多民族の国、アメリカ4地域「北東部/中西部/南部/西部」を徹底解剖!【ENGLISH JOURNAL5月号】

『ENGLISH JOURNAL』2022年5月号の特集は「アメリカ英語大解剖MAP」。50州から成る、The United States of America(アメリカ合衆国)。各州独自の歴史や文化、話される英語など、その個性はさまざまです。日本でも話題になることが多いアメリカについて、「知ったかぶりではない」知識を深めてみてはいかがでしょうか。この記事ではその一部をご紹介。アメリカを「北東部/中西部/南部/西部」の四つの地域に分け、各地域の特徴など日本人が知っておきたい基本情報を、言語学者の飯田泰弘さんに解説していただきます。

アメリカの土台を築いた歴史ある北東部(Northeast)

「アメリカはここ北東部から始まった」と言えるほど歴史がある地域 です。イギリス人がこの地にアメリカの土台となる13植民地を築き、今でも北東部のうち6州を指す呼び名として「ニューイングランド」があります。アメリカ建国時から代々続く家系も多く、「アイビー・リーグ」という名の名門大学群があるので、教養や年収が高い人が多いとされます。

マサチューセッツ州では、ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)などエリート校があるケンブリッジや、今も古い建物が多く残るボストンが有名 です。メジャーリーグのチーム「レッドソックス」の本拠地フェンウェイ・パークは100年以上の歴史を誇り、現在リーグで使用される最も古いスタジアムです。

政治的な注目をよく浴びるのは、ニューハンプシャー州 です。13植民地の中で最も早く独立したこの州では、現在、最も早く大統領予備選挙が行われます。バラク・オバマ元大統領が後に大旋風を巻き起こす「Yes, we can.」を発言したり、ドナルド・トランプ前大統領が初勝利を上げたりと、多くの政治的ドラマを生んでいます。

ニューヨーク州には、自由の女神像やブロードウェーで有名な大都市ニューヨーク市 があり、ファッションや音楽などさまざまな情報を世界に発信しています。ここはかつて、オランダ人入植者が建てた「ニューアムステルダム」と呼ばれる街で、今でもハーレムやブルックリンという地名にオランダの残り香が漂います。 ニューヨーク市にはさまざまな人種・言語・文化が混在し、「アメリカの縮図」 とも言われます。

アメリカの中央に位置する農業・工業の要所、中西部(Midwest)

中西部のイリノイ州には、ニューヨークとロサンゼルスに次ぐアメリカ第3の都市、シカゴ があります。高層ビルが林立し、ビジネス街のイメージを持つシカゴですが、博物館や美術館巡り、熱狂的なファンが集うスポーツ観戦、シカゴ風ピザ(ディープ・ディッシュ・ピザ)といった名物料理の満喫など、さまざまな楽しみ方があります。

また、この街は アイルランド系の人々が多かったこともあり、セント・パトリック・デー(毎年3月17日)のユニークな祝い方 でも知られます。民族音楽を奏でながらの大パレードや、シカゴ川がイメージカラーの緑色に染められるのが有名です。同じくミシガン湖沿いにあるお隣のウィスコンシン州の祝い方も面白く、期間中は「ニューロンドン」の街の名が「ニューダブリン」になります。また同州の ミルウォーキーは、かつてドイツ系移民が多かったことからビール生産が盛ん です。同じ北緯45度前後に位置するということで、札幌とミュンヘン(ドイツ)と一緒に、ビール生産の3大都市として紹介されることもあります。

ミシガン州にはデトロイトがあり、自動車産業で栄えてきました 。2013年に市が財政破綻に陥りましたが、その後は再建が進んでいます。 ただし 、全米一とも評される治安の悪さが問題となっています。

アメリカ一長いミシシッピ川の源は、ミネソタ州にあります。そこから南下して、 トウモロコシや大豆の生産が全米1位のアイオワ州 、全米初のオリンピック開催地セントルイスを持つミズーリ州、といった中部の州を通っていきます。この全米一の大河に沿って、中部の街々を訪れるのも面白いかもしれません。

中南米やアフリカからの文化が入り交じる南部(South)

「南部」と聞いて多くの人が連想するのは、大農園や黒人奴隷の問題 かもしれません。かつてこの地では綿花やタバコの栽培が盛んに行われ、その労働力としてアフリカから多くの黒人が強制的に連れて来られました。この奴隷制度を巡っては、1860年代前半に南北戦争が勃発。公民権運動に尽力したキング牧師が、1968年に凶弾に倒れたのも、南部のテネシー州メンフィスです。

一方でアフリカからの強制移住は、南部にアフリカ料理の要素をもたらしました。 統一的な味が多いといわれるアメリカ料理ですが、南部ではスパイスの利いた料理をはじめ、他の地域にはない味 を口にすることができます。

音楽との関係も深い地域です。 ルイジアナ州ニューオーリンズはジャズの故郷 とされ、テネシー州メンフィスはブルース、ソウル、ロックンロールの街として、同州ナッシュビルはカントリー音楽の街として有名です。ミュージシャンのレイ・チャールズやエルビス・プレスリーも南部の出身です。

リゾート地として名高いのはフロリダ州 です。年間を通して温暖な気候で、多くのスポーツ選手が冬季のトレーニング地にしています。観光業も盛んで、オーランドという都市には、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート、ユニバーサル・スタジオ、シーワールドといったテーマパークが集結しています。

南部地域には、南部のおもてなし(Southern hospitality と呼ばれるおもてなし精神があるとされます。おおらかで思いやりのある人々が、外部から来た人を温かく迎え入れてくれるでしょう。

アメリカ内では歴史が浅く、今もなお成長著しい西部(West)

西部は日本からの直行便も多く、日本人になじみのある街がたくさんあります。カナダに接する ワシントン州にはスターバックス発祥の地であるシアトル があり、イチロー選手が大活躍していたシーズンには、マリナーズの本拠地であるこの街を多くの日本人が訪れました。

カリフォルニア州には映画の街ハリウッドがあるロサンゼルス や、一度はテレビで目にしたことがあると思われる深紅のつり橋、ゴールデン・ゲート・ブリッジで知られるサンフランシスコがあります。西部には移民が多く住むので、外国人に寛容という見方もあります。かつてスペイン領だったことから スペイン語由来の地名が今も見られ、ロサンゼルスやラスベガスがその一例 です。そのため、「天使たち」を意味するLos Angeles のスペルは、語末が英語の「-s」と異なり「-es」になります。 1年を通して温暖な気候のためオフィスでも軽装で、社員みんなが友達のような感覚で働く ようなカリフォルニアの文化は、「のんびり」と見るか、「だらしない」と見るか、アメリカの人々でも分かれるようです。

西海岸地区から少し内陸に向かうと、広大な砂漠や荒野が広がり、 ネバダ州にはカジノが有名なラスベガスが、アリゾナ州には大自然が堪能できるグランドキャニオン国立公園 があります。さらに東に進むとロッキー山脈が横たわる山岳地帯になり、雰囲気が一変します。

商業的な特徴は、シリコンバレーをはじめ、世界的大企業が集結 していることです。GAFAM(Alphabet[Google]、Amazon、Meta[Facebook]、Apple、Microsoft)やYouTube、さらには最近の成長が著しいNetflix、Uber Eats、Zoom といった企業の本社は全て西海岸に集結しています。

特集「アメリカ英語大解剖MAP」はENGILSH JOURNAL5月号で!

これらの4地域で話される英語の特徴については、『ENGLISH JOURNAL』5月号の特集をご覧ください。

[音声DL付]ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2022年5月号
  • アルク

飯田泰弘(いいだやすひろ) 岐阜大学教育学部助教。趣味である映画鑑賞と、中学校から大学までの教員経験を活かし、映像メディアを活用した英語学習や英語教育を考え、発信している。とりわけ、一般の英語学習書には出てこない実例採取が大好き。言語文化学博士(大阪大学)。専門は英語学(統語論)。

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