4人の男女が織り成す愛と裏切りの物語【FILMOSCOPE】

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気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『ソング・トゥ・ソング』(原題:Song to Song)をご紹介します。

※動画が見られない場合はYouTubeのページでご覧ください。

音楽の街、テキサス州オースティン。人生に迷い、何者かになりたいフリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)は、成功した大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)とひそかに付き合っていた。そんなフェイに売れないソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)が思いを寄せる。一方、恋愛をゲームのように楽しむクックは、夢を諦めて貧しい生活を送るウエートレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を誘惑。愛と裏切りが交差する中、思いもよらない運命が4人を待ち受けていた……。

テレンス・マリック監督が創り出す恋愛に揺れる男女の物語

1970年代に若き天才監督と称賛されながら、突如フランスに移住して消息を絶ったテレンス・マリックがハリウッドに電撃復帰したのは、20年後の1998年だった。以来、コンスタントに活動してはいるものの、その作品は商業映画と一線を画している。

というのも、マリックは映画につきものの人工照明や説明的なセリフを嫌うあまり、撮影は日光が平坦になる「magic hour(日が沈んでから完全に夜になるまでの数十分ほどの時間)」に限定し、セリフからは説明的要素を一切省いてしまっているからだ。『シン・レッド・ライン』(1998)や『名もなき生涯』(2019)といった史実ベースの作品ならともかく、困ってしまうのがオリジナルストーリーの作品である。観客はとてつもなく美しい夕暮れ時の映像と、設定が一切語られない物語のはざまで途方に暮れるしかないのだ。

本作『ソング・トゥ・ソング』は後者のパターンの典型のような作品である。一応、テキサスで開催されるロック・フェスティバル「South by Southwest」を背景に、ソングライターと音楽プロデューサー、そしてミュージシャン志望の女性の三角関係を描いてはいるものの、有名ミュージシャンが次々と本人役で登場するにもかかわらずマリックの興味が音楽シーンにないのは明らか。彼が求めているのは、恋愛に揺れる男女の何げないしぐさの一瞬の美しさを捉えることなのだ。

なんでもマリック作品の出演俳優は、自分がどんなキャラクターかを説明されないまま、シチュエーションだけ提示されて即興で演じさせられるらしい。映画のストーリーは、通常とは逆に撮影済みのマテリアル(素材)を編集する過程で創られていくそうだ。「曲から曲」という通常の意味のほかに「気の向くままに」というニュアンスも込められたタイトルSong to Songは、だからこそ本作にふさわしい。ほかの誰が即興撮影からこれほどの映像詩を創り出せるだろうか? やはりテレンス・マリックは天才監督なのである。

『ソング・トゥ・ソング』(原題:Song to Song)

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(C)2017 Buckeye Pictures, LLC
Cast & Staff

監督・脚本:テレンス・マリック/出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマンほか/公開中/配給:AMGエンタテインメント

songtosong.jp

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年2月号に掲載した記事を再編集したものです。

長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。