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大人の女性に「cute」というのは失礼か?英語で使いこなす「カワイイ」

カワイイの奥深き世界

ハローキティやポケモンなど、今や世界中にファンを持つ「カワイイ文化」。その魅力は英語の「cute」や「beautiful」には収まらない奥行きにあります。この連載では、社会学をご専門とする遠藤薫さんと「カワイイ文化」の真髄に迫ります。

▼前回の記事はこちら

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パンダの双子の赤ちゃん、誕生おめでとう!

2021年6月23日、上野動物園でパンダのシンシンが出産しました。生まれた赤ちゃんは双子で、信じられないほど小さいですね。でも、数ヶ月もしたら、かわいさ満開となることでしょう。図1は、2017年に生まれたシャンシャンです。2歳のときに上野動物園で私が撮った写真ですが、本当に奇跡のようにかわいかったです。

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図1 上野動物園のシャンシャン(2019.2.8上野 撮影は遠藤)

パンダはcute?

さて日本では、パンダを形容する最も一般的な形容詞はもちろん「カワイイ」でしょう。では、英語圏ではどうでしょうか?Google Ngram Viewer*1で調べてみると、図2のような結果になりました。“cute panda”, “adorable panda”, “pretty panda”, “lovely panda”, “cuddly panda”を比べると、やはり“cute panda”が圧倒的に使われているようですね。

ただ、グラフをよく見ていると、ほかにも興味深いことに気がつきます。まず1970年代くらいまでは、パンダは“cuddly”という単語で形容されることの方が多かったようです。『オックスフォード現代英英辞典』によると、“cuddly”の意味は下記の通りです。

1.(approving) if a person or an animal is cuddly, they make you want to cuddle them.

2.[only before noun] (of a child’s toy) soft and designed to be cuddled.

つまり、「かわいくて抱きしめたくなる」とか「抱きしめたくなるような柔らかい(ぬいぐるみなど)」という感じでしょうか。確かに、パンダってぬいぐるみみたいですよね。

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図2 Google Ngram Viewerで見る「panda」に付く形容詞

また、2010年頃までは、“cute”と”adorable”が競り合っている感じです。“adorable”は、前回も説明しましたが、『オックスフォード英語辞典』には、

Inspiring great affection or delight.

「とても魅力的で、愛さずにはいられない」と定義されています。面白いのは、辞書には“adorable”の同義語としても記されている”lovely”が、パンダの形容詞としては人気を落としていることです。こちらも同辞典で調べてみると”lovely”は、

Very beautiful or attractive.(とても美しい、あるいは魅力的)

と説明されています。パンダのかわいらしさを表現するにはちょっと大人っぽいのでしょうか。このことは、また後でも触れます。図2には影も形もありませんが、実は“pretty panda”、“charming panda”、“smart panda”などについても調べてみました。ところが結果は、「そのような用法は少ないので表示されない」とのことでした。“smart panda”はともかく、“pretty panda”や”charming panda”はあってもいいような気がするのですが、難しいものですね。

cute、pretty、adorable…英語の「かわいい」を使い分ける

ほかの「かわいい」ものたちの形容詞についても見てみましょう。図3は猫(cat)です。パンダと同じく、“cute”が断トツです。でも、2番目はパンダでは“cuddly”であるのに対して、猫では“pretty”です。“pretty”は『オックスフォード現代英英辞典』では、

1.(especially of a woman, or a girl) attractive without being very beautiful

2.(of places or things) attractive and pleasant to look at or to listen to without being large, beautiful or impressive

となっています。「すごく美しいという程ではないけれどきれい」という感じでしょうか。確かにパンダにはあてはまらず、猫にはあてはまる感じですね。同じく、パンダには使われない“smart”(賢い)や“lovely”が、猫には使われているようです。反対に、パンダでは2番目にあがっている“cuddly”(抱きしめたくなる)は猫にはあまり使われていません。もこもこしてぬいぐるみのようなかわいさのパンダと、神秘的な美しさを感じさせる猫の違いが現れているようです。

画僧3

図3 Google Ngram Viewerで見る「cat」に付く形容詞

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図4 かわいい猫(2017.3.17台湾 撮影は遠藤)

次は赤ちゃん(baby)です。図5を見てください。赤ちゃんの場合は、“pretty”が僅かに“cute”を抑えて首位となっています。動物には迷わず“cute”だけれど、赤ちゃんの場合には“pretty”の方がふさわしいという空気があるのでしょうか。3番目が“adorable”、4番目が“lovely”ですね。“adorable”は割と使いやすい、無難な形容詞みたいです。

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図5 Google Ngram Viewerで見る「baby」に付く形容詞

では、現代の「かわいい」の主役ともいえる少女たちはどうでしょう?図6をご覧下さい。びっくりするのは“cute girl”という言い方の頻出度がかなり低いことです。圧倒的に高いのは、“pretty girl”です。“pretty”は先ほども書きましたが、「美しいというほどではないけれど見た目がいい」という意味で、使える範囲が広く、ちょっとした親愛の情を表すのに便利な言葉なのでしょうね。“pretty”の使い勝手があまりによいからか、“lovely“とか、“smart”といった言葉を大きく引き離しています。

ましてや“cute”などは、“pretty girl”の10分の1にも満たないくらいです。

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図6 Google Ngram Viewerで見る「girl」に付く形容詞

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図7 かわいいパン屋さんと少女たち(撮影は遠藤)

少年についてはどうでしょう。図8を見てみましょう。少女への形容と同じく、“pretty”が群を抜いてよく使われているようです。かなり離れて、2位は“smart”、3位が“lovely”です。少女の場合と比べると、2位と3位が逆転しています。4位が“cute”であることも少女と同じです。ただ、少女の場合より、少年の場合の方が、“cute”の存在感が大きいですね。“cute boy”って、どんな少年たちのことなんでしょう。Instagramで#cuteboyを検索すると、人気上位は、図9のような写真でした。マッチョさをあまり感じさせない、今どきのアイドル系な感じです。最近増えてきた表現と言えそうです。

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図8 Google Ngram Viewerで見る「boy」に付く形容詞

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図9 Instagram検索「#cuteboy」(2021年6月29日)

大人の女性に「cute」というのは失礼か?

もっと年齢を上げて、“woman”と“man”だったらどうでしょう?図10を見てください。

女性に対する形容詞としては、“beautiful”が圧倒的ですね。“pretty woman”という使い方は、10分の1程度です。1990年に公開された“Pretty Woman”という素敵なラブ・コメディがありましたが、あの映画でも、“pretty woman”と言う言葉には微妙なニュアンスがありました。

ましてや、大人の女性に“cute”というのはとても少ないようです。Beautiful→pretty→cuteという方向で、賞賛に関する序列が表れているようです。

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図10 Google Ngram Viewerで見る「woman」に付く形容詞

他方、男性への褒め言葉としては、“handsome”が一般的なようです(図11)。“handsome”を『オックスフォード現代英英辞典』でひくと、次のような語義が載っています。

1.(of men) attractive

2.(of women) attractive, with large strong features rather than small light ones

3.beautiful to look at

4.large in amount or quantity

5.generous

主として男性の魅力についての形容詞で、女性に使う場合は、「どちらかというと大柄な女性の魅力」とあって、言葉にも性差があることがわかります。大人の男性に対して“cute”を使うことは極めてまれなようですね。

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図10 Google Ngram Viewerで見る「man」に付く形容詞

言葉に隠された無意識のバイアス

これらの結果からは、言葉に隠された無意識のバイアスが浮かび出てくるようです。

すなわち、“cute”という言葉は、ここに挙げた例の中では、動物の中でも知的活動から遠いイメージのある(実は結構知的能力が高いという説もある)パンダに対して最もよく使われ、知的イメージのある猫では頻度が下がり、人間の赤ちゃんではさらに下がり、年齢の高くなった少年少女ではさらに下がり、成熟した大人になると、女性にも、ましてや男性にはほとんど使われない、ということです。

言いかえれば、伝統的な考え方では世界は、動物であるか、人間であるか、知的であるかそうでないか、未熟であるか成熟しているか、女性であるか男性であるか、などいくつかの軸によって序列づけられており、“cute”やそのほかの形容詞は、暗黙のうちにこの序列を表現しているといえます。図12は、この無意識のバイアスを図に表したものです。

そうしてみれば、大人の女性が、“cute”と言われたら、侮辱されたと感じても当然でしょう。英語圏の人と話すときには、注意する必要がありますね。

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図12 言葉に隠された無意識のバイアス

cuteの語源は?

一方、前回見たように『オックスフォード現代英英辞典』によると、cuteは次のような意味も持っています。

1.pretty and attractive(きれいで魅力的)

2.(informal, especially North American English) sexually attractive(セクシーで魅力的)

3.(informal, especially North American English) clever, sometimes in an annoying way because a person is trying to get an advantage for himself or herself(小利口で、あざとい)

パンダを形容するのにふさわしいとは思えない語義ですね。むしろ、コミックに出てくる、悪役の女ボス(ヤッターマンのドロンジョ様みたいな?)を表現する言葉みたいに思えます。

これは、cuteの語源から来ているようです。cuteは、18世紀に「acute」の短縮系として生まれた言葉だと言われています。『オックスフォード英語辞典』によれば、acuteの意味は、

1.(of an unpleasant or unwelcome situation or phenomenon) present or experienced to a severe or intense degree.(望ましくない状況の程度がひどい)

2.Having or showing a perceptive understanding or insight; shrewd.(鋭敏な理解力や洞察力を持つ、または示す)

3.(of an angle) less than 90°.(角度が鋭い)

今風に言えば、「とんがっている」でしょうか。

そのため、cuteは皮肉な意味で使われることもあるようです。たとえば、『オックスフォード英語辞典』には、こんな例文が載っていました。

The two brothers were cute enough to find a couple of rich women and marry them.

(2人の弟は、2人の金持ちの女性を見つけて結婚するくらい抜け目がなかった)

このような語源も、“cute”という言葉にちょっと「下に見る」ニュアンスがあることと関係があるのかもしれません。

1990年代以降、cuteは変わった?

しかしまた、先ほど示したいくつかのGoogle Ngramからは、こうした無意識のバイアスとは違う“cute”現象も見えてきます。つまり、どのGoogle Ngramを見ても、善かれ悪しかれ、“cute”という言葉は、1970年代あたりまでほとんど存在感がありません。それが急に存在感を示し始めるのは、(前回も指摘しましたが)1990年代に入ってからです。この後、“cute”はぐいぐい出現頻度を高めていきます。そしてそれは、「かわいい」“kawaii”“cute”が、新しい魅力の形として世界中を席巻し始めた時期と一致しています。

その動きを2010年代に入って一気に加速させたのが、、ご存じのようにLady GAGAやKaty Perryたちでした。Lady GAGAの日本好き、kawaii好きは有名ですよね。彼女はセクシーなファッションと同じように、Hello Kittyを着こなします。Katy Perryも、原宿ファッションがお気に入りと公言しています。彼女たちはもちろん、知的で、才能豊かで、パワフルです。一方で、日本からはきゃりーぱみゅぱみゅやBABYMETALなどのアイコンたちが、世界にその魅力を発信し始めました。いままでなかったカラフルでポップでスマートな「かわいい」パワーが花開いたのです。

“cute”は変幻自在

今回は、“cute”という言葉の使われ方について、さまざまな角度から考えてみました。 “cute”=「かわいい」という単純な方程式ではとらえきれない、“cute”の変幻自在な表情をご理解いただけたでしょうか。もっとも、“cute”に限らず、言葉は一般にとてつもない多面性を持っています。言葉は時代によって、状況によっても変わるものなのです。

でも、言葉にはずっと変わらない芯のようなものもあります。それは、日本語の「かわいい」や“kawaii”も同様です。次回はさらに「かわいい」を深掘りしてみましょう。

次回は2021年7月30日(金)に公開予定です。

*1:単語や成句を入力すると、検索した語句が500年近くの間でどの程度頻繁に書籍に出現しているかを折れ線グラフで表示してくれる、Googleが提供しているツールのこと。

遠藤薫

遠藤薫(えんどうかおる)学習院大学教授。専門は社会学で、社会の変化、メディア、文化などを中心に研究。著書に、『ソーシャルメディアと公共性』(東京大学出版会)、『ロボットが家にやってきたら・・・――人間とAIの未来』(岩波書店)、『カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係』(東京電機大学出版局)など。遠藤薫研究室ウェブサイト 遠藤薫研究室ウェブサイト