今更聞けない、Black Lives Matterが生まれた背景【4つのキーワードからひも解くアメリカ】

今更聞けない、Black Lives Matterが生まれた背景【4つのキーワードからひも解くアメリカ】

世界から常に注目を集める国、アメリカ。知っているようで意外と知らないアメリカの「今」、そして「これから」に迫り、アメリカや世界が抱える問題について共に考えてみませんか?本記事ではBlack Lives Matterについてご紹介します。

言葉が生まれた背景にある黒人の強い怒り

ミネソタ州ミネアポリスで黒人(アフリカ系アメリカ人)男性のジョージ・フロイドさんが警察官に殺害された2020年5月末以降、アメリカ全土では黒人差別への抗議運動が続いている。150以上の都市に広がった差別反対デモの合言葉は、「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター、BLM)」だ。デモのスローガンであり、運動の総称でもある。

この言葉が生まれた背景には黒人の強い怒りがあった。BLM運動は、2012年の黒人少年トレイボン・マーティンさん(享年17歳)の射殺事件に端を発する。マーティンさんは歩いて帰宅していた際、「彼が強盗に関与しているはずだ」と思い込んだ自警団員に射殺された。翌2013年の裁判では、自警団員の主張した正当防衛が認められ、無罪評決となった。  

この評決直後、「黒人の命が軽く扱われている」という憤りから、ソーシャルメディア上で「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが一気に拡散していった。オンライン上ではかなり厳しい批判の言葉が飛び交ったこともあって、BLM運動が黒人運動家の先鋭的な運 動であるというイメージが付いてしまっていた。  

あれから7年。フロイドさんの事件で、この運動の性格が大きく変わる。あまりにも残忍なやり方で最期を迎えることとなった彼の状況に対する憤りが、ソーシャルメディアでアメリカ全土、さらには世界中に広がっていった。憤りが大きいがゆえに、黒人男性だけでなく、人種や性別、さらには国籍を超えたさまざまな参加者が「なんとかしないといけ ない」と立ち上がり、反対運動が大きくなっている。  

フロイドさんの事件以後、「Black Lives Matter」は「誰もが公平に扱われるのは当然だ」「黒人の命の大切さも認めろ」など、言葉の意味合いが変わったと言える。言葉が生まれた背景にある黒人の強い怒りが今、すべての人の怒りに変わりつつある。

「法的な平等」ではなく「心の問題」としての差別

白人警察官による黒人男性暴行死事件を巡る抗議運動が、史上最大規模に膨れ上がっている。Black Lives Matter 運動の背景には、人種を巡る複雑な意識というアメリカが長年抱えてきた問題があるのは言うまでもない。1950年代から1960年代にかけての公民権運動は、法的な平等を求める運動だった。南部諸州では奴隷解放後も黒人は宿泊、水飲み場やトイレの使用なども分離されていたほか、「読み書きテスト」や納税の有無による投票制限も行われていた。

 この差別を打ち破ったのが、キング牧師らが中心となって人種差別撤廃を求めた公民権運動である。運動の結果、1964年に「公民権法」、翌1965年に「公民権投票法」が成立した。それからすでに50年以上。法的な平等が完全に保障されたはずだった。

 ところが、法執行の世界では「平等」とは程遠いのが現状だ。ワシントンD.C.を拠点とするピュー・リサーチセンターによると、近年でも実際に黒人は白人に比べて投獄される割合が5倍から7倍程度高いという。この数字だけでも黒人に対する警察官の手荒い対応を裏付けているだろう。

 なぜこんな状況が続いているのか。それは「心の問題」としての差別が構造化されているためである。「相手が黒人だから」と人種差別的な意識から過剰な権力行使を行っている可能性が大きい。特定の人種に対して先入観や偏見を持って職務質問し、取り締まる「レイシャル・プロファイリング」という差別そのものの慣習が、警察では今でも続いている。すべての警察官が差別的であるというわけではないが、「心の問題」として差別が構造化されてきたことは否定できない。

 さらに複雑なことに、全米の主要都市、さらには市の警察予算はこれまでの政策よりも潤沢に増え続けている。これによって黒人側にとっては摘発される恐怖がさらに大きくなる。「治安維持」は州知事や市長にとっては選挙のための有効な公約となっているからだ。警察に対する不満が高まる中、警察側には「不満を持つマイノリティーがより過激化する」という意識が広がっていく。黒人に対する態度もさらに乱暴になっていく。まさに悪循環である。

「心の中の平等」へ

BLM運動は、黒人に対する警察官の偏見への対応にまで踏み込んでいく「第二の公民権運動」に昇華する兆しもある。マイノリティーに対する警察官の対応の抜本的な改革がBLM運動の目標にある。運動を受けてすでに、差別的な警察官の情報共有や、ボディーカメラや車載カメラによる現場の撮影徹底、逮捕時に容疑者の首を絞めて制圧すること(チョーク・ホールド)の禁止や、予告なしに家宅捜索すること(ノックなし令状)をやめさせるなどの改革が進んでいる。

 アメリカでは各地の自治体が独自の権限で警察を運営しているため、これらは全米で統一した対応ではないが、それでも大きな変化である。事件の渦中にあるミネアポリス警察については、より市民に寄り添った運営にすべく、根本的に警察組織をつくり替える形で改革が進んでいる。

 経済格差や「心の問題」による差別が解決するのはまだ当分先かもしれない。かつて奴隷制度が存在したアメリカ社会にとって、人種差別意識は歴史上の最大の汚点であるが、同時にこれを克服することは最大の目標でもある。BLM運動をきっかけに「心の問題」を改善しようという「第二の公民権運動」と言えるような動きに広がっていくことが、運動参加者の共通した願いだ。

 キング牧師と共に公民権運動を先導し、今年7月に亡くなったジョン・ルイス議員が「BLM運動は自分が関わった運動よりも大規模で、さまざまな人が参加している」と亡くなる直前にテレビのインタビューで語ったのは、時代を超えた二つの運動をつなぐ視点として何とも印象的だ。

この記事の全文は『ENGLISH JOURNAL』11月号で!

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年11月号に掲載した記事を再編集したものです。

前嶋和弘

前嶋和弘(まえしま かずひろ)静岡県生まれ。上智大学教授。専門は現代アメリカ政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。主な著作は『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、“Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan” (co-edited, Palgrave, 2017)など。