コンビニ病院【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

少し前のこと、頭痛に悩まされた。頭の右後ろにずーんと間欠的に痛みが走ったのだ。

ラッキーなことに、私はこれまで頭痛とはほとんど無縁であった。それが、今回はこれまでの分がまとめてきたかのように痛んで、治まる気配がない。

市販の痛み止めは効いたが、薬が切れるとまた痛む。夜中にも目が覚めて、その後痛みで眠れない。

医者に行くことにした。日本でなら、どの医者に行っても構わないわけだが、アメリカでは違う。自分の保険のネットワークに加入している医者に行かないと法外な診療代を取られることになるから、医者選びは慎重にしなければいけない。ネットワーク内に頭痛の専門医を見つけたので電話してみたが、どこもfamily doctor(主治医)からの紹介がないとダメだと言う。

主治医なんていないし・・・と途方に暮れていたら、ZoomCare(ズームケア)というクリニックが私の保険のネットワークにあるのを見つけた。

これは、チェーン形式のクリニックだ。ウェブサイトにアカウントを作り、サイト上あるいはアプリで予約を取る。私の家から20分圏内にクリニックが2つあった。それぞれのクリニックでその日に診察している医者の顔写真と共に、予約可能な時間帯がある。都合のいい場所と時間を選んで、あとはそのクリニックに時間どおりに行くだけだ。

アメリカの医者は予約制で、その日に予約が取れることはまずない。どうしてもすぐに診てもらいたかったら、urgent care という救急専門のクリニックに行って延々待つしかない。が、ズームケアにはその日の予約の空きがいくつもあった。こんなに簡単に当日の予約が取れるというのは画期的である。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

予約の時刻にズームケアへ。ショッピングセンターの一画にあるクリニックだ。ガラス張りの待合室には椅子がいくつかと、シンプルなカウンター。その上にはモニターがあって、15分刻みの時刻の横に、予約を入れた患者の名前が示されている。

カウンターの向こう側でノートPCをカチャカチャやっている受付係にID を見せ、クレジットカード情報を渡してチェックイン完了

予約時刻になったら、やはりノートPCを手にしたドクターが登場。診察室へと案内してくれた。いろいろと問診をしてはPCにカチャカチャと打ち込み、体温だの血圧だのを測る。従来なら、ここらへんはナースの仕事で、その後にドクターを呼びに行き、患者は20分くらい平気で待たされ・・・というのが普通なので、「え、ドクターが直々に血圧測ってる!」と驚いた。15分刻みの予約の割にはきちんと話を聞いてくれて、その後、注射をしましょう、という段になったらナースがどこからともなく現れた。

おそらく肩や首の凝りからくる緊張型頭痛、とのことで筋肉弛緩(しかん)成分の入った薬を処方された。これも普段なら行きつけの薬局に処方箋が送られ、準備ができたかどうか確認してから取りに行って・・・という段取りを踏むのだが、ズームケアではその場で薬が買えた。よく使う一般的な薬は、クリニックにストックが置いてあるのだろう。具合の悪いときに薬局まで足を運ぶのはしんどいこともあるから、これは助かる。

診察後の支払いは、事前に登録したクレジットカードで。レシートはメールで送られる。次の予約を取る必要がなければ、あっけないほどにあっさりと解放される。

ズームケアでは、すべてがカジュアルであった。ファストフードっぽいというかコンビニっぽいというか。精密検査が必要だったり、専門医による診察が必要だったりという場合には向かないだろうが、軽いケースや健診などはこれで十分だ。

ズームケアのウェブサイトでは、医師とチャットができる。1 回25ドル。ちなみに、診察してもらってから1週間以内なら無料。診てもらうほどではないけれども専門家の意見が聞きたい、というようなときには便利であろう。必要とあらば薬も処方してもらえるとのことだ。

あとで調べてみたら、ズームケアは地元ポートランド発祥の医療システムだと知った。2006年から始まって、今やオレゴン州とワシントン州に37カ所のクリニックがある。複雑な医療保険の仕組みに戸惑ったり、診察を受ける前に費用の説明が無くて後から来る高額な請求書にビックリしたりしている利用者に、もっとわかりやすくて親切な医療を提供したいという思いで、2人の医師が始めたそうだ。ウェブサイトには、医療費の一覧が掲載されている。明朗会計というわけだ。実際、私が2度目に受診してCTスキャンをしたときには、事前に費用の説明があった。

私の頭痛は、3週間続いた後に収束した。原因はわからずじまいだが、まあ体のあちこちに不調が出てくる年頃なのだろう。頭痛がひどかったときに、わらをもすがる思いで電話した神経科医の受付係は、「いちばん早い予約は4カ月先ですがどうします?」と事もなげに言った。ズームケアは、そんな旧態依然とした医療現場に風穴を開けたいという試みなのであろう。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年1月号に掲載された記事を再編集したものです。