知っているようで意外と知らないアメリカに迫るシリーズ、「アメリカの今」。本記事では、アメリカ大統領選についてご紹介します。テレビ討論会で激しい応酬を繰り広げたトランプ、バイデン両 候補 。それぞれの政党の情勢と争点、そしてコロナ下の選挙状況とは?現代アメリカ政治外交を専門とする前嶋和弘さんが、11月の大統領選を前に押さえておきたい点を解説します。
候補 ">分極化の中の対照的なトランプ、バイデン両 候補
トランプ大統領の信任投票となる大統領選挙が11月3日に行われる。ヒラリー・クリントン 候補 と大接戦の末、2016年選挙で勝利したトランプ氏は、大統領に就任して以来、常に自分の支持者が望む政策を進めてきた。しかし、パリ協定やTPP(環太平洋パートナーシップ)協定などオバマ前政権が行ってきた政策をことごとく覆したように、自分を支持しない層の意見にはまったく耳を貸さなかった。
アメリカでは過去20年間、国民世論が「保守」と「リベラル」という二つのイデオロギーに大きく分かれていく政治的分極化(political polarization)が進んでいる。トランプ大統領を強く支持し「素晴らしい」と思う層と、「とんでもない政治家だ」と思う層とに分断されている。新型コロナウイルスの 影響 もあって、トランプ大統領の支持率は共和党支持者に限ってはほとんど変化がない。共和党支持者からバイデン氏に乗り換える層は限られている。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の言葉や、それにつながる政策を共和党支持者は高く評価する。一方で、減税政策について「富裕層有利」と民主党支持者は否定する。気候 変動 対策 に関して も、パリ協定離脱は共和党支持者にとっては喜ぶべき「規制緩和の一環」だが、民主党支持者にとっては「身勝手な行動」に映る。
共和党のトランプ大統領に挑む民主党のバイデン 候補 は、ワシントンの中心で50年近い政治経験を持つエスタブリッシュメント(支配階級)中のエスタブリッシュメントだ。トランプ大統領が既存の秩序を壊すアウトサイダーとして政策運営を続けてきたのとは大きく異なる。「上から命令するボス」(トランプ)と「コンセンサスビルダー(意見などのまとめ役)」(バイデン)の2人は、リーダーシップのスタイルも非常に対照的だ。
ただ、2人には似た点もある。いずれも70歳代の高齢であるという点だ。バイデン氏が大統領に就任した場合、2021年1月20日の就任時点で78歳と61日となり、70歳220日で就任したトランプ大統領を大きく上回り史上最高齢の大統領となる。この高齢を 心配 する声も根強い。物忘れや間違った発言をうっかりしてしまう放言癖は、バイデン、トランプ両 候補 とも同じ かもしれない 。
コロナ禍での異例の選挙
11月3日のアメリカ大統領選挙は、大接戦だった2016年選挙に及ぶほど異例な選挙戦が 展開 されている。なんと言っても「新型コロナウイルス」という予期しなかったワイルドカードが、大統領選挙の 展開 を大きく変化させていることが大きい。アメリカのコロナの 影響 は世界最悪レベルであり、深刻な景気後退局面を迎えている。
コロナ禍で選挙運動は大きく様変わりした。指名 候補 を最終的に決める全国党大会はオンライン開催となった。アメリカの選挙の風物詩でもある広範な選挙ボランティアの活動は、今年はだいぶ下火になっている。一般家庭の庭や道路に支持者が立て掛ける、 候補 者の名前が書かれたプラカードも目立たない。アメリカでは許されている戸別訪問など、ボランティアたちの顔が見える草の根の動きが減り、ソーシャルメディアなどを通じた支援活動が中心となっている。
このように政治参加が大きく変貌している中、トランプ陣営もバイデン陣営も演説に代わる方法で有権者に情報を流している。テレビCMの「空中戦」、オンライン広告などの「サイバー戦」をメインとする選挙戦術に、両陣営はすでに移行している。また、本選挙そのものも郵送投票に移行する州が増えている。すでに5州が全面的に郵送投票に切り替えた。さらにカリフォルニア州のように、州民が通常の投票所での投票か郵送投票かを選択できるようにした州も出てきた。本人確認の問題など、不正の温床になりかねないという反発もあるが、 今後 郵送投票の 拡大 がさらに進んでいくだろう。
トランプ大統領にとっては、好調な経済と株価の上昇が再選のための最大のアピールポイントだったが、感染 拡大 でそれが消えてしまった。また、コロナへの対応が問われており、 今後 、景気後退の度合いを押しとどめることができれば、トランプ大統領は「コロナを抑えた」とアピールするだろう。しかし、感染の度合いが収まらず、拙速な経済再開がさらなる感染 拡大 につながった場合、バイデンに追い風となる。トランプ政権の初動の遅れをバイデン陣営は徹底的に追及することになるだろう。「コロナに勝った大統領」となるか「コロナに打ちのめされた大統領」となるかは大きな違いだ。
激戦州が決める選挙
アメリカ社会は今、かつてないほどに二つに分断されている。保守層とリベラル層の立ち位置が離れていくだけでなく、それぞれの層内での結束(イデオロギー的な凝集性)が次第に強くなっているのもこの現象の特徴である。大別すれば、保守層は共和党支持、リベラル層は民主党支持となる。
分極化でほとんどの州の結果が最初から 予測 できる中、今回の大統領選挙も基本的に大接戦であり、いくつかの激戦州の結果で決まるとみられている。
そもそも 大統領選挙の投票率は約6割で、自分の支持層を確実に固めて無党派の一部を取れば勝ち抜けるとみている かもしれない 。トランプ大統領にとっては、分断をあおる方が「合理的」と言ったら言い過ぎだろうか。岩盤支持層はまだ揺らいでいないとしても、トランプ大統領の再選を狂わせる大きな要因がある。コロナ感染 拡大 や抗議運動に対する熱意が投票になだれ込み、投票率を押し上げることだ。もし、投票率が65%や70%に上昇したら、トランプ再選は一気に苦しくなる かもしれない 。すでに、各種世論調査では、民主党支持者の選挙に対する関心そのものが急激に高まっていることも示されている。
投票率そのものが上がるとすると、その場合は「支持層を固める」という発想以上の戦略・戦術が必要になってくる。地殻 変動 が起きるの かどうか 、大いに注目される。
Republican Party">共和党 The Republican Party
候補 者 ドナルド・トランプ Donald Trump "> 候補 者 ドナルド・トランプ Donald Trump
1946年6月14日、ニューヨーク州生まれ。ペンシルベニア大学卒業。1970年代からオフィスビルの開発やホテル、カジノ経営などに乗り出し、「アメリカの不動産王」と呼ばれる。2000年に大統領予備選挙に出馬表明するも撤退。2016年大統領選挙ではヒラリー・クリントンを相手に当選した。妻は元モデルのメラニア・トランプ。大統領補佐官として活躍するイヴァンカ・トランプなど、5人の子どもを持つ。
共和党支持者の考え方
共和党支持者の多くは、「政府の経済活動や私生活への干渉をできるだけ少なくすべきである」というのが基本的な政治的立場である。民主党支持者が訴える、政府の積極的なリーダーシップによる政策は、保守にとっては税金を無駄遣いする「大きな政府」にすぎない。社会問題については、共和党支持者の多くは伝統的価値を重視する社会的保守であり、 具体的に はキリスト教的な倫理感を重視する社会生活を意味している。
公約
「公正な貿易」の徹底
1期目から継続して、不公正な貿易と闘うためにあらゆる法的手段を使う。アメリカ人の雇用を守り、関税を引き上げる。中国の経済侵略に徹底的に対抗していく。
経済復興
多くのアメリカ企業の雇用や工場を国内に引き戻し、製造業で何百万もの雇用を創出していく。新型コロナウイルスのワクチン製造を急ぐ「オペレーション・ワープスピード」を 展開 していく。減税、規制緩和をさらに進めていく。「オバマケア(オバマ前大統領が 推進 した医療保険制度改革法)」を廃止し、より効率的な制度を作り上げることで無駄な医療費を省く。
「アメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)」の継続
安全保障でより多くの費用を同盟国に負担させる。中東への軍事介入などを見直していく。シリア、アフガニスタンから撤退の方向性を探る。イランや北朝鮮の核兵器開発をやめさせるために、新たな交渉を進めていく。
民主党 The Democratic Party
候補 者 ジョー・バイデン Joe Biden"> 候補 者 ジョー・バイデン Joe Biden
1942年11月20日、ペンシルベニア州生まれ。シラキューズ大学卒業。弁護士、郡議会議員を務めた後、1972年に上院議員に当選。36年にわたってデラウェア州の上院議員を務め、2009年に副大統領に就任、外交経験が浅いバラク・オバマ前大統領を支えた。1人目の妻とは事故で死別。その後、教育学者のジル・バイデンと再婚し、4人の子どもを持つ。副大統領 候補 にカマラ・ハリス上院議員を指名した。
民主党支持者の考え方
民主党支持者の多くは、平等主義的な志向性がある。 具体的に は、「国民の平等や自由」を政府のリーダーシップで達成することを望み、貧困や社会福祉などの社会的問題に対しては、政府の何らかの政策で解決しようとすることに賛同する。環境問題では政府による規制を 強化する ことで、公害の除去・予防や環境保全を進めようとする考えを支持している。社会問題については、民主党支持者の多くはキリスト教的な伝統にとらわれない価値観を持っている。
公約
同盟国重視の外交への回帰
トランプ氏の外交政策が、あまりに多くの場面でアメリカの孤立を招いていると 指摘 し、国際的な同盟関係を素早く回復させ、世界各地で民主主義を支える必要があるとしている。イラン核合意の枠組み、欧州との関係 改善 、パリ協定やWHOへの復帰なども明言している。中東では、アメリカ軍はテロとの戦いに焦点を絞る。
経済回復
アメリカ製品の購入に重点を置いて、製造業の促進や技術革新の奨励を盛り込んでいる。アメリカ製品の購入 拡大 と製造業雇用の創出に、少なくとも7000億ドル(約75兆円)を投入することや、インフラ 整備 とクリーンエネルギーの導入、人種間の公平さの促進、保育・介護サービスといった分野の改革を柱としている。
強化 ">子育て世帯や高齢者の福祉サービス 強化
福祉の充実の必要性を訴え、10年間で7750億ドル(約83兆円)を投じるとしている。財源は不動産売却や高所得者に関わる課税 強化 で捻出する計画であり、福祉サービス 強化 で新たに300万人の雇用創出を狙っている。
この記事の全文は『ENGLISH JOURNAL』11月号で!
前嶋和弘(まえしま かずひろ) 静岡県生まれ。上智大学教授。専門は現代アメリカ政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。主な著作は『 アメリカ政治とメディア 』(北樹出版、2011年)、『 危機のアメリカ「選挙デモクラシー」 』(共編著、東信堂、2020年)、『 現代アメリカ政治とメディア 』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、“ Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan ” (co-edited, Palgrave, 2017)など。
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