アメリカで大きな存在感を示す「ラティーノ」の人々。また、アメリカほど多くはありませんが、日本にもラティーノたちは暮らしています。アメリカ国内の地域を中心に、ラティーノたちの普段の生活が垣間見えるスポットを紹介します。案内人は、ラティーノ文化を専門とする研究者で多文化コンサルタントの三吉美加さんです。
!Hola!(オラ!)皆さん、こんにちは!もうすぐそこまで夏がやって来ていますね。夏休みにアメリカへご旅行される方もいらっしゃることでしょう。機会があれば、ぜひラティーノたちの生活を生で見てみませんか。
▼「ラティーノとは?」は第1回記事で確認!
gotcha.alc.co.jpラティーノが住む地域は「barrio(バリオ)」
ラティーノたちが住んでいる場所を「barrio(バリオ)」と言います。スペイン語ですが、アメリカではラティーノでない人にも通じるようになってきています。英語のneighborhoodの意味ですが、独特なニュアンスがあるので、 ラティーノたちは英語を話しているときも、barrioはスペイン語のまま用いることが多い ようです。例えば次のように使われます。
East Harlem is my barrio.(ニューヨーク市の)イーストハーレムが私のバリオです。
People always help each other in my barrio.どこか誇らしげな印象です。スペイン語の辞書では「居住区」「地区」「町」などと訳されますが、それではせっかくのニュアンスが抜け落ちてしまって、少し残念なのです。日本語の「ふるさと」を英語でhometownと訳したときに日本語話者が感じる味気なさに似ているかもしれません。私の住むバリオでは、人々はいつも助け合います。
barrioという言葉には、その地区に対するたっぷりの愛着や愛情の含みがあります。ラティーノたちにとってのmy barrioは、どんなときにも帰ってくるとほっとするようなかけがえのない場所なのです。
アメリカ中にあるバリオ
今では アメリカの50州全てにいくつものバリオがあります 。場所によって、特定の国から来た人で占められていたり、異なる場所から来た人が混住していたり、比較的新しい人たちばかりがいる場所だったりとさまざまです。
西海岸のロサンゼルス周辺には、圧倒的にメキシコ系が多いバリオとして有名な場所がいくつかあります。実は、これらのバリオの中には、エルサルバドル系やグアテマラ系の人たちも多く混住しています。
一方、東海岸のニューヨーク市周辺には、古いプエルトリコ系のバリオやドミニカ系のバリオがそれぞれ分かれて存在しています。
また、ワシントンDC周辺にはエルサルバドル系、フロリダ州マイアミ周辺には古くからのキューバ系が住んでいて、コロンビア系、ペルー系、ホンジュラス系、プエルトリコ系などが多いバリオもあります。
このように、場所によってどの集団が多いかは異なります。メキシコ側の国境に接する州では当然、メキシコ系や中米系が多いですが、東海岸側の都市部ではカリブ海出身の人たち、つまりプエルトリコ系、ドミニカ系、キューバ系が多数派になります。
アメリカへご旅行の際は、現地の人にバリオの場所を尋ねてみてくださいね。人の暮らしが見えるバリオでは、スーパーマーケットに行ったり、教会や学校の周辺を歩いたり、ランチタイムに人気のある大衆食堂で食事をしたりするのがおすすめです。ラティーノたちの日常生活が垣間見えますよ。週末でしたらfarmers’ market、ラッキーならfiesta(お祭りやパーティー)に遭遇するかもしれません。
アメリカのラティーノ・スポット
それでは、アメリカ(合衆国)にある有名なバリオとラティーノ・スポットをいくつか紹介していきましょう。
Los Angeles(ロサンゼルス)
ロサンゼルスは18世紀にスペイン人入植者によって建設された街 です。その後のメキシコの建国に伴い、その支配下に入ります。ロサンゼルスがアメリカの地となるのは、米墨戦争(Mexican-American War、1846-48)の最中に優勢になったアメリカがこの地を占領したことが きっかけ です。メキシコ系の人たちのなかには、ロサンゼルスを「 temporarily occupied by the U.S.A.(アメリカに一時的に占領されている)」と説明する人も少なくありません。
オルベラストリート(Olvera Street)界隈
オルベラストリート界隈はかつての経済の中心地ですから、ロサンゼルスの街の起点とも言えます。歴史が学べる博物館や古い時代の建物があり、メキシコ系のすてきな工芸品や伝統的なお菓子を売る露店が多く、観光客でいつもにぎわっています。
グランドセントラルマーケット(Grand Central Market)
新鮮な野菜や果物を売る店、軽食を提供する露天商が集まっていて、ラテンアメリカの珍しい食材も売っています。メキシコ料理、ホンジュラス料理、エルサルバドル料理などさまざまなラティーノの食事を味わえます。
庶民的でとてもフレンドリーな場所です。働いている人も食べに来ている人もラティーノ率が高くなっています。
イーストロサンゼルス(East Los Angeles)
古いメキシコ系のバリオとしてとても有名な場所です。5世代以上前からずっとここに住んでいるという人も多い地区です。昼間はとても静かで、のんびりとしています。
古書店、タトゥーショップ、庭などにメキシコ系らしさが感じられます。壁画アートも見逃せません。メキシコ系の人たちのバリオには、アステカ文明にまつわるシンボルがよく描かれています。
ニューヨーク市(New York City)
ニューヨーク市のバリオはコンパクトで歩き回りやすい ので、特におすすめです。
イーストハーレム(East Harlem)
「スパニッシュハーレム」として知られます。ミュージカルや映画の『West Side Story(ウエスト・サイド物語)』の舞台となった地です。
プエルトリコ系バリオとして知られ、最近はドミニカ系やメキシコ系住民もかなり増えていますが、プエルトリコの旗を掲げたアパートメントが目立ちます。近くには、ラティーノのアートや地区の歴史、文化を紹介するEl Museo del Barrioという博物館もあります。
夏の週末には、どこからかサルサやレゲトンが大音量で聞こえてくるはずです。
▼「ラティーノ音楽」についてはこちら!
gotcha.alc.co.jpワシントンハイツ(Washington Heights)
マンハッタン島の北部に位置し、「ニューヨーク市にあるドミニカ共和国」と称される全米最大のドミニカ系コミュニティー。特に、181ストリートやセントニコラスアベニューから歩いてみてください。週末は近隣からやって来るラティーノの買い物客でごった返しています。
珍しい果物やドミニカ共和国産のコカ・コーラ(アメリカのものとは味が違うらしいです)を売る店まであります。威勢のよいドミニカのスペイン語やスパングリッシュ(Spanglish)が飛び交っています。
クィーンズ区(Queens)のジャクソンハイツ(Jackson Heights)からコロナ(Corona)
現在、ニューヨーク市で最も多文化な地域の一つで、ラテンアメリカのさまざまな国の出身者に出会えます。プエルトリコ系とドミニカ系はもちろん、メキシコ系、コロンビア系、ペルー系、グアテマラ系、キューバ系、ベリーズ系、ホンジュラス系などが多めです。レストラン、バー、露店などにお国柄を見ることができます。
マンハッタン島から地下鉄のNumber 7(7系統、フラッシング線)に乗ってクィーンズ区のジャクソンハイツに達したら、適当にどこかの駅で降りて、頭上の線路に沿うように歩いてみましょう。とにかくぶらぶら歩くのが楽しいです!
男性におすすめしたいのは、床屋で髪を切ることです。ラテンアメリカの各国はやりのヘアスタイルにしてくれます。店頭に髪型のイラストが置いてありますから、指し示すだけでOKです。気に入ったら、チップをはずんでくださいね!
マイアミ(Miami)
マイアミは残念ながら日本からの直行便がないため、日本の方にとってはマイナーな場所ですが、ラティーノ度合いが高い場所の一つです。 マイアミの人たちは自らマイアミを「The Capital of the Americas」と称しています 。確かに、「南北アメリカ大陸」の中心地ですね。
リトルハバナ(Little Havana)
マイアミのダウンタウンの西側に位置します。キューバ革命直前から、マイアミへはキューバから逃げてきた人(初期は特に富裕層)が大勢いました。彼らの移住が進むに伴い、バリオが形成されていきました。1960年代にこの地区はキューバ系バリオとして知られていました。今では観光バスも立ち寄るマイアミ有数の人気観光スポットです。
中心部は、生活感があふれる場所というよりは商業的な雰囲気があります。ゆっくりキューバの音楽を聞いたり、お酒や葉巻を楽しんだりと、落ち着いた大人の場所といった印象です。中心地から少し離れたところを歩いてみると、キューバ系の人々の日常の暮らしが見えてきます。昼間の公園では、年配の男性たちがドミノを楽しんでいますよ。
インターネットでバーチャル旅行
お出掛けの予定がない方におすすめの楽しみ方があります。 Google マップのストリートビュー を使いながら、実際に旅しているような気分で、この記事で紹介した場所の映像をチェックしてみてはいかがでしょうか。お好みのラテン音楽をかけて、ラムやテキーラあるいはココナッツジュースを片手に!
「Google Travel」「Expedia」「TripAdvisor」などにアップされている写真や情報を見るのも楽しいですよ。
日本国内のラティーノ・スポット
日本にもラティーノたちがいますよ!一番多いのはペルー系の人たちです。 ちなみに 、中南米地域出身者では、ブラジル系(ラティーノではありません)が一番多いです。 日本在住の中南米地域出身者はブラジル系が約18万人、ペルー系はその3分の1ほど と考えられています。
数が 少ない ので、アメリカのようにここがバリオだと呼べる場所はまだありませんが、最近では中南米やカリブ系のフェスティバルが増えてきています。都市部では、ラテン音楽のクラブ、メキシコや中南米系レストラン、雑貨店などもありますので、探してみてください。東京の中心部では渋谷、恵比寿、六本木に多くあり、また横浜などにサルサ、クンビア、バチャータ、メレンゲなどが踊れるクラブもあります。
日本社会の多文化化はますます進んでいます。その中には日本に生きるラティーノたちももちろん含まれます。
ラティーノたちの生活や文化を見ていると、 オープン(open-minded)で分け隔てがない( inclusive ) という印象を強く受けます。こういったことは、これからの日本社会にとても必要なことでしょう。「なじみがないから分からない」と線引きをするのではなく、日本の社会を理解するためにも、ラティーノの人たちと交流したり、文化に興味を持ったりしてみませんか。
ラティーノを知るための本
アメリカのラティーノの概要と、5大ラティーノ集団(メキシコ系、プエルトリコ系、サルバドル系、キューバ系、ドミニカ系)の移住の歴史や社会について解説している、三吉美加さんの本です。
文・写真:三吉美加(みよし みか)
多文化コンサルタント。文化人類学の視点から、さまざまな顧客に対する配慮やサービスの仕方、 具体的な プランを提案している。ライフコーチングおよびタロットリーダーとしても活動。東京大学大学院学術研究員(文化人類学)。専門は米国・カリブ海地域のラティーノ・黒人文化、移民。 「1000時間ヒアリングマラソン」 の「カルチャー再発見」コーナー担当コーチ。
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
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