面接にやってくる困った通訳者たち【通訳の現場から】

通訳の現場から vol. 33

イラスト:Alessandro Bioletti

プロ通訳者の関根マイクさんが現場で出くわした、さまざまな「事件」を基に、通訳という仕事や通訳者の頭の中について語ります。もちろん、英語学習に役立つ通訳の技もご紹介。通訳ブースの中のあれやらこれやら、てんやわんや、ここまで言っちゃいます!

突然泣き出す通訳者。その理由は?

私のようにフリーランスで活動している通訳者は、通常はエージェント(通訳者を派遣する会社)に登録して仕事をもらうことが多いです。ただし、親しいエージェント担当者の話を聞くと、面接を含む登録手続きは必ずしもスムーズに進むわけではなく、通訳とはまったく関係ない事情で困ることもあるそうです。

まず意外と多いのが、面接を予約しておきながら来社しない人。事前調整ではやる気満々だったのに、もしかしたら通訳テストが怖くなってやめたのかもしれません(私だって怖いですが)。理由がなんにせよ、約束の日時に現れない、連絡すらないのはフリーランスとして失格です。

面接に予定どおり来たからといって、いつも円滑に進むわけでもありません。あるアジア系通訳者はうまく日本語が話せず、担当者がお互いのためにと面接を打ち切ろうとしたのですが、そこで通訳者は突然泣き出してしまいました。

聞くところによると、在留資格がないので、職に就いて収入を得ないと本国に帰らなければならないとのこと。故郷には病気の母親がいるけれど、仕事がないので治療も受けさせてあげられない。だから日本で頑張って稼いで仕送りをしたい、と。気持ちは理解できますが、会社としてはまだ信頼関係が構築できていない人間のビザ発給を支援するのは困難です。ちなみに泣くといえば、大粒の涙を流して「私に仕事を紹介してください!」と泣き落としにかかってくる人は、毎年何人かいるそうです。

応募者の最近のトレンドと不思議

さて、近年はシニア層の応募増加が一つのトレンドらしいです。典型的なのは、「商社や企業の国際事業部門出身で英語ができる(と本人は思っている)、ビジネスの知識も豊富なので通訳者として登録してほしい」というパターンです。定年退職後、得意の英語を活かして通訳または翻訳をしよう、という流れですね。

ただ現実としては、彼らの英語は会社員としては申し分ないけれど、プロの通訳者になれるレベルかというと、なかなか難しいと聞いています。エージェントは何度も同じパターンを見てきているので、やんわりと面接を断ることもあるのですが、候補者の中には「いや、私は英語ができる。面接しないとは何事だ。とりあえず顔合わせをしてくれ!」と、エージェントの事情を考えずにアポ無しで突撃してくる人もいるのだとか。そしてそのような非常識な候補者に限って実はIT リテラシーが低かったり(最近の通訳業務はIT リテラシーがないと生産的にならず難しい)、専門分野がニッチ過ぎてつぶしが効かなかったりします。例えば、ある候補者は「私はネジの輸出関係の通訳であれば何でもできます。それ以外はしませんが」と言ったのだとか。そんな通訳案件って1 年にいくつあるのだろう……。

不思議な履歴書・実績表を提出する人もいます。例えば、30年経験があると主張しているのに、実績表を確認したら20年目でほぼ終わっているとか。直近の10年は何をしていたのか気になるところですが、通訳は数週間やらないだけで感覚が鈍ってくるものなので、仮に10年間のブランクがあるとするならば、その候補者は実績ゼロとして評価するしかありません。

通訳パフォーマンス「以外」の力

面接は基本的にはフリートークで、エージェントはいろいろな質問や会話を通して通訳者の人柄を知ろうとします。エージェント担当者は毎回現場に足を運ぶわけではないので、クライアントは現場に派遣される通訳者をエージェントの代表者、いってみれば会社の看板を背負っている人間として見ています。ですから通訳者の人柄や顧客対応力はとても重要な評価項目です。

自己紹介の際に独自のキャッチコピーを使う人もいます。例えば、「細くないけど細川です」とか。国連関係の仕事が多いのをネタにして、「国連に選ばれた通訳者です(笑)」と言って場を和ませるような人もいるのだとか。そういえば私も若手の頃、経済産業省が「天才クリエイター」として認定した方の翻訳をほぼ専属で担当していた時期があり、その時はそれをネタにして「天才クリエイターに認められた天才翻訳家」と自己紹介をしていました。懐かしいなぁ・・・今やったら、単なる痛いおじさんだなぁ。

フリートークが思わぬ方向に向かって、人生相談のようになることも。面接担当者が話しやすい空気をつくると、それを勘違いしてしまうのか、それとも胸にしまっている思いを誰かにぶつけたいだけなのかわかりませんが、ダムが決壊したように話し続ける人がいるのです。シングルマザーの苦労。本当は働きに出たくはないけれど、夫が職場の同僚と浮気をしているから自分もきちんと稼げるようになりたい。前の職場でパワハラを受けて、もう正社員はこりごりだからフリーで勝負したい。仕事を求める理由はさまざまです。それを受け止める担当者もかなりのカウンセリング力(?)がないと務まらないと思うのは私だけでしょうか。

面接の後に通訳テストをするエージェントもあります。テストの内容は多種多様ですが、候補者の中には、自分からお願いして登録しに来ているのにもかかわらず、テスト内容に難色を示したり、エージェントに逆ギレしたりする人もいるのだとか。

例えば某エージェントでは一時期、外国人記者クラブで開催されたくまモンの会見をテストに使っていたのですが、ある候補者はそれを知るなり、「え、そんな変な会見を訳すのですか?」と、突き刺すようなきついトーンで聞いたそうです。このあたりにも通訳者の人柄が表れるので油断はできないですね(笑)。エージェントに見せる態度は顧客にも見せるものだと考えなければなりません。

実は私は通訳テストが大の苦手で、自己評価ではうまくいったテストが一つもないほど散々な結果ばかりです。それでも今日までなんとかやってこられたのは、通訳パフォーマンス以外の部分で加点できたからだと思っています。

例えば訪問するエージェントについて、事業内容や規模、得意分野、主要顧客などを可能な範囲で事前に調べて、フリートークでその内容を絡めながら話す。すると相手は「あ、この人はちゃんと調べてきてるんだな。しっかりしてるな」という印象を持つはずです。ほかにもいろいろと工夫しているのですが、中でも忘れないようにしているのが、担当者との握手です。ほかの日本人候補者はほとんどしないと知っているので、差別化のために(覚えてもらうために)しています。私も厳しい市場でサバイブするために一生懸命ですよ!

関根マイクさんの本
同時通訳者のここだけの話

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  • 作者:関根 マイク
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  • 発売日: 2019/02/18
  • メディア: 単行本
 
通訳というおしごと

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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年3月号に掲載した記事を再編集したもので す。

関根マイク

関根マイクフリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/