女性議員の数を増やすことがなぜ重要なのか?“TIME’S UP”【4つのキーワードからひも解くアメリカ】

“TIME’S UP”【4つのキーワードからひも解くアメリカ】

知っているようで意外と知らないアメリカに迫るシリーズ、「アメリカの今」。本記事では、Me Too 運動後に出てきたTime’s Up 運動についてご紹介します。男女間の平等について問題提起するこの運動は、アメリカだけでなく日本でも注目されています。男女平等につながる「女性の政界進出」について、現代アメリカ政治外交を専門とする前嶋和弘さんが解説します。

「もう終わりにすべき」なのはセクハラだけでなく不平等

「Time’s Up(もう終わりにしよう)運動」は、セクシャルハラスメント(セクハラ)の是正を求める運動の一つだ。「Me Too(私も)運動」が自らのセクハラ被害を公表する運動であるのに対し、Time’s Up 運動は「そんな不条理は終わりだ」と被害者支援やセクハラ撲滅に重点を置いた運動である。いずれも女性に対するセクハラや性的暴行と闘うことを基本の目標としており、重なる部分も多い。

Me Too 運動は、ハリウッドの有名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの悪質なセクハラ疑惑が浮上した2017 年10 月、女優アリッサ・ミラノがワインスタインからの被害をツイートし、そこから「私も」と共感した人々が自分のセクハラ被害や加害者を次々にカミングアウトしていった。ハッシュタグ「#MeToo」がソーシャルメディア上で一気に広がる中、加害者たちは次々に辞任に追いやられていった。

この動きをさらに広げるために生まれたのが、Time’s Up 運動である。セクハラ被害者への支援がこの運動の主な力点であり、弁護費用のための基金づくりやセクハラを許す企業を罰する法律の提唱などが含まれている。2018 年1 月1日、女優のリース・ウィザースプーンらTime’s Up 運動の発起人300 人は、『ニューヨーク・タイムズ』紙の全面広告を展開し、セクハラ被害者への支援などを表明した。ハッシュタグ「#TimesUp」もここから一気に広がっていく。

Time’s Up 運動を広めるため、2018年1 月7 日のゴールデングローブ賞授賞式では多くの女優が抗議を意味する黒い衣装で出席した。さらに、同28 日に第60 回グラミー賞授賞式がニューヨークで開かれ、出席した多くのミュージシャンらが希望や平和、同情、抵抗を意味する白いバラを身に着け、運動をアピールした。その中の一人であるレディー・ガガは、披露した曲の途中で「Time’s Up」と語り注目された。

現在、Time’s Up 運動はセクハラだけにとどまらず、男女の不平等そのものを「もう終わりにすべき」という大きな目標を掲げている。女性の権利と保護を拡大するエンパワーメント施策推進に、運動はさらに拡大しつつある。

“TIME’S UP”【4つのキーワードからひも解くアメリカ】

写真:Abaca Press

女性の進出が目立つ連邦議会

Time’s Up 運動は、セクハラだけにとどまらず男女の不平等そのものを「もう終わりにすべき」という大きな目標を掲げ、女性のエンパワーメント(権利向上)を目指している。それではアメリカの社会でどれだけ女性の社会進出が進んでいるのだろうか。Time’s Up 運動と密接に関連する政治の世界を例にして、論じてみたい。

政治の世界では、女性たちがさまざまな体験を共有し、公職に立候補し、当選者数もかなり増えている。メディアが彼女らの声を拡散し、女性に門戸を閉ざしたままの政治の世界に「今こそ男女平等を実現させるべき」と訴えている。

現在の第116 議会(2019 年1 月~ 2021 年1月)の女性議員の数は、上下両院とも過去最高の数となった。上下両院(上院100 人、下院435 人)中、女性議員は127 人(上院26 人、下院101 人)であり、計104 人だった第115 議会よりも一気に23 人増えている。この女性の進出を生み出した一因こそがMe Too 運動やTime’s Up 運動だ。直前の2018 年の中間選挙はMe Too 運動やTime’s Up 運動が盛り上がった中で行われ、女性候補者が次々に立候補し、セクハラ問題を糾弾した。この動きに触発された女性有権者が投票所に向かうことで、女性議員を立て続けに誕生させている。この2018 年の中間選挙の別名は「女性の年(the Year of the Women)」という。

2018 年ほどではないが、同じように女性候補が躍進し「女性の年」といわれたのが、1992 年の選挙だ。この選挙では上院の女性議員数が2 人から7 人、下院では29 人から47 人と計54 人に増えた。その後、女性議員の数は着実に増え続けている。第2 次世界大戦終結当時の第78 議会(1943-45)には女性議員が8 人しかいなかったことを考えると、大きな変化だ。

女性議員の勢力の拡大は数だけではない。ナンシー・ペロシ(カリフォルニア州選出)は下院で最も影響力がある下院議長を現在の第116 議会で務めており、民主党側を代弁し、共和党のトランプ大統領と激しい舌戦を続けている。ペロシ氏は第110 議会(2007 年1 月~ 2009 年1 月)でも下院議長を務めており、女性が下院議長になるのは、このときが史上初めてだった。また、各種主要委員会の委員長などの要職も女性議員が担うようになっている。民主党の女性議員を中心とした「議会女性問題コーカ(Congressional Caucus for Women’s Issues)」など、女性のための政策を共同で立法化していくための議員連盟の活動も年々、活発化している。

政界での女性のエンパワーメントと今後

ただ、現在でもアメリカの上下両院で女性議員が占める率は24%弱であり、まだ全体の4 分の1 以下だ。冷静に考えれば、十分ではないという意見も数多い。それでも女性議員が少しずつ増えることには意味がある。

連邦議会研究においては、女性の意見を代弁するためには女性議員の数を増やさなくてはならないとする「量的な代議(descriptive representation)」と、議員のジェンダーにかかわらず、女性のための政策の立法化を重視する「実質的な代議(substantive representation)」という、代議制を巡る二つの観点で論じられることが多かった。女性議員が増えることで、女性の争点を女性議員が議論することも確実に増えていく。「実質的な代議」だけでなく、「量的な代議」も徐々に達成されつつあると言える。

Time’s Up 運動が目指している、セクハラ被害者を支援する各種政策を積極的に進めようとする動きは、女性議員の台頭が後押ししていくであろう。

日本の場合、衆議院465 人のうち、女性議員が47 人、参議院は245 人の中で女性議員は50 人であり、衆参両院に占める女性議員の数は約14%である。アメリカに比べるとまだまだという感じだ。日本でもTime’s Up 運動のような女性支援が広がるのかどうか、女性の政治への進出にも注目したい。

この記事の全文は『ENGLISH JOURNAL』11月号で!

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年11月号に掲載した記事を再編集したものです。

前嶋和弘

前嶋和弘(まえしま かずひろ)静岡県生まれ。上智大学教授。専門は現代アメリカ政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。主な著作は『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、“Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan” (co-edited, Palgrave, 2017)など。