民全てが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々の中、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる??。
激動の時代に揺れるベルファストの愛と暴力を描く
長い伝統を誇るイギリス演劇界には、上流階級出身だったり、先祖代々俳優だったりするスターがとても多い。王立演劇学校を首席で卒業し、若い頃からシェイクスピア作品で主演を張って名声をほしいままにしてきたケネス・ブラナーも、てっきりそうした人だと思っていた。ところが半自伝的作品という監督作『ベルファスト』を見て驚いた。ブラナーは労働者階級出身で、生まれ育ったのはイングランドやスコットランドではなく、北アイルランドだったのだ。
北アイルランドは複雑な歴史を持つ。元々カトリック教徒の国だったアイルランドを支配下に置いたイギリスが、北部へのプロテスタントの移住を奨励した結果、南アイルランドが共和国として独立した際にもイギリスに残留することになったのだ。残されたカトリック教徒は差別され、これに抵抗する運動が1960年代に興隆。宗教対立を招き、北アイルランド問題(Northern Ireland conflict )と呼ばれ長きにわたる紛争が勃発する。『ベルファスト』は1969年8月、北アイルランドの首府ベルファストに住んでいた当時9歳のブラナー(作品中の名前はバディ)が、プロテスタントの武装集団によるカトリック住民へのテロ攻撃に巻き込まれるシーンから始まる。
興味深いのは、バディの家がプロテスタントであること。これまでこの問題を描いた作品は、カトリック教徒側の視点から描いた作品が圧倒的に多く、プロテスタントは感情を表に出さない「イギリス人」として描かれてきた。しかし本作のバディの家族は喜怒哀楽の表現がストレートで、情に厚い典型的なアイルランド人として描かれるのだ。理不尽な分断によって、彼らはアイデンティティーを否定されてしまうわけだが、本作でブラナーは 改めて 宣言する。「自分はどこに住んでいても、アイルランド人なのだ」と。実際にベルファスト出身だというジェイミー・ドーナンをはじめとするキャストの熱演にも注目してほしい。
『ベルファスト』(原題:Belfast)

Staff ">Cast & Staff
製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー/出演:カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン他/3月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー/配給:パルコ ユニバーサル映画
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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年4月号に掲載した記事を再編集したものです。長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう) ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。
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