リスニングやスピーキングのカギとなるのが英語の発音。日本人が苦手とする発音の代表格「L]と「R」のうち「L」をじっくり解説します。音声付きだから、すぐに耳からも確認できます。

「発音が難しいから英語を話すのは苦手…」ではもったいない! 発音についての数あるお悩みを、英語教師の久保岳夫先生が「音のしくみ」を説明しながら、分かりやすく解決する連載第3回。きっと誰もが気になる、[l] と [r] の違いを取り上げます!

日本人が苦手とする発音の代表格

[l] と [r] といえば、日本人が苦手な英語の発音として有名です。日本語では、明かりの「ライト(light)」、宇宙探査をする「ロケット(rocket)」、両者ともに同じ「ラ行」に置き換えて発音されています。ラ行の発音はローマ字表記では “r” の文字を使って表しますが、実際の発音は 英語の [l] とも [r] とも異なっています 。これから2回に渡り、この日本語にはない [l] と [r] について詳しく見ていきたいと思います。今回はまず、[l] の発音について解説します。

[l] の基本は舌の側面

いつものように、口の断面図などを使って、[l] の発音をする時の口の中の様子を確認しましょう。

図1:[l] 発音時の顔の断面
図2:[l] 発音時の口の正面

図1が顔の断面図、図2が口を正面から見た図です。図1を見ると、舌先が上の歯の裏側にある歯茎についています。肺から上がってくる空気の流れはこの図だけではよく分からないので、図2を参考にしてください。空気が舌に完全にせき止められることはなく、舌の側面を通って口の外に出ている様子が分かるかと思います。このように、 [l] の発音は基本的に「舌の側面」を空気が流れることによって生まれる音 であるということを覚えておいてください。

なお、[l] は息が続く限り継続して発音することができます。発音している間は声帯を振るえさせたまま、つまり「声を出したまま」になります。それでは、練習してみましょう。

練習1

図1、図2を意識して、お手本を聞きながら [l] の発音を5秒間持続させてみましょう。

[lllllllllllllllllllllllllllllllllllll](5秒間)

[l] の発音の基本的な響きを感じられたでしょうか。聞いた印象としては、日本語の「う」や「お」に近い響きがあるかもしれません。

「はっきり聞こえる [l] 」と「はっきり聞こえない [l] 」

ところで、実際に話されている英語を聞いてみると、[l] の発音はどれも同じように聞こえてくるわけではないと気づいたことがありますか。まずは以下の単語を聞いてみてください。

1. lead

2.feel

3.milk

それぞれどのよう聞こえたでしょうか。1 に関して は、比較的はっきりと、日本語の「り」に近いような音だったのではないでしょうか。しかし、2と3はどうだったでしょう。それほどはっきりとは聞こえなかったはずです。実は1の [l] と2、3の [l] とでは聞こえ方がずいぶんと違うのです。

1の [l] は後ろに母音が続き、聞いた印象としては「りー」のようにはっきりとしています。

一方、2と3では、後ろに母音が伴っておらず、1のようにはっきりとは聞こえません。印象としては、日本語の母音の「う」や「お」のような響きが耳に残ります。これはどういうことなのでしょうか。

「はっきり聞こえる [l] 」は「つけて、はなす」

はっきり聞こえる [l] の特徴は、 [l] の発音から続く母音の発音に移行する ことにあります。以下の練習をやってみましょう。

練習2

手本を聞きながら、laという発音を4回連続で発音してみましょう。はじめはゆっくりと、2回目は比較的はやく発音しましょう。

la la la la

[l] から次の母音に移るまでに、口の中がどのような動きをしているかを考えてみましょう。

最初に、[l] の発音をするために、 舌先が上の歯の裏側の歯茎あたりにつきます 。そして肺から上がってきた空気が声の振るえをともなって舌の側面を通って口の外に出ます。それから、歯の裏についていた舌先が 歯茎から離れ 、「ら?」という響きが生まれます。

これが「はっきり聞こえる [l] 」のメカニズムです。簡単に言えば、 歯茎に対して舌先を「つけて」から「はなす」という一連の動きがポイント になります。このことを意識して、練習3に取り組んでみましょう。

練習3

お手本を聞きながら、「はっきり聞こえる [l] 」の発音を練習しましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音してみましょう。

1. look

2. lend

3. block

4. collect

舌の背中のほうを意識する「はっきり聞こえない [l] 」

ここで、先ほど紹介した「はっきり聞こえない [l] 」の発音を含む単語をもう一度聞いてみましょう。

feel

milk

どちらの単語も [l] の後に母音がなく、その代わりに「う」や「お」のような響きが残るのを感じられましたか。これらが「はっきり聞こえなさい [l] 」の特徴です。 では、この時の口の中はどうなっているのでしょうか。以下の図を見てみましょう。

図3:舌の背中が盛り上がった [l]

[l] の音は舌の側面を空気が通って生まれるというのが基本でしたが、この「はっきり聞こえない [l] 」は、 舌の背中の部分が盛り上がって「う」や「お」のような響きが聞こえる というのが大きな特徴といえます。耳に残る印象としては、子音の [l] というよりも何かの母音のようにも聞こえます。練習4で実際に発音してみましょう。

練習4

お手本を聞きながら、「はっきり聞こえない [l] 」の発音を練習しましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音してみましょう。

1. feel

2. milk

3. bottle

4. cold

ちなみに 、この「はっきり聞こえない [l] 」は、舌先が歯茎につく前に舌の背中の部分が盛り上がって「う」や「お」に似た響きが生まれるため、実際には舌先が歯茎につかない状態で発音してしまうことがよくあります。

まとめ

2つの [l] の発音について理解できましたか? それでは、今回学んだことをまとめてみましょう。

●[l] は舌先を上の歯の裏側の歯茎につけ、その舌の側面を空気が通る
●[l] には、「はっきり聞こえる [l] 」と「はっきり聞こえない [l] 」がある
●「はっきり聞こえる [l] 」は声を出しながら舌先をつけて、はなす
●「はっきり聞こえない [l] 」は舌の背中が盛り上がる

2つの [l] は聞いた印象がだいぶ違うので、はじめのうちは意識してしっかり区別するといいでしょう。日本語のラ行ともだいぶ違った印象になったのではないでしょうか。このように、口の中の状態に意識を向けると、[l] の発音が身近に感じられるはずです。

次回は、難しいと言われているもうひとつの音、[r] の発音について解説したいと思います。

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文:久保岳

開成学園英語科講師。専門は英語教育学、英語音声学。学生時代に英語の音声に関心を持ち、英語教師の道へ進む。日本人英語教師として理想の英文朗読を研究している。趣味は英会話、囲碁、ランニング。資格はIPA Certificate of Proficiency in the Phonetics of English(英語音声学技能検定)、英検1級など。

編集:江頭茉里

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