「blackfishing」「cultural appropriation」ってどんな意味?【2018年を表す英語】

今では当たり前に使われている言葉も、その年の出来事や世界情勢の変化によって生まれました。本記事では、2018年にアメリカとイギリスで流行した言葉やオックスフォード英語辞典に登録された言葉をご紹介します。新語と流行語ができた背景を探り、世界がどのように変わってきたのかを振り返ってみましょう。

※この特集記事では、2010~2019年にアメリカとイギリスで流行した言葉や新しくできた言葉を、2019年からさかのぼってご紹介します(6回にわたり、2020年12月11日、12月21~25日に公開)。

2018年の主な出来事

日本

  • 平昌五輪で最多メダル獲得
  • 映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭で パルムドールを受賞
  • 「18 歳成人」改正民法成立
  • 大坂なおみさんが全米オープン優勝
  • カルロス・ゴーン氏を逮捕
 

海外

  • 米朝史上初の首脳会談
  • 米中貿易摩擦が激化
  • アメリカがイラン核合意を離脱

Word of the Year【2018】

American Dialect Society (ADS)とOxford University Press (OUP)がそれぞれ選んだアメリカとイギリスの「その年を表す言葉」を紹介します。
US

tender-age shelter

アメリカのドナルド・トランプ政権は2018年、違法に国境を越えた移民をすべて起訴するという「不寛容政策」を打ち出しました。メキシコから国境を越えてやって来る人たちのうち、適正な入国書類を持たない家族については、赤ちゃんや幼い子どもを引き離し、親と別々に収容する対応を取りました。そしてこの年の言葉として選ばれたのが、そうした子どもたちが収容された施設の名称 “tender-age shelter”(子ども向けの移民収容センター)でした。センターは少なくとも3カ所あり、収容された子どもは数千人に上ったとされています。さらには、まるでおりのような環境で、虐待を受けるなど過酷な環境だったと報じられました。

Some newspapers described tender-age shelters as a form of kidnapping.

一部の新聞は、子ども向けの移民収容センターは誘拐の一種だと説明した。

UK

toxic

日本語で「中毒の、有毒な」を意味する言葉ですが、近年、その使用範囲が広がっています。これまでは、文字どおり有毒なもの(ガス、化学物質など)を表現する言葉として使われていました。しかし最近は、「人間関係」や「文化」「政策」など、形のないものに比喩的に使われるようにもなりました。例えば、toxic relationship で「有害な人間関係」という意味になります。とりわけ2018年には、前年に女優アリッサ・ミラノさんの呼び掛けで始まったSNS上での#MeToo運動(セクハラ告発運動)を受けて、toxic masculinity(「 男はこうあるべき」のような有害なステレオタイプに基づく男らしさ)などの表現で、この単語が多く使われました。

To break the toxic relationship , I decided to leave the company.

有害な人間関係を断ち切るために、私は会社を辞めることにした。

List 【2018】">Short List 【2018】

大賞には選ばれなかったものの、最終選考に残った単語やフレーズも、その年を表す重要なものです。その中からいくつかをピックアップしてご紹介します。
US

blackfishing

黒人ではない人種(主に白人)の人が、SNSで黒人のふりをすること。インフルエンサーとしてスポンサーから商品を受け取っていた女性が、実は黒人ではなかったことで問題になりました。大した問題ではないと考える人がいる一方で、「黒人として自分たちが受けてきた苦しみをわかっていない」と反発する声も少なくありません。

A Canadian writer began noticing the trend of blackfishing on social media.

あるカナダ人ライターが、ソーシャルメディアで黒人のふりをするトレンドがあることに気付き始めた。

racially charged

chargedは、「興奮した、感情的に高ぶった」という意味です。直訳すると「人種的に興奮した」という意味で、つまりは「人種差別主義者」を遠回しに表現する言葉です。このような婉曲(えんきょく)表現はやめて人種差別だとはっきり言った方がいい、という意見もあります。

The phrase “racially charged” is used to describe language that suggests racism but is not clearly racist.

「racially charged」というフレーズは、人種差別を示唆しているが明確にそうとは言えない言葉を説明するときに使われる。

shithole countries

トランプ大統領は2018年1月、エルサルバドル、アフリカなどからアメリカに来る移民の問題について話し合っていた際に、「なぜshithole countries(肥だめのような国)からこれだけの人たちが来るんだ?」と発言したと報じられました。国のリーダーらしからぬ発言のニュースは、瞬く間に世界中で報じられました。

Trump doesn’t deny calling African nations “shithole countries.”

ランプは、アフリカ諸国を「肥だめのような国」と呼んだことを否定していない。

UK

gammon

gammon(ガモン)は本来、イギリスで食べられている豚肉の薫製のことですが、2018年は「右傾した思想を持つ中年の白人男性」を表現する言葉として使われました。政治の話をムキになって顔を赤らめて話す様子がガモンに似ているため、こう言われるようになったようです。軽蔑的な表現のため、使用には気を付けましょう。

“Did you see the topical debate program last night? It was absolutely rammed with gammon.”

「昨晩のディベート番組を見た?ガモンであふれかえっていたよ」

incel

involuntary celibate(望まない禁欲主義)の略語で、慢性的に恋愛相手や性的なパートナーを得ることができないネット民を表現する言葉です。近年は、自分がインセルなのは女性が悪いとして女性嫌悪が過激化したため、インセルに関連した「板(スレッドのまとまり)」を閉鎖したオンライン掲示板もありました。

He’s become popular on YouTube as a celebrity incel, but apparently he has a girlfriend.

彼はセレブのインセルとしてYouTubeで人気になったが、明らかに彼には彼女がいる。

orbiting

メリアム・ウェブスター英英辞典に2017年に加えられたghosting(恋人などと突然連絡を絶つこと)と似ていますが、orbitingは本来の意味である「軌道を描いて回る」のイメージどおり、完全に連絡を絶つことはせず、SNSで「いいね!」をしたり簡単なやりとりをしたりはしても、実際に会ったり話したりはしない状態を指しています。

“Orbiting” is a new dating trend that’s even more frustrating than “ghosting.”

「orbiting」は「ghosting」よりもさらにいらいらさせる新しい交際のトレンドだ。

New Words【2018】

毎年、オックスフォード英語辞典(OED)に新しく掲載される単語は数え切れないほどあります。その中から、特に興味深いものを厳選してご紹介します。
me time

「自分として過ごす時間」という言葉からも想像できるとおり、仕事やほかの人のために過ごすのではなく、独りでのんびりと好きなことをする時間を意味します。仕事と家族に時間を費やすことが多い女性が、自分のためだけに使う時間として、女性誌などで使われたのが始まりでした。

“I need some me time.”

「私は自分だけの時間が必要です」

cultural appropriation

日本語では「文化の盗用」などと呼ばれます。社会的または民族的少数派の習慣や芸術を、支配的な社会集団が勝手に、または不適切に取り入れることです。cultural appreciation (文化の評価)だと言って擁護する声もあり、議論が続いています。

The fashion industry has faced repeated accusations of cultural appropriation in recent years.

近年、ファッション業界は文化の盗用だと非難されることが続いている。

snowflake

単語そのものは「雪の結晶」という意味ですが、2018年には「 すぐに 感情的になり立腹する若者、自分は特別に優遇されるべきだと考える若者」という意味が加えられました。1999年の映画『ファイト・クラブ 』が出どころとされていますが、2010年代によく使われるようになりました。

“She can’t take any criticism; she’s a snowflake.”

「彼女はどんな批判も受け止めることができない、彼女はsnowflakeだ」

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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年1月号に掲載した記事を再編集したものです。

松丸さとみ フリーランス翻訳者・ライター。学生や日系企業駐在員としてイギリスで計6年強を過ごす。現在は、フリーランスにて時事ネタを中心に翻訳・ライティング(・ときどき通訳)を行っている。訳書に 『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』 (日経BP)、 『限界を乗り超える最強の心身』 (CCCメディアハウス)、 『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』 (サンマーク出版)などがある。
Blog: https://sat-mat.blogspot.jp/
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