同時通訳と逐次通訳【通訳の現場から】

同時通訳と逐次通訳【通訳の現場から】

イラスト:Alessandro Bioletti

プロ通訳者の関根マイクさんが現場で出くわした、さまざまな「事件」を基に、通訳という仕事や通訳者の頭の中について語ります。もちろん、英語学習に役立つ通訳の技もご紹介。通訳ブースの中のあれやらこれやら、てんやわんや、ここまで言っちゃいます!

今回から4 年目に突入した本連載ですが、執筆者のテキトーすぎる性格がしっかりコンテンツに反映されているというか、通訳を知る上でとても重要な同時通訳と逐次通訳の違いを説明していませんでした(36 回も機会があったのに!)。今回は単なる教科書的な違いではなく、実務視点での違いやトリビアを説明したいと思います。

複数で行う同時通訳

同時通訳は高度な集中力を要するので、通常はチームを組み、15 ~20 分で交代しながら進行します。8時間程度の案件ですと、3 人で通訳することが日本では基本です。「日本では」と書きましたが、これは日本独自の慣習であり、欧米では終日案件でも2 人でこなすのが普通です。

ですから海外クライアントが日本で通訳者を手配するとき、3 人体制で料金を見積もられて、「なんでこんなに高いんだ! 3 人も要らないだろ!」と憤慨することがあると聞きます。国内の大手通訳会社が昔始めた慣習らしいのですが、決してお金をふんだくってやろうという意図ではなく、通訳者の疲労への配慮だそうです。

欧米では、フランス語やスペイン語などの俗ラテン語から派生したロマンス諸語や、英語やドイツ語などのゲルマン諸語のような、文章構造が似ている言語同士の通訳が多いため、同時通訳がしやすいのに対し、例えば英語と日本語は文章構造が劇的に違うので、より高い集中力と思考能力を必要とするから、というのが理由です。

英語は主語の後にすぐ動詞が来るパターンが多いので発言の趣旨がすぐにわかりますが、日本語だと発言の最後まで趣旨が不明確な場合があるので、そもそも相性がよくない言語ペアなのかもしれません。

たまに海外エージェントの依頼を受けて外国で2 人体制の同時通訳をすることがありますが、午後3 時過ぎくらいからもう疲れが目立ってきます。単に私が運動不足なだけかもしれませんが。

パートナー問題とブース問題

以前に台湾在住の通訳者と話したとき、彼は「台湾では自分の同時通訳パートナーは自分で手配するのが普通だ」と言っていましたが、これにはとても驚きました。日本の通訳者は、通常はエージェント(通訳会社)に登録して依頼を受けるので、自分でパートナーを選ぶ余地はほぼありません。もちろんエージェントは個別の案件や人間関係に配慮してパートナーを選択してくれますが、繁忙期は通訳者がとにかく不足するので、実力不足の通訳者や、周りの人間に配慮できない通訳者と一緒に仕事せざるを得ない状況もしばしば生じます。通訳の仕事だけでも疲れるのに、現場でいろいろこじれてストレスを溜めてしまうこともあるのです。私に対してイライラした通訳者もいることでしょう。

同時通訳では全神経を耳に集めて作業できるように、通訳用のブースが準備されるのが基本です。ブースといってもフルスペックの大きな箱ブースから、簡易ブースといって、前半分しか囲われていないようなものもあります。簡易ブースだと自分の声量をコントロールしなければならないので、私のように大きな声を持つ通訳者はとても仕事がしにくい。「生耳同通(なまみみどうつう)」という、発話者の声を直に聞きながら訳出する、環境的に最高難易度の同時通訳もあります。通訳者はある程度の経験を積むと生耳同通から、そして人によっては簡易ブースからも引退する傾向があるようです。疲労度が高いので、当然といえば当然なのですが。

逐次通訳のテクニック

逐次通訳では発話者が話し終えた後に訳出するので、同時通訳と比べて時間に余裕があるのですが、そのぶん訳文の流れと美しさの期待値が上がります。同時通訳だと聞き手は「まあ同時にやってるんだから仕方ないよな」と許してくれそうな訳も、逐次では見逃してくれません。私が主戦場としている法務分野では正確性が最優先なので、刑事事件における一部手続きを除き、原則として逐次通訳しか認めていません。

法務分野では意味の幅をあまり持たせずに直訳する傾向があるのに対し、ほかの分野では意訳の能力がモノをいう状況が結構あります。過去にも書きましたが、通訳業界では「逐次に始まり、逐次に終わる」と言われるほど逐次通訳は難易度が高い。しかしだからこそ、訳者の技術やスタイル、機転が試されるのです。話者が重要人物の名前や日付を間違えたらきちんと訳でフォローしたり、マーケティング系なら商品やサービスを持ち上げるような訳をして場を盛り上げるのもプロの仕事のうちです。

逐次通訳は1 人、拘束時間によっては2 人体制になることもあります(海外では、逐次通訳は長時間でも1人が普通)。話者の発言の後に通訳者の発言が続くので、ただでさえ時ごしていると時間がもっと無駄になってしまい、評価が下がります。例えばIR 通訳(上場企業と投資家間の通訳)の案件は通常1 時間程度ですが、通訳者のテンポにより投資家が質問できる数にかなり差が出ます。正確性はもとより、テンポよく訳出していくことも同じくらい大事なのです。

正確かつスピーディーに訳すためには優れた通訳技術に加えて、メモ取り(ノートテイキング)技術も必要です。長い発言は要点と論理構造をしっかり書き留めておかないと、後で再現することが難しくなります。ただし効果的なメモの取り方について日本の通訳学校で教えることが少ないようです。通訳研究が比較的進んでいる欧米でもまだ体系的な理論が完成していない中、通訳研究後進国の日本ではそもそもきちんと教えられる人がいないのが現実です。そういう私も100%我流です。メモは書き過ぎたら話に集中できないのでダメ、書き足りないと情報不足でこれまたダメ、その間の適切なバランスを探すのが難しい。メモ取りはそれ自体が一つの職人芸といっても過言ではないと思います。

最後に告知を一つ。私が所属する日本会議通訳者協会が今年、日本初の「同時通訳グランプリ」を開催します。申し込みは学生の部、社会人の部ともに4 月15 日(日)まで。予選ラウンドを経て6 月に東京外国語大学で決勝戦を開催します。私は勝手に通訳の「天下一武道会」と呼んでいます(笑)。詳細は協会サイト(http://www.japan-interpreters.org/)で。読者の皆さんの参加をお待ちしております!

関根マイクさんの本

同時通訳者のここだけの話

同時通訳者のここだけの話

  • 作者:関根 マイク
  • 出版社/メーカー: アルク
  • 発売日: 2019/02/18
  • メディア: 単行本
 
通訳というおしごと

通訳というおしごと

 

文:関根マイク( せきねまいく)

フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」(http://blogger.mikesekine.com/

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年4月号に掲載された記事を再編集したもので す。