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シェイクスピアにみる「心臓の鼓動」のリズム―『ロミオとジュリエット』で体感する英詩の世界

リズムで学ぶ英語の世界

文法、語彙、発音などの影に隠れて、英語の「リズム」を習得する大切さは、多くの英語学習者の盲点となりがちです。英語という言語にとって「リズム」がいかに大切かについて、俳優そして英語教育者として活躍されている岩崎MARK雄大さんと一緒に考えていきましょう。

勢いよく喋っている英語ネイティブを思い浮かべてみてください。映画やドラマのワンシーン、または実体験でも構いません。一言一言は思い出せなくても、何かそこにグルーヴ感、ビートのようなものを感じたことはありませんか?勢いがついてくると、このビートに合わせて首を前後させる人もいます。ハイスクールドラマなどでは、首で喋っているかのようなノリが強めのキャラクターが必ず出てきます。

実はこのビートのようなもの、英語という言語がもともと持っている強弱のリズムなのです。英語が持っているリズムの正体。それを見つけるために、まずは日本語のリズムを少し見てみましょう。

「きらきら星」という歌があります。日本語と英語、両方の言語で浸透している歌の中でも最も有名なものの1つです。この歌の日本語版の歌詞は次のように始まります。いま声を出せる環境でしたら、ぜひ小さな声で口ずさんでみてください。

きらきらひかる

よぞらのほしよ

まばたきしては

みんなをみてる

もとはフランス民謡ですが、この7拍子(+1拍休み)のリズムは、日本語でも詩で親しまれてきたリズムです。この歌が口ずさみやすく、いつまでも印象に残るのは、このリズムが日本人に馴染(なじ)むからかもしれません。

では次に、同じ歌の英語版の歌詞を見てみましょう。

Twinkle twinkle little star

How I wonder what you are

Up above the world so high

Like a diamond in the sky

並べてみると、先ほどの日本語の歌詞と比べて、長さも形もバラバラなのが分かります。リズムの全く違う日本語と英語。では、こちらの英語の歌詞は、メロディに対してどのように割り振られているのでしょうか。そのカギとなるのが、英詩のリズムです。

英詩における「リズム」って何?

前回の記事では、日本語と英語のリズムの違いを簡単に紹介しました。日本語は8拍を基調にした五七調。そして1文字あたり1音。英語は「ター」と「タ」の強弱長短を使ったスウィングのリズム。そして、1音節あたり1音という仕組みになります。

この「音節」というのは、英語でsyllableと呼ばれ、簡単に説明すると「母音を核とした音のかたまり」です。先ほどの英語の歌詞を音節で分けるとこのようになります。

Twin/kle/ Twin/kle/ Lit/tle/ Star

How/ I/ won/der/ what/ you/ are

Up/ a/bove/ the/ world/ so/ high

Like/ a/ dia/mond/ in/ the/ sky

このsyllable、ネイティブの子供はリズムとセットで物心つく前から親しみます。そして、小学校で日本の子供が漢字を覚えるように、新しい単語のspelling(つづり)を覚えながらそれぞれのsyllableを身に付けていきます。英語辞書には必ず載っているので探してみてください。この音節が、英語では1音分のリズムとなります。

ではこの音節ごとに分解した文に、さらに強弱を当てはめてみましょう。

Twin/kle/ Twin/kle/ Lit/tle/ Star

How/ I/ won/der/ what/ you/ are

Up/ a/bove/ the/ world/ so/ high

Like/ a/ dia/mond/ in/ the/ sky

法則は見えましたか?この詩ではそれぞれの行が、「」のリズムで構成されています。「」が強く長い音「ター」、「弱」が弱く短い音「タ」です。書き出すと次のようになります。

ターターターター(タ*)

ターターターター(タ)

ターターターター(タ)

ターターターター(タ)

*休符

この繰り返しが、英詞のリズムです。

英詩のリズムを作り出す韻律って何?

この「ター」と「タ」のリズムにはいくつか種類があり、それぞれに名前がついています。英詩では、この「音節の強弱のパターン」と「その強弱パターンが何セットあるか」の2つの特徴で詩の形式を分類しています。この考え方が英詩の韻律(metre)です。強と弱の組み合わせの基本パターンの6種類のうち、ここでは代表的なもの4つを例とともに紹介します。

1. 弱強「タター」 (iamb)[The Sonnets No.18, William Shakespeare]

ター|タ ター|タ ター|タ ター|タ ター

Shall/ I/ com/pare/ thee*/ to/ a/ sum/mer’s/ day?

ター|タ ター|タ ター|タ ター|タ ター

Thou/ art**/ more/ love/ly/ and/ more/ tem/per/ate.

*thee=you **art=are (それぞれ初期近代英語で使用されていた語法です。)

2. 強弱「タータ」 (trochee)[“Jack and Jill”, English traditional nursery rhyme]

タータ|タータ|タータ|タータ|タータ|タータ|ター

Jack/ and/ Jill/ went/ up/ the/ hill/ to/ fetch/ a/ pail/ of/ wa/ter

3. 弱弱強「タタター」 (anapest)[“A Visit from St. Nicholas”, Clement Clarke Moore]

タ タ ター | タ タ ター | タ タ ター | タ タ ター

'Twas*/ the/ night/ be/fore/ Christ/mas/ when/ all/ through/ the/ house

タ タ ター | タ タ ター | タ タ ター | タ タ ター

Not/ a/ crea/ture/ was/ stir/ring/, not/ e/ven/ a/ mouse;

*'twas=it was の短縮形

4. 強弱弱「タータタ」 (dactyl)[“Lucy in the Sky with Diamonds”, The Beatles]

ター タ タ | ター タ タ | ター タ タ | ター タ タ | ター タ タ | ター (タ) タ | ター タ タ | ター

Pic/ture/ your/self/ in/ a/ boat/ on/ a/ ri/ver/ with/ tan/ger/ine/ trees/ and/ mar/ma/lade/ skies.

このように、英語の詩では強弱のリズムを組み合わせることで、いわゆる「語呂がいい」リズムを作ります。そして、このリズムの1セット分を”meter(歩格)”と呼びます。

つまり、1つ目のiamb(弱強)の詩では、1行に5セット「タター」があるので、pentameter(5歩格)となり、韻律はiambic pentameter(弱強5歩格)となります。2つ目のtrochee(強弱)の詩では、7セット「タータ」があるので、heptameter(7歩格)となり、韻律はtrochaic heptameter(強弱7歩格)。

ここでmeterの前に来るのはギリシャ語の数字で、1から順にそれぞれmono(1), di(2), tri(3), tetra(4), penta(5), hexa(6), hepta(7), octa(8)…と続きます。よって、3つ目の詩はanapestic tetrameter(弱弱強4歩格)、4つ目はdactylic octameter(強弱弱8歩格)となります。

これらのパターンの種類と歩格の数を合わせたものが、英詞の韻律なのです。

英詩の定番リズム「強弱5歩格」(iambic pentameter)って何?

なかでも特に人気の韻律は、iambic pentameter(弱強5歩格)と呼ばれるリズムです。

このiambicのリズム「タター」は、人間に一番馴染(なじ)みやすい心臓の鼓動のリズムです。馬の駆け足のリズム(パカッパカッ)に喩えて説明されたりもします。

歴史的には、ラテン語やイタリア語の詩のリズムから英語に取り入れられ、1300年代後半からの600年間で書かれた英詞のうち、実に4分の3がこのリズムで書かれていると言われています。

そして、1500年代後半から1600年代初頭まで活躍したイギリスの詩人で劇作家・演出家・俳優のウィリアム・シェイクスピアの作品も、このiambic pentameterを基調として書かれているのです。

シェイクスピアで「強弱5歩格」を体感する

さて、おそらくほとんどの方が一度は名前を聞いたことがあるこのシェイクスピア。『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』など、題名や物語が有名な作品がありますが、全てもともとは戯曲、つまり上演のために、劇の台本として書かれた言葉です。今でこそ古典文学などと言われていますが、当時シェイクスピア劇は流行の最先端。今のハリウッドのマーベル映画のような大ヒットエンターテインメントでした。

そんなシェイクスピアの時代には、照明も豪華な舞台美術もありません。俳優の言葉と観客の豊かな想像力だけで、劇場に空想の世界を広げていました。そうなると大事なのが、言葉です。詩の形式で書かれた力強い言葉のリズムは、その音楽性で劇世界のスケールを押し広げてくれたのです。

そのシェイクスピアの台詞で採用されているのが、先ほど紹介したiambic pentameter(弱強5歩格)のリズム。その1例として、『ロミオとジュリエット』の有名なバルコニーシーンの冒頭を見てみましょう。ジュリエットに一目惚(ぼ)れをしたロミオが屋敷の裏庭に忍び込み、2階の窓辺にジュリエットを発見した瞬間の台詞です。「タター」のリズムを意識して読んでみてください。

ター | タター | タター | タター | タター

But soft, what light through yonder* window breaks?

(バットソフト|ホワットライト|スルーヨン|ダーウィン|ドウブレークス

It is the East, and Juliet is the sun.

(イットイズ|ザイースト|エンドジュー|リエットイズ|ザサン

Arise, fair sun, and kill the envious moon,

(アライズ|フェアサン|エンドキル|ジエン|ヴィアスムーン

Who is already sick and pale with grief

(フーイズ|オルレー|ディシック|エンドペール|ウィズグリーフ

That thou**, her maid, art*** far more fair than she.

(ザットザウ|ハーメイド|アートファー|モアフェア|ザンシー

*yonder=that **thou=you ***art=are

それぞれの行の意味は、英語の語順で並べるとざっと以下のようになります。

だが待て、何の光だ、向こうのあの窓からこぼれるのは?

向こうは東、そしてジュリエットは太陽だ。

昇れ、美しい太陽、そして殺せ、妬み深い月を、

そいつはすでに病んで蒼白くなっている、悲しみで

君が、彼女の侍女が、彼女よりはるかに美しいからだ。

しっかり深く息を吸い込み、喉を楽にして、読んでみましょう。いきなり細かい発音まで完璧にできる必要はありません。まずは強弱のみを優先して、声に出してリズムを感じてみてください。慣れてくると、言葉のリズムが深い呼吸を引き出し、絵画を描くように情景が描かれていきます。さらには、このリズムを繰り返していくと、どんどん心拍数が上がるように、勢いがついていきます。それが、シェイクスピアの呼吸、英詩のリズムです。

まだまだ語りたいところですが、今回はここまで。次回はこの英語のリズムを感じ、英語の呼吸を身につけるためのポイントや練習方法を紹介していきます。いよいよ実践編。一緒に楽しく英語のリズムを刻んでいきましょう!

岩崎MARK雄大

岩崎MARK雄大(イワサキ マーク ユウダイ)東京大学文学部(英米文学)卒業。NY出身。在学中より俳優として活動するほか、演劇や英語を利用した教育や国際的な社会活動にも意欲的に取り組み、通訳やイングリッシュコーチとしても活躍中。令和2年度神奈川県児童福祉審議会推薦図書『さくらまつ』(銀の鈴社)英訳。NODA・MAP『フェイクスピア』に出演。
https://kakushinhan.org/