すべてを理解して覚えなくてもいい!具体部分を「ふわっと」流す読み方

駿台予備学校英語科の大人気講師、神坂明生海(かみさかあきおみ)さんが、脳内に映像のようなイメージを作りながら読む独自のメソッドを使って、英文がどんどん頭に入ってくる読み方を教えます。連載「神坂流!英文読解術」3回目はすべてを覚えようとしない「ふわっと」流す読み方についてです。

まずは「ふわっと」読んでみよう

それではまず、我流で結構ですので、次の記事を「ふわっと」意識しながら読んでみてください。あまり神経質にならなくていいので、気楽に読んでみましょう。

タイトルは敢えて伏せておきますね。

¶1 Researchers have confirmed that hundreds of thousands of years ago, Neanderthals mated with at least four other contemporary species of ancient humans, or hominids, and the evidence lives on in the genes of modern men and women.

¶2 A study published Thursday in the science journal PLOS Genetics shows how researchers from Cornell University analyzed the genomes, the complete genetic "maps," of Neanderthals, a prehistoric human ancestor called Denisovans, and modern humans.

¶3  Analysis of the genomes revealed new evidence of gene flow between these species, bolstering earlier theories that the species intermated. The researchers found 3% of the Neanderthal genome came from interbreeding with other ancient humans that lived at the same time .

¶4 The new study estimates this intermixing happened between 200,000 and 300,000 years ago ― far earlier than previous estimates indicated.

¶5 The researchers also found that 1% of the Denisovan genome contained genetic material that came from an "archaic human ancestor" that was neither human, nor Neanderthal, nor Denisovan. They suggested it came from Homo erectus, an early human ancestor believed to be the first to spread to what is now Eastern Europe and parts of Asia.

¶6 Homo erectus looked much like we do today, but with elongated legs and shorter arms. They are believed to have outlived contemporary hominids, dying out as recently as 117,000 years ago.                      

¶7 The new study suggests that 15% of the genetic pieces that came from Homo erectus have been passed on to modern humans. They suggest it split off from the lineage that would become modern humans about 1 million years ago, which would fit the timeline for intermingling with its contemporary hominid species.   

¶8 The genome for Homo erectus has not been sequenced so it is difficult to precisely figure out how all the different human ancestors got together. But the researchers theorize that migration habits combined with the fact that all four species did overlap for several thousand years make it likely that they intermingled. 

今回のジャンルは文化人類学についてでしたが、どんなことが書いてありましたか?

そもそも 、なぜ「ふわっと」読んでいいのか?"> そもそも 、なぜ「ふわっと」読んでいいのか?

もしかすると、皆さんの中には、私たちが文章を読むとき、「ふわっと」流して読むなどという緩~い読み方などしてよいのか?と思われた方もおられるかもしれません。ましてや英文読解においてはなおさらです。

しかし、脳科学的には「ふわっと」読んで構いませんし、むしろそのように読むべきだ、と言うことができるのです。それは、記憶の容量という観点で理にかなっているからなのです。

皆さんは記憶は保持期間により長期記憶と短期記憶とに分類されているのはご存じでしょうか?

簡単に言うと、長期記憶とはずっと頭の中に残っている記憶で、例えば、皆さんの名前や、誕生日、ご両親のお名前、現在の自分になる きっかけ となった出来事など、忘れることのない記憶です。

それに対して、短期記憶とは十数秒しか頭に残らない記憶で、例えば、ちょうど10秒前に皆さんが読んでいたこの記事の正確な文言です。ちょうどきっかり10秒前です。覚えていますか?覚えていなくても結構ですよ。というのも、短期記憶の90パーセント以上は すぐに 忘れ去られてしまうものだからです。

この短期記憶の定義は、1959年に2人の学者が出した論文の中で発表されたもので、別の研究ではマジカルナンバーという概念とともに言及されました。皆さんの中には、一度に記憶できる数字は「7±2」であるというお話を耳にしたことのある方がおられるかもしれませんが、それこそがマジカルナンバーであり、郵便番号や電話番号の桁数はこれに当てはまります。さらには、一度に記憶していられる意味のカタマリ(チャンクと言います)は「4±1」とも言われています。

私たちが文章を読むときに使う記憶は短期記憶の方なので、文を読みながら一時的に覚えていられる( retention できる)単語は「4±1」です。

ということは・・・英文を読むときは、 大切な箇所(抽象・ 主張 部分)はゆっくり確実に覚えるつもりで、それ以外は「ふわっと」流して読めばよい(無理して頭に叩き込もうとしなくてよい) のであり、すべてを頭に入れようなんて そもそも 無理であるということです。むしろ、英文読解は「ふわっと」流して読むんだ!と割り切って読んでみてください。

この「ふわっと」流して読むという表現は、昨年教えていた学生が授業で扱った英文の読み方を表現してくれたものです。僕と同様、彼ももちろん始めからこの読み方ができたわけではありませんでしたが、 英文を読むときは常に抽象→具体を意識し、具体のサインを常に意識して音読しているうちにこの方法を習得し、超難関大学の英語の問題を難なく読み解くことができるようになった 、とのことでした。 ちなみに 、その大学の英文は「難しくて、長い」と言われていますが、彼に言わせれば、「この読み方のおかげで、長めのまとまった具体例があったら、そこに印を付けて、ふわっと流せるようになった」とのこと。彼の努力の跡がこの言葉からにじみ出ています。

すべてを理解しなくてよい。むしろ、すべてを覚えようとしない。欲張らない。文の意味が多少わからなくても 心配 しなくてよいのです。 見慣れない単語が出てきても、その部分が抽象( 主張 )部分でなければ、全体の理解には大きく 影響 しない 。英文はそのように捉えることにしましょう。

「ふわっと流して読む」を実践してみる

それでは、私たちの短期記憶はチャンクを「4±1」個しか覚えられませんから、そのことを頭に入れ、欲張らず、具体部分(枝葉末節)をズバズバ切って、大切な言葉だけを retention しながら全体を 把握 してみましょう。

各パラグラフの英文は、以下のように頭を働かせてみてください。

¶1 【まずは抽象(= 主張 )のはず!】

Researchers have confirmed that hundreds of thousands of years ago, Neanderthals mated with at least four other contemporary species of ancient humans, or hominids, and the evidence lives on in the genes of modern men and women.

研究者たちが確認したのは、何十万年も前、ネアンデルタール人は、少なくとも同時代に生きた4種類の古代人、 すなわち ヒトと交雑していたことであり、その証拠は現代の人間の遺伝子の中に残っているものである。

=1文目なので retention !

¶2 【次は具体のはず!】
A study published Thursday in the science journal PLOS Genetics(=固有名詞、過去形)shows ~

木曜日に科学雑誌であるPLOS Geneticsの中で発表された研究が示しているのは~
=研究内容

=具体=ふわっと流す
*厳密にはpublishedは過去分詞ですが、直後にThursdayがあるので過去に発表されたと 判断 できます。

¶3 【ここからは出てきたものを素直に解釈していきましょう】
Analysis of the genomes revealed(=過去形)~ゲノムの 分析 によって明らかになったのは~=研究結果 =具体=ふわっと流す
¶4 
The new study estimates(=現在形!) this intermixing happened between 200,000 and 300,000 years ago~

その新しい研究から推測できるのは、この交雑は20~30万年前の間に起こったことであり~

=推測内容だが、¶1の retention により「交雑していた」ことがわかる

¶5 
The researchers also found(=過去形) that ~

さらに研究者たちが発見したのは~

=研究結果

=具体=ふわっと流す

¶6  
Homo erectus looked(=過去形!) much like we do today, but ~

ホモエレクトスは日の私たちにそっくりだったが、~

=ホモエレクトスの補足説明

=具体=ふわっと流す

¶7 
The new study suggests(=現在形!) that 15% of the genetic pieces that came from Homo erectus have been passed on to humans today.

その新しい研究が示しているのは、ホモエレクトスに由来する遺伝子の15パーセントは現代人にも引き継がれているということである。

=研究結果による考察だが、¶1の retention により「遺伝子が現代人に引き継がれている」ことがわかる。

They suggest (=現在形!) ~

またそれらが示しているのは、~

=更なる考察

¶8 
The genome for Homo erectus ~

ホモエレクトスのゲノムは~

=ホモエレクトスのゲノムについて

=¶1の retention から少し外れるので、欲張らない

=ふわっと流す

But the researchers theorize that migration habits~made it likely that they intermingled.

しかし、研究者たちが立論しているのは、~移住する習性によって彼らが交雑していた 可能性 は高まった。

=¶1の retention により「交雑していた」ことがわかる

記事を要約してみよう

結局、端的にまとめると、¶1のネアンデルタール人は、

①ヒトと交雑していた

②その証拠は現代の人間の遺伝子の中に残っている

という2点を短期記憶として retention していられれば、¶4と¶8の「交雑が行われていた」こと、¶7の「遺伝子が現代人に引き継がれている」ことが頭の中で繰り返されることになり、それらが記憶に刷り込まれ、結果的に、全体として何を言っていたのかを一言で表現しやすくなる、つまり「わかる」が起きるのです。

¶2、¶3、¶5、¶6は「具体のサイン」が出ていたので「ふわっと」字面を軽くなぞる程度でいいのです。

これを一般化すると、内容をあれこれ欲張らず、¶1=抽象( 主張 )部分を特に retention しておくことによって、¶2以降の具体部分を読んだときに内容を重ね合わせることができ、全体を理解できるようになるわけです。

現在形と過去形を意識するだけで、抽象と具体部分がかなり際立ったのではないかと思います。

ついでながら言えば、¶1の mated with は、¶4のthis intermixing (happened)、¶8の(they) intermingledとほぼ同意です。これが見えた方は、リーディング上級者であると言っても過言ではありません。

お気付きの方もおられると思いますが、 前回 扱った強弱を付ける読み方の、「弱」の部分を肩肘張らずに、「ふわっと」読み流していたのが、実は今回でした。

なお、この記事のタイトルは“New Study Shows Human Ancestors Had ’Complicated Love Life'(人間の祖先の複雑な性生活)”でした。

今回は以上です。

次回は、冠詞や所有格に注目しても、いろいろと見えてくることがあります。それをご紹介したいと思います。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

今回の記事の訳例はこちら

まとめ

・短期記憶できるチャンクは4±1個

・¶1を retention しながら内容を重ねていく

・具体部分は「ふわっと」流して読む

 

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

※英文の出典: VOA News August 07, 2020 05:05 PM

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神坂明生海(かみさかあきおみ) 福岡県生まれ。駿台予備学校英語科講師。全国通訳案内士。高校まではほぼ勉強せず、日本語もままならなかったが、浪人時代に小畑徳正先生、副島隆彦先生と出会い、本格的に勉強を始める。その後、認知言語学的なアプローチから英語を捉え、現在に至る。駿台の長文の授業では、普段私たちが意識しない「予測する力」を活用した授業を展開中。座右の銘は「ABCを忘れない(A:当たり前のことを、B:バカにせず、C:ちゃんとやる)」。

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