英会話を楽しみたい方のための連載「これだけ!英会話」。「楽しく、ためになる」授業や企業研修に定評のある、東洋英和女学院大学教授の高橋基治さんに、これだけ押さえれば英語で意思疎通できるというポイントを教えていただきます。第3回のテーマは「文法」です。英語的発想をすると、英語が出てきやすくなりますよ!
目次
基本となる文型と付随する語句との関係
第1回の「発音」、第2回の「聞き取り」に続いて、今回は英会話をするための「文法」を取り上げます。
文というのは、どの言語でも一定のルールにのっとって組み立てられています。そこで、英語の文のルールを分かりやすくするために、日本語を使って考えてみましょう。次の4つの文を見てください。
- (1) 学生たちがランチを食べる。
- (2) 大学1年の学生たちが、楽しそうにランチを食べる。
- (3) 同じゼミの大学1年の学生たちが、先生が彼女らにすすめたランチを楽しそうに食べる。
- (4) 同じゼミの大学1年の学生たちが、先生が彼女らにすすめたランチを楽しそうに食べるところが目撃されている。
(1)の文の構造(文型)は、S(主語)が「学生たち」、V(述語動詞)が「食べる」、そしてO(目的語)が「ランチ」ですね。これは、英語になってもそんなに難しくないと思います。
しかし、(4)となると、英語の苦手な人はこの英文バージョンを見たときに、先ほどのSVOの基本構造が核として(4)の文に組み込まれていることをつかめないでしょう。
(2)は、「大学1年の」が名詞「学生たち」を、「楽しそうに」が動詞「食べる」を説明しています。
(3)は、「学生たち」に関する「同じゼミの」という情報と、「ランチ」に関する「先生が彼女らにすすめた」という情報が付け加えられています。英語になると、この(3)辺りから単語や語句同士の関係があやふやになってくる人も多くいます。
そして最後の(4)は、(3)の文全体について、「~のところが目撃されている」ということが追加されています。
「英語が理解できる」とは、単語自体の意味を知っていることも大事ですが、このように、中心となる文型と、それに付随している単語や語句が、意味の固まりを保ちながら濃淡を付けて存在している、という文の仕組みをちゃんと分かっているということです。ただ単に単語が平たんに横並びになっているという捉え方では理解できないのです。
文の仕組みを理解する際にポイントになるのが、「文の要素と品詞の関係」です。つまり、主語(S)、述語動詞(V)、補語(C)、目的語(O)、修飾語句(M)と、それぞれの役割を果たすことができる単語・語句の品詞との関係です。これは、「名詞は、文の主語になったり、目的語として他動詞の後ろに来たりする」といった、「何がどこに来るか」という配置に関しての知識のことです。副詞は、SとVの間や、文の最後、形容詞の前、あるいは to 不定詞の to と動詞の間にも出没します。あちこちに移動できて、文の中での座りという点で落ち着きがないんです。
英語ができる人ほど基本をおろそかにしない
このような文型(5文型)、英文の構成要素、品詞といった英文の 仕組み に関する基本をきちんと理解しないまま、なんとなく中学や高校の英語の授業を乗り切ってきたという人がかなりの数います。いかがですか。自信を持って自分は大丈夫と答えられますか?
実を言うと、英語ができる人ほど、ここでお話ししたような基本がちゃんと身に付いていて、英文を分析的に見ることができるのです。疑問やあやふやな点があれば、面倒くさがらずにすぐに調べます。再確認も怠りません。
そして、できない人ほど、そんなことはもう知っている、いまさら面倒くさい、しかも英語を話したり聞いたりすることとは関係ない、と感じています。こう思っている限り、あるところから英語力が伸びなくなります。また、意味の解釈を間違えたり、まとまった話をしたり聞いたりすることが苦手になってしまいます。
もし、自分が当てはまると思ったら、初心に返って、英文の骨組みに当たる文型(5文型)、英文の構成要素、品詞を徹底的に見直してください。遠回りのように思えるかもしれませんが、これは実は英語という外国語を使いこなす上で外せないポイントなのです。学習に最適な教材を、この記事の最後に掲載していますので、取り組んでみるといいでしょう。
文型と発想の関係
ここで、文型が英語を使う上で役に立つ例をお話ししたいと思います。
「私は英語の教師です」を英語にしなさいと言われると、日本ではI am an English teacher.とSVCの第2文型で答える人が圧倒的に多いです。もちろん間違いではありませんが、これが英語を母語とするネィティブスピーカーの場合、I teach English.とSVOの第3文型を使う人が多くなります。こちらの方が、彼らの思考フレームにすんなりと入ってくるのです。
実は、英語という言語は、SVOの型が一番多いと言われています。「昨日は雪がたくさん降った」なら、Snow was ...ではなく、We had a lot of snow yesterday.の方が自然な言い方になります。これは、英語が、人間、時には物や事が主語になり、行為や動作など動きのある動詞が、後ろにある目的語に働き掛ける「する」型の言語だからです。一方、日本語は状況や状態を客観的に描写する、動きの伴わない「なる」型の言語で、日本語話者は「~は・・・だ」のように「A=B」を好むと言われています。
英語は「する」型、日本語は「なる」型 という話が理解できると、現在時刻を聞きたいときに言う「今、何時ですか?」がWhat time is it?よりもDo you have the time?、相手の職業を知りたいときの「お仕事は何をされてますか?」がWhat is your job?よりもWhat do you do ?の方をそれぞれよく耳にする理由も分かってくるはずです。
どうですか?このように頭で納得したことは、記憶の奥深くに定着して、なかなか忘れません。また、自分でも使えるようになります。単に暗記したものはすぐに忘れてしまいますから、納得しながら学んでいくことはとても大切です。
SVOの第3文型を使えば経済的
英語の日常会話というのは通常、2、3語から成る意味の固まりを、文法ルールにのっとって、付け足したり修正したりして、言葉を重ねながら進んでいきます。いつもきちんとした英文で話しているわけではありません。多くの場合は、テニスの試合のように、短い意味の固まりを相手と打ち合って、ラリーしながらテンポよく進めていきます。
日常会話でSVOの型が使えると、話すエネルギーの節約ができて、会話のリズムも軽快になっていきます。例えば、「この部屋にはエアコンがありません」であれば、「~はありません」から There aren’t any air conditioners in this room. という文がまず思い付くのではないでしょうか。もちろんこれでも問題ありませんが、いかんせん、長過ぎます。会話の「間」が乱れて相手がイライラしてしまうでしょう。ここは、This room has no air conditioners. とSVOを使えば、同じ意味のことが言える上に、単語数も8語から6語に減り、発音のエネルギーと発声の時間ともにかなり軽減できます。
もうちょっと複雑な文で考えてみましょう。例えば、「テストの結果を知ってがっかりした」はどう言えるでしょうか?教科書的には I was disappointed when I found out the test result. となりますね。でも、これも、「テストの結果」を主語にしてSVOの第3文型にすれば、The test result disappointed me. と、単語数も10語から5語に減り、かなりすっきりします。
では、ここでクイズです。次の英文を、SVOを使ってすっきりした英文にするには、どうしたらいいですか?
その医者の急患に対する処置は非常によかった。
【△】 The doctor’s treatment of an emergency patient was very good.
主語の部分が頭でっかちなので、他動詞 treat (~を扱う、対処する)を使ってSVOの形にすると、次のようになります。
The doctor treated an emergency patient very well.
こちらの方が、主語と動詞の距離が近いため、自然にすんなりと理解できますね。いかがですか?
「顔が広い」「片思いしている」もSVOの発想で簡単に言える!
では、今度はもっと日常に密着した表現を、SVOを使った発想転換の観点から紹介します。次の2つの日本語を英語にしてみてください。
「山田さんは顔が広い」「私は涼真に片思いしている」
直訳しても通じにくい例です。また、どんな単語や表現を使えばいいのか、なかなか思い付かないのではないでしょうか。
そこで、「山田さんは顔が広い」は、「山田さんはたくさんの人と知り合いだ」→「山田さんはたくさんの人を知っている」と考えてみましょう。すると、次の英文にできます。
山田さんは顔が広い。
Mr. Yamada knows a lot of people.
これでOK。十分通じます。
もう1つの「私は涼真に片思いしている」は、「私は涼真を気に入っているが、彼はそうではない」と考えて、次のように言えます。
私は涼真に片思いしている。
I like Ryoma, but he doesn’t like me.
これで意図するところは問題なく伝わります。
最初は発想的に慣れないので難しく感じるかもしれませんが、第3文型で言えることであれば、be動詞を使ったMr. Yamada is ...やI’m ...といった第2文型を使わない方が英語らしい言い方になる場合が多いと知っておくといいでしょう。こういう視点を持って、日常会話でよく使われる表現に注目して「気付き」を得ることで、英語による表現力の幅が広がっていきます。
というわけで、改めて、文型(5文型)、英文の構成要素、品詞といった英文の仕組みを復習してみることをおすすめします。
英語の「文法」におすすめの本
高橋基治さんの本
- 作成:2019年5月7日、更新:2024年9月27日
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