イギリスのクリスマス、今年はどう過ごす?【LONDON STORIES】

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

楽しいけれどちょっと大変?プレゼントの買い出し

ハロウィーンが終わると街の装いは一気にクリスマス一色になる。大通りにはイルミネーションがともり、ショーウインドーのディスプレーも豪華に模様替えする。街全体が華やかな雰囲気に包まれるこの時期のロンドンは、何度経験しても楽しいものだ。

しかし「イギリスのクリスマスはさぞかしにぎやかなんでしょうね」と言われると、毎度返答に困ってしまう。実は、にぎやかなのは「クリスマスの前」だけ。クリスマス当日はイギリス全土が静寂に包まれるのが、毎年変わらぬ風景である。

12月に入る頃、人々は「ショッピング戦闘態勢」に入る。これはクリスマス時期に会う家族・親戚全員分のプレゼントを用意しなくてはならないからだ。日本では「クリスマスは子どもがプレゼントをもらう日」だが、こちらは何歳になってもプレゼントをもらう。家族構成にもよるが、毎年かなりの数のプレゼントを用意しなくてはならないので大変だ。「何が欲しいのか、探りを入れるのも一苦労」「クリスマスは楽しいけど、プレゼントの買い出しを考えるとちょっと憂鬱(ゆううつ)」とため息交じりの愚痴もよく聞く。

週末のショッピング街は本当に混雑しているが、週末だけでは時間が足りず、平日夕方の仕事を終えた後に街に出て、プレゼント調達に歩き回る人も多い。クリスマス前に絶対に 完了 しなくてはならない「締め切り厳守」の買い物だけに、皆それなりのストレスを感じている。「プレゼント購入が 完了 すると『やり切った』感があるよね。最後の1個を買ったその足でパブに行って祝杯挙げちゃった(笑)」なんて声も聞くほどだ。

毎年、近所の臨時販売所で小さなサイズのもみの木を購入。家じゅうがよい香りに包まれます。

クリスマスだから仕事が進まないのは仕方ない

ロンドンには多くの地方出身者とヨーロッパ人が暮らしているが、クリスマスには皆一気に帰省するので、フライトや電車のチケット争奪戦も 展開 される。イギリスではフライトだけでなく遠距離電車の料金も時期と需要によって変化するので、チケット予約は熾烈(しれつ)な争いなのである。

それだけに帰省の準備が済んだ途端、「もうすぐクリスマス」感が一気に高まり、皆が気もそぞろ。加えて友人たちとのパーティーが入ったりもするので、なんやかやで忙しく、誰も彼もまったく仕事に身が入らなくなる。

在英年数は長いものの、その辺は“まだ” 日本人の私は、この時期あまりに進まなくなる仕事先とのやりとりに、毎度イラついている。「業務時間内ぐらい仕事してよ~」と泣きたくなるが、そのたびに「この時期に返信を期待する方が悪いんだ」と言っていた友人の言葉を思い出す。すべては「もうすぐクリスマスだから仕方がない」で片が付く。ジタバタしても無意味なのである。

家族や親戚とゆっくり過ごす一日

・・・と皆が心待ちにし過ぎている(笑)クリスマスだが、 公的な祝日は12月25日と「ボクシングデー」と呼ばれる翌日26日の2日間だけだ。日本では25日のクリスマス当日より24日のイブの方が重要視されているが、こちらではイブはあくまでも「クリスマスの前の日」でしかない。

24日は普通に店も銀行も開いており、街だけ見れば昼過ぎぐらいまでは平日感も漂っている。とはいえ22日ぐらいから年始までオフィスを閉じてしまう会社も多く、この時期に集中して有給休暇を取る人も多い。国全体がどこかふわふわと浮かれている12月は社会がほぼ機能しないのだが、これも「仕方がない」のである。

こんなふうにクリスマス前はドタバタとにぎやかに過ぎていくが、24日の夕方から街の光景が一変する。イギリス人にとってのクリスマスは、日本人にとってのお正月そのもの。クリスマスは「家族や戚と過ごす日」であり、カップルがデートするロマンチックな日ではないのである。

この日ばかりは恋人同士もしばしのお別れ。おのおのの実家に帰るのだが、24日の夜から公共交通機関の本数が減り、25日はすべて運休。つまり24日の夜までに民族大移動を 完了 させねばならないので、24日の夕方から引き潮のように人影がなくなり、特にロンドンはがらんどうになる。25日は家にこもってごちそうざんまい。家族と過ごす時間を楽しむのである。

昨年、ロンドンのデパート「フォートナム&メイソン」では建物がライトアップされ、アドベントカレンダーに見立てられた。

コロナ禍で迎えるクリスマスの過ごし方

クリスマスは本来キリスト教に基づくお祝いだ。イギリスは多文化多民族国家なので、クリスマスを祝わない人も多い。他宗教の信者へ配慮し、この時期を「クリスマス」ではなく「フェスティバル・シーズン」と呼ぶこともここ数年で定着した。イエス・キリストの降誕を祝わずとも、華やかで楽しい時期であることは皆同じ。新しい習慣として根付いている。

今年はクリスマスをコロナ禍で迎える。この原稿を書いている10月現在、クリスマスに人が集まることができるのか、まだ不明である。私自身はクリスチャンのため、毎年25日深夜0時からのクリスマス礼拝に参列するのを楽しみにしているが、今年は中止 かもしれない 。「例年どおり」ではなさそうだが、それでもクリスマスはやって来る。どんな状況でも、人々の心に温かな火がともる時期になりますように。I wish you a joyful and peaceful festival season! 皆さまも、楽しい年末年始をお過ごしください。

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年1月号に掲載した記事を再編集したものです。

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

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