英会話は、簡単なフレーズでも相手と仲良くなれる!日本にある法人向けの高級アパートメントで外国人滞在客のコンシェルジュをしているKayo(重盛佳世)さんが、楽しいエピソードとイラストと共に、幅広く使える英語フレーズを紹介します。国内の企業で活躍後、40歳を前に長年勤めていた会社を辞めてイギリスのカンタベリーに語学留学し、英会話本を出版したKayoさんのとっておきのコツがいっぱい。第3回は「会話の きっかけ をつかむ」です。
きっかけ に">きれいな富士山が会話の きっかけ に
私がアパートメントのコンシェルジュとして働き始めたころ、滞在中のお客さまの中にちょっと気になる男性がいました。
彼は平日、休日問わず、いつも10時半くらいに現れて、フロントがあるロビーから見える富士山をしばらく見つめてから外出していました。音楽を聞いているようで、私のあいさつにもただほほ笑んで通り過ぎるだけ。
シャイというよりは、「僕に構わないでくれ」という感じだったので、私も無理に話し掛けることはしませんでした。
ある朝、その日はとても天気が良く、富士山がきれいに見えていました。私は彼がエレベーターから出てきたのを見計らい、思い切ってあいさつの後に声を掛けてみました。
It’s a beautiful day today. You can see Mount. Fuji clearly!すると彼はこう返事をして、興奮気味に私のところにやって来ました。今日はとても天気が良くて、富士山がはっきり見えますよ!
Wow, very beautiful. What a lovely view ! Beautiful Mount. Fuji!イギリス人特有のlovely(笑)。私は、「おおっ、やっと心を開いてくれた!それもイギリス人だ!」と心の中で思い、彼とのコミュニケーションにチャレンジすることにしました。すぐさま、こう尋ねてみたのです。わあ、いい天気だ。なんてすてきな景色、美しい富士山だ!
Are you from the U.K.?こんな答えが返ってきました。もしかしてイギリスの方ですか?
Yes, I'm from England!その流れに乗って、こんなふうに会話を続けていきました。そうだよ、イングランド出身なんだ!
私: Actually , I used to live in England.と、こんな感じで、 どんどん話が盛り上がり 、今まで「構わないでくれ」オーラを出していた人と同じ人とは思えないくらい気さくに話してくれました。男性:Where did you live in England?
私:Canterbury, in Kent.
男性:Canterbury is a nice place . I live in London. I'm from Liverpool.
私:Liverpool, that’s the same as The Beatles! So , do you support Liverpool Football Club?
私:実は私はイングランドに住んでいたんです。
男性:イングランドのどこに住んでいたの?
私:ケント州のカンタベリーです。
男性: カンタベリーか、いい所だよね。僕はロンドンに住んでいるよ。出身はリバプールなんだ。
私:リバプールですか、じゃあビートルズと一緒ね!それなら、サッカーはリバプール(チーム)を応援?
その日は仕事に遅れるとかで、そのまま外出してしまいましたが、次の日からは仕事に出掛ける前、フロントでおしゃべりを楽しんでから出勤するようになりました。
イギリスの有名なホテル関係者に紹介してくれた!
彼は有名な舞台演出家。アパートメントの近くにある劇場で来月から公演が行われる劇の演出をしているとかで、日本の有名な俳優たちに稽古をつけていました。
「Kayo、〇〇知ってる?彼女がさあ・・・」と、超有名な女優さんの話をしてくれたりして、おしゃべりのネタは尽きませんでした。
また当時、私はコンシェルジュの仕事と並行して、滞在経験があるイギリス・ケント州のガイドブックを作っていました。この地は日本ではあまり知られていませんが、ロンドンに近いすてきな田舎町です。多くの人に知ってもらいたくて、地元の環境局にも 協力 してもらい、5年の歳月をかけて本にまとめていたのです。
そのことを彼に話したところ、いたく共感してくれて、「イギリス人としてぜひ 協力 したい!」と、さまざまな 情報やアドバイスをくれました 。
しかも、偶然にも、私のガイドブックで取り上げていたある有名な村のホテル経営者の娘さんが、彼の当時の恋人だったのです。そこは、イギリス王室をはじめ世界のセレブ御用達の有名なホテルでした。
彼は、自分がその娘さんのボーイフレンドであることを自慢気に話し、あるとき、Skypeで彼女と連絡を取って、そのまま私につないでくれました。彼女は「ガイドブックができたら、ぜひ連絡して!いっぱい宣伝してあげるわ」と言ってくれたのです。
私は思いがけなく超有名ホテルの娘さんと話ができて、さらに 自分のガイドブックのPRもできた のでした(笑)。
この演出家との日々の会話は、イギリスのローカルな話題や劇の話で、とても充実していました。いつしか、私の方が彼との会話を楽しみにするようになっていたのです。
Good luck !ではなくBreak a leg!">舞台関係者には Good luck !ではなくBreak a leg!
そんな楽しい日々が1カ月くらい続き、劇の開演の日がやって来ました。初日の朝、彼はちょっと緊張気味。私は余計なことは言わず、ただこう言って彼を送り出しました。
Break a leg!Break a leg! は、直訳で「脚を折れ!」ですが、これは、 パフォーマンス(演劇、演奏、スピーチなど)をしようとしている人に、「そのパフォーマンスがうまくいくように幸運を祈ります」 という意味を込めて掛ける言葉です。頑張ってね!/幸運を祈っています!
普通だったら、 Good luck ! (頑張って!/成功を祈ります!)を使いがちですが、このようなシチュエーションでは絶対に禁句!舞台関係者の間では、 公演の前に出演者に向かって Good luck !と言うと、その逆のbad luckが起こるから、縁起が悪く不吉 だという迷信があるそうです。
実はこれ に関して は、私には痛い経験がありました。イギリスに滞在中、友人が劇に出るということで、 Good luck !と声を掛けたところ、「縁起が悪いことを言わないで!」とこっぴどく怒られました。その失敗のおかげで、今回はこの演出家に正しい言い方ができたのです。
ちなみに 、イギリスで私が失敗したときに周囲にいた友人たちに言われたのですが、間違ってもBreak your legs!と言ってはいけません。これだと単純に 「骨折しろ!」という意味になり、「頑張れ!」と励ますつもりが、逆効果 になってしまいます(笑)。
劇に招待してくれたときの紳士的な言葉
さて、初日の翌日、彼がいつものようにフロントにやって来たので、早速声を掛けました。
How was the first day's performance ?彼は親指を立てて、こう答えてくれました。初日の公演はいかがでしたか?
Good!私はほほ笑んでこう返しました。良かったよ!
That’s great.すると、こんな会話に。それは良かった。
男性:Are you interested in the theater?そうしたら、都合の良い日を教えてくれたら劇に招待すると言ってくれたのです。私はすぐさま、「それは申し訳ないから、自分でチケットを買って行きます。あなたが演出した劇だから、ちょっと興味はあったの」と返事をしました。私:Yeah! I often went to the theater when I was a student, and I went to the theater many times in England.
男性:演劇に興味はある?
私:ええ、ありますよ。学生時代はたまに劇を見に行っていたし、イングランドでも劇場に何度も足を運びました。
すると、彼はほほ笑みながら、こんなことを言ってくれたのです。
I’m glad you’re interested in my play. Let me invite you to come and watch it, if you don't mind. Actually , other people have invited their family and friends, but I don't have any friends in Japan, which is kind of sad. Would you come to the theater as my special friend here?なんとうれしい言葉でしょうか! ロンドンの有名な演出家の友人として、彼の演出した劇に招待される とは、私にとって夢のような話でした。何よりも、彼のこの紳士的な言い回しにグッときてしまいました。私は素直にお礼を言って、彼のご好意を受けました。あなたが私の劇に興味を持ってくれてうれしいです。よろしければ、劇に招待させてください。実は、他の人たち(周りのスタッフたち)は家族や友人を招待しているのですが、私は日本に友人がいないので、寂しく思っていました。私の日本での特別な友人として、劇場に来てくれませんか?
このやりとりは、彼の退去日の3日前のことでした(演出家の仕事は公演前までが勝負で、公演が始まると すぐに 帰国するそうです)。
お礼の贈り物のモチーフはやっぱり・・・
退去の日、私は 劇のお礼にと、手紙と2つの贈り物 を用意しました。一つは富士山が刺繍されたしおり(bookmark)。台本に挟んで使ってほしいと思ったからです。そしてもう一つは富士山の模様のピンバッジ(lapel pin)。
彼は毎朝、ロビーから 富士山を眺めるのが好き でしたから、そのときのことを思い出してほしいと、富士山をモチーフに選びました。
彼はこれらの贈り物をとても喜んでくれて、 すぐに ピンバッジを自分のジャケットに着けて、こう言って去っていきました。
These will remind me of my wonderful memories here. When I return to London, I can show off that I got these from a Japanese friend!コンシェルジュとして働き始めたころの私にとって、彼はとても思い出深い滞在者となりました。これからこれを見るたびに、ここでのすてきな思い出が浮かぶよ。ロンドンに戻ったら、これらを日本の友人からもらったと自慢できる!
そしてその1年後、富士山のピンバッジを帽子に着けた男性がフロントにやって来て、笑顔でこう声を掛けてきたのです。
Hi Kayo, I'm back!Kayo、また来たよ!
Kayoさんの本
▼「道案内」や「外国人とのちょっとしたコミュニケーション」ができるようになる一冊。中学レベルの短いフレーズでOK!「日常のあるあるシーン」から英語を楽しく学べます。オリンピック・パラリンピックを前に、ぜひ!
- 作者: 重盛 佳世
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2014/04/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
文・2点目イラスト:Kayo(重盛佳世/しげもり かよ)
40歳を前に長年勤めていた会社を辞めてイギリスのカンタベリーに語学留学し、現地での生活に引かれて、その後も滞在を繰り返す。その間、語学学校での学習を自分流にまとめた英会話本「 アラフォーOL Kayoの『秘密のノート』 」シリーズを出しながら、 同時に 現地のガイドブック作りにも励み、電子書籍で出版。現在は執筆の傍ら、日本で外国人向けアパートメントのコンシェルジュとしても活躍中。