苦境が続くエンタメ業界の活路となるか?モーリー・ロバートソンが考える「オンライン」の可能性

苦境が続くエンタメ業界の活路となるか?モーリー・ロバートソンが考える「オンライン」の可能性

8月になっても世界中で新型コロナウイルスの感染拡大は続き、感染者数・死亡者数ともに増加の一途をたどっています。特に大打撃を受けているといわれるエンターテインメント・芸術の分野では、今後どうやって危機を乗り越えていくのでしょうか。モーリー・ロバートソンさん(タレント)にお話しいただきます。

7月に公開した1回目の記事はこちらから。

Living in Limbo

The coronavirus shows no sign of (1)abating. It’s not going away, and the pandemic is exploding. This is happening all over the place, and in the entertainment world, (2)we’re also in limbo, and musicians cannot play out. They basically cannot play (3)gigs. People cannot go to clubs. There’s not going to be any large festivals anymore. And many theater (4)productions are canceled or postponed. And here, in Japan, there’s been a cluster, concentration of (5)infections in a small-scale theater, and the theater management, the production side, turned out to be handling the whole thing (6)irresponsibly, and there was a lot of (7)scorn.

コロナウイルスが衰える兆しはありません。消えてなくならずに、パンデミックは爆発的な拡大を続けています。これはあらゆる場所で起こっており、エンターテインメントの世界でも中ぶらりんの状態で、ミュージシャンは演奏ができません。彼らは基本的にコンサートを開くことができず、人々がクラブに出掛けることもできません。大きなフェスティバルももうありませんし、演劇の公演の多くが中止または延期されました。そして、ここ日本の小規模な劇場で、クラスターでの集団感染が発生しました。舞台を管理する公演者側がすべてに無責任に対応していたことがわかり、多数の非難がわきました。

語注

(1)abate 減少する (2)be in limbo 中ぶらりんになっている (3)gig 演奏会、コンサート (4)production 上演、公演 (5)infection 感染 (6)irresponsibly 無責任に (7)scorn 軽蔑

Challenging Times

So now theaters will not go through a (8)blanket ban. I don’t think theaters and movie theaters will be shut down. But everything is going to be limited. And a lot of larger productions, with a lot of money involved, are either canceled or postponed, (9)at worst, the thing starts, somebody gets sick, and then the shows are canceled for about two weeks at a time. Whoever tries to do this is going to lose a lot of money. So, the logical next step would be to perform everything online, and many artists are experimenting, trying to do something over (10)Zoom or Instagram Live. The new frontier is opening up but there are as many challenges as there are opportunities, and the rewards are just not clear at this point in time.

そのため今や、演劇は全面禁止を抜け出せなくなりました。劇場や映画館が閉鎖されるとは思いませんが、あらゆることが制限されるでしょう。もっと規模が大きくて、多額の金銭が関与する公演の多くが、中止または延期されています。最悪なのは、公演が始まってから、誰かが病気になり、2週間ほどの公演が一気に中止となってしまうことです。それを計画したのが誰であれ、大金を失うことになります。ですから、論理的に考えて次のステップは、すべてのことをオンラインで行うことでしょう。多くのアーティストが、ZoomやInstagram Liveで何かしようと試行しています。新しい未知の分野が開けていますが、チャンスと同じくらい多くの課題もあり、現時点では得られる成果もはっきりしていません。

語注

(8)blanket ban 全面禁止 (9)at worst 最悪の場合 (10)Zoom ズーム ★アメリカのZoomビデオコミュニケーションズが提供するWeb会議サービス。新型コロナウイルスの感染拡大によるテレワーク普及により、ユーザー数が大幅に増えている。

All Things Aren’t Fair

First of all, most musicians are not engineers. I happen to be a kind of independent-minded musician who’s studied a lot of sound recording. So once they (11)wander into the (12)swamp, that’s where they begin. And you have a great studio with an engineer. You’ve got a big record company. Everything is perfect. It’s just like recording. All you got to do is go online. So, there are technical challenges.

Another thing: (13)platform (14)inequality. I think this is going to become an issue as more and more people take to online broadcasts. Platform inequality means that (15)Spotify or iTunes or Amazon, they will favor big business artists, and (16)independent artists really just only (17)get bread crumbs.

何よりもまず、ミュージシャンのほとんどはエンジニアではありません。私はたまたま独立心がやや強いミュージシャンなので、録音についてかなり勉強しました。ですから、その泥沼に入っていくと、そこから始めるわけです。エンジニア付きの素晴らしいスタジオや大きなレコード会社があるなら、すべては完璧です。レコーディングとまったく同様で、ただオンラインにするだけです。ですから、技術的な問題があるわけです。
ほかにも、立場の格差があります。これは、オンライン放送をする人がどんどん増えるにつれて問題になってくると思います。立場の格差とは、SpotifyやiTunes、Amazonは大企業のアーティストを優遇します。それでインディペンデント・アーティストは、実際はそのおこぼれにあずかるしかないのです。

語注

(11)wander into ~ ~に入り込む、~に迷い込む (12)swamp 沼地 (13)platform 機会、立場 (14)inequality 不平等、格差 (15)Spotify スポティファイ ★スウェーデンのスポティファイ・テクノロジーによる音楽ストリーミングサービス。 (16)independent artist インディペンデント・アーティスト ★大きなレーベルと契約せずに個人で独立した活動を行うアーティスト。 (17)get bread crumbs おこぼれをもらう ★bread crumbsは「パン粉、パンくず」の意味で、ここでは比喩的に使われている。

New Opportunities

However, if you’re an artist, this is what (18)my partner, my wife does. She’s an actress, and she’s been online learning how to create a yukata. She’s learning how to actually (19)sew it together via a classroom given on Zoom. She’s really enjoying it. So, acquiring new skills online is a great option. And also for musicians, pop and jazz (20)greats, like (21)Quincy Jones, (22)Herbie Hancock, they’re offering master classes. So, these are rare (23)nuggets, which would help inspire a young generation of artists as well as professionals who want to polish up on their skills.

それでも、アーティストなら、私のパートナーもアーティストですが、そうします。妻は女優で、浴衣の作り方をずっとオンラインで習っています。Zoom上に設けられた教室を通じて実際に縫い合わせる方法を習っていて、本当に楽しんでいますね。オンラインで新しい技能を会得することは、素晴らしい選択肢です。ミュージシャンの場合も、ポップスやジャズの巨匠、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコックなどが、上級クラスのレッスンを提供しています。ですからこれは、若い世代のアーティストも腕を磨きたいプロも刺激を受けられる、貴重なレッスンなのです。

語注

(18)my partner ★モーリーさんのパートナーは、女優の池田有希子さん。 (19)sew ~ together ~を縫合する (20)great 偉人、巨匠 (21)Quincy Jones クインシー・ジョーンズ ★(1933- )。アメリカのジャズミュージシャン、音楽プロデューサー。自身の楽曲だけでなくマイケル・ジャクソンのプロデュースなども含め、これまでに数多くのグラミー賞を受賞している。 (22)Herbie Hancock ハービー・ハンコック ★(1940- )。アメリカのジャズピアニスト、作曲家。ジャズにファンクやヒップホップを取り入れた独自の音楽を展開している。 (23)nugget 貴重なもの

Changing Values

In conclusion, the virus is affecting every part of our lives and perhaps at deeper levels which means the way we see things will change. What this means is that, for about a century or so, we’ve been living in this kind of (24)capitalist, (25)consumerist, lifestyle with a lot of hope for future economic growth, (26)GDP. And that’s going to be changing. Owning things, consuming things that others own or consume because we’ve seen it in advertisement, that “Me, too! I want that, too! Me, me!” --that’s just (27)not going to cut it anymore as a sort of model for happiness.

Artists are ready to change, the people are ready to change, can the industry change? Can the industries that we all depend on, can it (28)keep up with such an (29)all-encompassing (30)paradigm shift? Now, that’ll be the question I leave you with.

要するに、ウイルスの影響は私たちの生活のあらゆる面に、おそらくより深いレベルにまで及んでいて、それによって私たちのものの見方が変わることになります。それはつまり、およそ100年でしょうか、こうした資本主義者、消費者主義者のライフスタイルを続けてきて、将来の経済成長、GDPに大きな希望を抱いてきました。そしてそれが変わろうとしているのです。他者が所有または消費しているものを所有・消費すること、それも広告で見たからという理由で、「私も!私も欲しい!僕も、僕も!」というのは、幸せのモデルとしてもはやうまくいかないでしょう。
アーティストたちは変わる準備ができており、人々も変わる準備ができていて、産業界は変われるでしょうか? 誰もが依存している産業界は、すべてを含むこのようなパラダイム・シフトについていくことができるでしょうか?これが今、皆さんに託す問いになります。

語注

(24)capitalist 資本主義者 (25)consumerist 消費者主義者 ★消費者主義とは、消費者の権利や利益のために行う活動・主張のこと。 (26)GDP ★=gross domestic product(国内総生産)。 (27)not cut it anymore もう役に立たない、もううまくいかない (28)keep up with ~ ~に遅れずについていく (29)all-encompassing あらゆるものを含む (30)paradigm shift パラダイム・シフト ★多くの人が当たり前と思っているものの考え方などが大きく変わること。

Entertainment in the Time of COVID-19 モーリー・ロバートソンが語るエンタメの今

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)

国際ジャーナリスト、ミュージシャン、コメンテーターなど多岐にわたる分野で活動している。現在、NHK総合「所さん!大変ですよ」、日本テレビ「スッキリ」など、各種メディアに多数出演。

写真:Office Morley、翻訳:片桐恵里