英語は、文学、映画やドラマ、コメディーや歌などに楽しく触れながら学ぶと、習得しやすくなります。連載「文学&カルチャー英語」では、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが、英語の日常表現や奥深さを紹介します。今回のテーマは、意外と知られていない、 characterという英単語が持つ複数の意味 です。
トップ写真:山本高裕(編集部)
聞き取りは難しいが格好の英語教材にもなるアニメ
皆さんはアメリカのテレビアニメをご覧になることはあるでしょうか?
アメリカの大人も見るようなテレビアニメはセリフがかなり速く、登場人物もそれぞれ話し方に癖があって、英語学習者にとっては聞き取りが簡単ではないものもたくさんあります。しかし、コンテンツが面白く、社会的・文化的背景を知るのにぴったりな作品も豊富です。
今回はその中から『ザ・シンプソンズ』(原題: The Simpsons )を取り上げて、人を表す単語であるcharacterの2つの意味を使ったジョークについて解説したいと思います。
文学に疎いことがジョークに
『ザ・シンプソンズ』 は1989年からFOX(フォックス)テレビで放送されている ご長寿アニメで、英語圏では高い人気 を誇っています。タイトルの “The Simpsons”は「the+姓の複数形」で「~一家」 という意味になるので、「シンプソン一家」を指しています。
スプリングフィールドに住むホーマーとマージのシンプソン夫妻と、その子どもたちであるリサ、バート、マギーを中心に、 時事ネタや政治風刺 なども織り込んで、面白おかしく アメリカ地方都市の市民生活を描く ギャグアニメです。
第11シーズン第14話「フランダースの悲しみにさよなら」(原題:Alone Again, Natura-Diddily)では、シンプソン家の隣人で、信心深いキリスト教徒であるフランダース一家が大きく取り上げられています。
このエピソードでは、ネッド・フランダースの愛妻であるモードが事故死してしまいます。 ホーマーは、寡夫になって落ち込んでいるネッドに新しいガールフレンドができるよう、お見合い用のビデオを作るなどのお膳立て をします。
その中で、まだ亡き妻を忘れられないネッドと、ホーマーがこんな会話をするところがあります。
Ned: Homer, I’m having second thoughts. This feels so disloyal to Maude.
Homer: Oh, wake up, Ned. You think Maude isn’t dating in Heaven?
Ned: You think she would?
Homer: How could she not? The place is full of eligible bachelors. John Wayne, Tupac Shakur, Sherlock Holmes...
Ned: Sherlock Holmes is a character.
Homer: He sure is!
あまり聞き取りやすくはありませんが、 日常会話で使えそうな表現 がたくさん入ったやりとりです。
スクリプトだけだとわかりづらいのですが、ここは ホーマーの文学に関する無知に起因するジョーク になっています。
セリフ全体の意味を確認しながら、どんなジョークなのか見てみましょう。
最初にネッドが言っている“second thoughts”というのは「2つ目の考え」で、つまり「再考」、 “have second thoughts”は「考え直す」 という意味です。
続く文“This feels so disloyal to Maude.”の“This”は、新しいガールフレンドを作るためにお見合いビデオを作ったりするような活動を指し、それが “disloyal”、つまり亡き妻を裏切っているような感じがする と言っています。“disloyal”に係っている “ so”はここではネガティヴなニュアンスで、「~過ぎてよくない」 というような心境が込められています。
それに対してホーマーは、モードだって天国でデートをしていると言います。
ネッドは「モードもそうしていると思う?」と聞いていますが、ここでネッドが使っている “would”は、「まさかそんなことをしているのかなあ」というような、少し疑いの入った仮定や推量の意味 を含んでいます。ネッドは敬虔(けいけん)なクリスチャンなので、天国でデートし放題などというのはちょっと想像しにくかったのかもしれません。
ホーマーの答えは、“How could she not?”。 How could ~?は「そんなことはできるだろうか、いやできっこないだろう」という反語 で、つまり 「~するのが当たり前だ」 というニュアンスです。ここでは否定の“not”が入っており、その後に“date in Heaven”が省略されていると考えられるので、「モードが天国でデートしていないわけがない」と言っています。
その後のホーマーのセリフ“The place is full of eligible bachelors.”の主語になっている“The place”は“Heaven”を指します。
“eligible bachelors”の “eligible”は通常、「資格のある」 という意味ですが、係っている名詞が 「独身男性」を表す“bachelors” なので、この場合は 「結婚に最適な」 となります。
天国にいる結婚に最適な独身男性の例として、ホーマーは西部劇のスターであるジョン・ウェイン(1979年没)、ラッパーの2パック(1996年没)、シャーロック・ホームズを挙げています。この辺が、ホーマーが想像する、天国にいる色男たちであるようです。
ジョン・ウェインや2パックはともかく、 ホームズはアーサー・コナン・ドイルが小説のために作り上げた架空の人物 なので、お亡くなりになって天国にいるという設定はちょっとヘンです。
そう思ったネッドは “Sherlock Holmes is a character.” と指摘していますが、この “character”は「登場人物」 という意味で使われています。つまり、ネッドがここで言っているのは、 「シャーロック・ホームズはお話に出てくる架空の人物だよね」 ということです。
これに対してホーマーは“He sure is!”と強く同意しているのですが、ここでホーマーは“character”をまったく別の意味で取っています。 characterには「個性的で面白い人」 という意味があり、 “He is quite a character.”などと言うと、「あの人はずいぶん面白い男性だね」 という意味になります。
つまり、ホーマーはシャーロック・ホームズが実在しない人物だということを全然知らないので、ネッドが「シャーロック・ホームズって面白い人だからね」という意味で発言していると思い込んだのです。それで、ネッドがだんだんと「モードも天国でホームズみたいないい男とデートしているかもしれない」という考えに傾いてきたと思ったホーマーは、強く同意を示しています。
この“character”の2つの意味を使ったジョークは、非常に日本語に訳しにくいものです。試しに訳してみますが、日本語だとやはりちょっとわかりにくくなってしまいます。
ネッド:ホーマー、考え直してるんだけど。これってモードをすごく裏切ってるみたいな感じなんだよ。
ホーマー:おいおい目を覚ませよ、ネッド。モードが天国でデートしてないとでも思ってんの?
ネッド:デートしてると思う?
ホーマー:しないわけないよ。あそこは立派な独身男でいっぱいなんだから。ジョン・ウェインに2パックにシャーロック・ホームズに・・・。
ネッド:シャーロック・ホームズって、伝説の人物だよね。
ホーマー:もちろん!
「大した人」を表す英単語
このように 「大した人」 のような意味で使われることがある言葉としては、 character以外にsomeone などもあります。
Everyone wants to be someone. はほとんど決まり文句のような言い方で、 「誰でも重要な人物になりたがる」 という意味です。「誰かになりたい」などと訳してしまうとちょっとわかりづらくなるので、気を付けましょう。
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