本当に英語を上達させたいなら、これからは「朗読」。英語トレーニングの一つである「音読」との違い、朗読の効果などを、バイリンガルアナウンサーで英語朗読家の青谷優子さんにお話しいただきます。
朗読とは、聞き手の心に届けること
音読は英語学習では大切だと言われています。では「朗読」は?
朗読とは そもそも 何か?まずはそこからお話ししましょう。朗読とは、「コトバを音で表現すること」。また、「ページの上に寝そべった文字を音声で立ち上がらせ、聞き手の心に届けること」だと思っています。
つまり、朗読とは「聞き手へ届ける音読」なのです。
音読はいわば朗読の一つ前の段階、つまり準備運動のようなものです。まずは声に出して文章を読んでみましょう。
音読をする際は、黙読で読み飛ばしてしまいがちな「発音」や「正確な訳」をしっかり調べましょう。「わからない」をあぶり出していく 作業 です。
何度も音読を繰り返していくと「わからない」をなくしていくことができ、徐々に区切る箇所もわかってきて、英文のリズムを耳で感じられるようになっていきます。単語を音という「感覚」で体得することができるのです。
それができたら「朗読」へ移行します。朗読と音読の一番の違いは、朗読には必ず「聞き手・観客」が存在するということです。音読は一人でもできますが、朗読には自分の読んでいるものを聞いてもらう「相手」が必要です。
聞き手がきちんと理解してくれるように読み届けるためには、自分が一方的に理解するだけではもちろんダメ。自分が理解した言葉や文字を、シンボルではなく、「イメージ」「映像」という形に変換して届けなくてはいけません。
イメージを意識すると、音の響きが変わる
音読を何度も繰り返していくと、初めはぼんやりとしかわからなかった文章から、イメージ、つまり 具体的な 形が見えてくる瞬間があります。言葉そのものが持つ映像を意識する瞬間です。「light feather(軽い羽根)」と「heavy stone(重い石)」を例にとってみましょう。
まずは、二つを正確に声に出してみてください。
次に、頭の中で「軽い羽根」や「重い石」を想像しながら読んでみましょう。
文字だけを意識して声に出す場合と、実際に軽い羽根や重い石をイメージして読み上げる場合とでは、音の持つ響きが違いませんか?
文字だけを意識した場合、light feather も heavy stone も同じようにフラットに聞こえてきます。頭の中でつづりを想像している人もいるかもしれません。
それに対してふわふわの羽根を想像したときに発した声は、軽い少し高めの音になるのではないでしょうか。また、重そうな大きな石を想像すると、力の入った低めの声が出るかもしれません。
このように、声に「イメージ」や「映像」が込められたメッセージは、聞き手に L-I-G-H-T F-E-A-T-H-E-R というシンボルではない、軽い羽根の映像が届けられます。つまり、「伝わる」のです。
朗読で、英語の意味が体に染み込んだ
聞き手に「伝わる」音を出すことのできる人は、表情や表現力が豊かです。
私の英語朗読の原点は、子ども時代に過ごした英国・ロンドンの小学校の Jenny Miles 先生の読み聞かせでした。
声優のように声色を変え、音楽を奏でるようにさまざまな表現を使う。そんな朗読を聞いていると、英語はまだ全然わからないのに「あ、きっと悪者のせりふだ」「おや、新しい 展開 か?」と推測することができるのです。
でも、次第にそれだけでは物足りなくなっていきました。目を輝かせて聞いている級友たちのように、先生の読み聞かせをもっと楽しみたい!と思うようになり、先生の読んでいる本を買ってもらい、家で読むようになりました。
先生の朗読を聞いているので、本を黙読しても先生の声が脳内で再現されます。登場人物が泣いたり笑ったり、叫んだり、歌ったりしていきます。
脳内で聞こえてくるこうした声は、「文字」ではなく「映像」や「感情」として記憶されるため、意味を感覚で理解できるようになっていきました。
また、先生をまねして声に出して読むようになると、不思議と英語が聞き取れるようになっていきました。声に出すことによって耳や口で記憶するせいか、使える単語や表現も増えていき、さらには自然と英語の文章も書けるようになっていきました。私の英語力は Miles 先生の英語朗読によるものだと、今でも 感謝 しています。
青谷優子の英語読書 Vol. 1
最後に、私にとって思い出の英語本を一冊、紹介します。
Wolves of Willoughby Chase by Joan Aiken
勇敢なおてんば娘ボニーと、物静かで賢いシルビアの従姉妹が繰り広げる少女冒険小説のシリーズ1作目です。Miles先生が「面白いわよ!」と勧めてくださり全シリーズをそろえて帰国しました。
中学2年生で帰国した直後は、ロンドンの学校とのあまりの違いに学校になじむことができませんでした。
同じころ、級友に英国英語を馬鹿にされ(たと思い込んで)、心と口を閉ざし、学校に行っても毎日黙って窓の外を眺める日々を送りました。そんなとき、夢中で読んでいたのがこのシリーズです。
展開 が早くて面白い反面、やや文学的で古い単語が多く使われているため、今、あらためて読むと、中学生でよく読めたな!と驚きますが、当時は物語の世界に必死に逃げ込んでいたのかもしれません。
幸い、夏休み明けには日本の生活にも慣れ、元気に中学生活を楽しめるようになりました。ちょっぴり切ない思い出の一冊です。
- 著者: Joan Aiken
- 出版社: Yearling
- 発売日: 1987/10/01
- メディア: ペーパーバック
こちらもおすすめ!
- 著者: 青谷優子
- 出版社: アルク
- 発売日: 2017/12/25
- メディア: 単行本
文:青谷優子(あおたに ゆうこ)
幼少期をロンドンで過ごす。上智大学を卒業後、NHKに入局。リポーターやキャスターを担当した後、NHK国際放送局(NHKワールド)のニュース番組『NHK NEWSLINE』のメインアンカーとして活躍。並行して英語文芸の朗読番組『Listening Library』の演出・制作・出演を務め、日本文学を海外に紹介した。2015年2月に独立。朗読家、バイリンガルアナウンサー、英語コミュニケーション講師として活躍中。
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
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