
韓国で販売累計部数38万部突破、5年連続「両親への贈り物 推薦図書」第1位(韓国大型書店にて)を獲得した一冊『Mommy Book』をご存じですか?本書はお母さんが自身の考えや思い出、悩み、子どもへのメッセージを書き込み、最終的に子どもへと渡すことで完成するライティングブックです。
このたび、アルクの新刊として本書の日本版が発売!編集担当の峯山麻衣子さんに『Mommy Book』の魅力をたっぷりと聞きました。
お母さんが著者となり、書き込むことで完成する本


お母さんは書き込んだら、最終的に本を子どもに渡します。質問への回答を通して、 子どもが今まで知らなかったお母さんの人生や考えについて知ることができる というコンセプトの本です。






Q「お母さんはどんな20代を過ごしたの?」A「働きながらあなたのお父さんと嫌というほどデートしていた」
「英語学習のアルク」で本書の出版を実現させるまで




コロナ禍で地方の両親と会えない日々が続く中、母が糖尿病をこじらせて片目を失明させたのです。すごくショックで、「 いるのが当たり前だった母も老いるし、いつかいなくなるんだ 」と痛感しました。 同時に 「会えないままの別れになったら、後悔する」とも。話し足りないし、母の人生がどんなものだったか語れる自信がないなと。ちょうどその時期、会社としても英語ジャンル以外の書籍も企画してよいことになり、日本語の『Mommy Book』があったら母も書けるのに、書けるうちに書いてほしいと思い、絶好のタイミング!と提案しました。
かなりの私情で企画してしまったわけですが、母としての私、子どもとしての私と同じような思いでこの本を手に取ってくれる方がほかにもいるだろうと思いました。後に知ったことですが、韓国の版元で『Mommy Book』を作った編集者の方は、お父さまが脳卒中で倒れたときにこの本のアイデアを思い付いたのだそうです。韓国には両親を特に敬う文化がありますが、 日本にだって愛はあるぞ と。


ですが、韓国での評判や、 この本があることの意味、プレゼントブックとして上製本の格にこだわりたい ことなどを丁寧に説明していって、企画を実現することができました。
印象的だったのは、企画を通すための要所要所で、普段淡々と仕事を共にしていた社内の女性の先輩方が背中を押してくれたり、助け舟を出してくれたりしたことです。 本書に共感してくれる人はいる という実感もだんだんと強くなりました。
原書の良さを残しながら、日本版を作る


そのため、日本人にとってまだ自然な「お母さん、大好き」としました(それさえも何十年言ってないですが)。ここでいう韓国の「愛してる」と日本の「大好き」は、使われる言葉が違うだけで感情の重さというか気持ちは一緒なんです。こういった表現をどの程度変えるかはよく考えました。
質問内容についても、お母さんが「そんな質問ナンセンス」と不快になることがないよう、 今の日本女性に受け入れられる質問 かどうか は気を付けました 。例えば「お父さんが子どものように見えて、母性愛が刺激されたのはいつ?」という質問がありましたが、父になった夫に子どものように振る舞われることを歓迎しない妻は多いと考えて変えました。ほかにも、家庭内でのジェンダーロールについて固定するような質問も変えています。


変更する部分があった半面、全体としては私も母について疑問に思ったことがある質問ばかりで、国が違えど母に抱く思いは一緒なのだなと感じました。
「知らなかった母の人生」に触れ、心が揺さぶられた


過去を振り返るのは楽しくもつらくもありますが、ありのままを知ってもらった方が娘の参考になると思うので、かっこ悪いことも書いています。気を付けたのは、「こうした方がいい!」と自分の意見を押し付けないということです。娘にも私の意見を取捨選択できる意思を持ってほしいですね。
母に書いてもらって思うのは、ああ やっぱり手紙っていいなということ (笑)。私は人から手紙をもらうのが好きなのですが(たいていポジティブなことが書いてあるから)、誕生日に手紙をくれと言ってもくれない筆不精の母なので、やっとまともな手紙をもらえるのがうれしいです。筆跡が残るのも、母の字が懐かしくていい。
あとは、この本の醍醐味(だいごみ)である「 知らなかった母の人生」や「聞かなければもらえなかった言葉」を聞けるのが最高に心を揺さぶられます 。泣きたいときに見たら3秒で泣けるような。どんな気持ちでこれを書いたかと想像するとさらにくるものが・・・。たまに入っているボケた回答もかわいらしいです。関西のお母さんとかは相当面白い答えをくれるんじゃないかと思います(過大な期待)。

編集担当・峯山さんのお母さまが記入した『Mommy Book』

編集担当・峯山さんが記入した『Mommy Book』


書く立場としては、Q182「 お母さんの人生で、一番の恩人と言える人は? 」でしょうか。この質問への回答を通して、人として魅力的であろうとすると家族以外にも仲間や味方が必ず出現するということを伝えられるなと思いました。
母に聞きたい質問としては、Q127「 お母さんが家族のために諦めたものってある? 」。これまで「母は私たちのためにいてくれる」くらいの気でいたな、母個人のやりたいことに目を向けてこなかったなと気付かされました。母の場合は時代もあって私より捨てたものが多いんじゃないかと思ったり。これからでもかなえられることはかなえてあげたいですね。


聞きたいことをズバッと聞けたり、ユーモアを挟んだりする、韓国らしい良さが出た質問の力を借りてみてはいかがでしょうか。面と向かって聞けない・言えないことも、文字で200ページの中に紛れ込ませるのならば、ハードルが下がると思います。
男性も手に取りやすいようにという思いもあって、ピンクの装丁を避けたので、息子さんもぜひお母さまに渡してみてください。日本の男性はシャイだと言われがちですが、 感謝 や愛情を伝え合って関係が悪変することはそうそうないのに、恥ずかしさや照れが障害になってできないのはもったいないですから。
お母さまやお子さまに『Mommy book』を贈ってくださる方々にとって、本書がなんらかの役割を果たすことを願っています。


ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部 「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌『ENGLISH JOURNAL』が、英語学習の「その先」にあるものをお届けします。単なる英語の運用能力にとどまらない、知識や思考力を求め、「まだ見ぬ世界」への一歩を踏み出しましょう!
『ENGLISH JOURNAL BOOK 2』発売。テーマは「テクノロジー」
現在、ChatGPTをはじめとする生成AIが驚異的な成長を見せていますが、EJは、PCの黎明期からITの隆盛期まで、その進化を伝えてきました。EJに掲載されたパイオニアたちの言葉を通して、テクノロジーの歴史と現在、そして、未来に目を向けましょう。
日本人インタビューにはメディアアーティストの落合陽一さんが登場し、デジタルの時代に生きる英語学習者にメッセージを届けます。伝説の作家カート・ヴォネガットのスピーチ(柴田元幸訳)、ノーベル生理学・医学賞受賞のカタリン・カリコ、そして、『GRIT グリット やり抜く力』のアンジェラ・ダックワースとインタビューも充実。どうぞお聴き逃しなく!
【特集】PC、IT、そして、ChatGPT・・・パイオニアたちの英語で見聞する、テクノロジーの現在・過去・未来
【国境なきニッポン人】落合陽一(メディアアーティスト)
【スピーチ&インタビュー】カート・ヴォネガット(作家/柴田元幸訳)、ケヴィン・ケリー(『WIRED』創刊編集長、未来学者)、レイ・カーツワイル(発明家、思想家、未来学者)、ジミー・ウェールズ(ウィキペディア創設者)、アンジェラ・ダックワース(心理学者、大学教授)、【エッセイ】佐藤良明