「アイアイサー!」の「アイ」は英語でどんな意味?スコットランドの首都、世界遺産エディンバラでグルメ旅

英語は多様!米軍基地の街に育ち、世界12カ国100都市以上を旅した文筆家の牧村朝子さんが、「アメリカ英語こそ正しい『ネイティブ』な英語」という思い込みを、世界中いろいろな人たちのEnglishesに触れることでほぐしていく過程を描く連載。各地独特な英語表現も紹介。今回は「 スコットランドと英語 」。

おすすめの「スコットランド的な何か」

Anything Scottish?

「スコットランドっぽいものある?」と聞くと、スコットランドの首都、エディンバラの人たちは、目を真ん丸に見開いて答えてくれた。

「これ飲んでよ!」

「あれ食べてよ!」

スコティッシュな飲み物、スコティッシュな食べ物。Scottishなanythingの最初の一口を今まさに口にしようとする外国人観光客・・・私を、期待たっぷり、くりんくりんに目を見開いて見守る、スコティッシュな人々。

線路沿い、ふわふわ白いエルダーフラワー。2018年6月、私はエディンバラを歩いていた。

作家のアーサー・コナン・ドイルを輩出したことで知られる、今にもシャーロック・ホームズとワトソンくんが連れ立って現れそうな文豪の街。

「なんかかっこいいから」という理由で日本からスコットランドへやって来た私に、エディンバラの人たちは、どこかシャイで、とても親切だった。

そのときのことを、日はあなたに話したい。

パブでフットボールファンと食したエール漬けのステーキパイ

エディンバラに着き、おなかを空かせて、まず着いたのはパブだった。

2018年6月、サッカーのワールドカップ真っ盛り。あ、 イギリスではsoccerではなくてfootball と言わないといけないのか。試合画面を前に大騒ぎする酔っぱらいたちを横目に、なんとかカウンター席に落ち着く。

せっかくスコットランドに着いたのだから、スコットランドっぽいものを食べたいな。

「Anything Scottish?」

ウエートレスのお姉さんにそう聞くと、メニューの「 Steak & Ale Pie 」というところを指さして、「これがまさにスコティッシュです」と言ってくれた。

やがて運ばれてきたのは、山盛りのフライドポテトと、サクサクホロホロに焼き上げたプレーンのパイ生地、エールというシュワシュワのお酒で煮込んだトロトロのビーフステーキ、そして、・・・皿の奥で縮こまる野菜。

調味料が収まる籠には、モルトビネガーと、ハインツのトマトケチャップ、それに、 HPソース という、なんとも言えない黒くて酸っぱいツンとしてむせるようなソースが入っている。

HPソースを珍しそうに見ていたら、サッカー・・・いやフットボールがハーフタイムにでも入ったのだろうか、暇そうな酔っぱらいのおじさんたちが寄ってきた。

「エールパイか!」

「エール飲んだか!」

「ヒーハー!」

めちゃくちゃうるさい。楽しそう。

「おい、スコットランドのサイダー飲みなよ!」

「ば~か、おめえ、そいつはイングランドのだろ!」

「ヒーハー!」

「Anything Scottish?」って聞くまでもなく、サッ・・・フットボールで愛国心が高まったおじさんたちが、スコットランドのものを飲ませようとしてくる。このままだと、自分まで酔っぱらいになっちゃう。

食事を済ませて、パブを出た。

名物のサワードウブレッドとハギスもおいしい

エディンバラは、旧市街と新市街を合わせて、 街全体が世界遺産

たばこの吸い殻を、「ベストなジェダイ(映画『スター・ウォーズ』に登場する戦士)は、オビ=ワンかヨーダか?」と書いた投票箱型の吸い殻入れに捨てさせるなどして、ちょっと小洒落た(こじゃれた)クリーンアップ活動をしている。

「イギリスは食事がおいしくない」と、エスニックジョークでよく言われる。

でも、「Anything Scottish?」と尋ねてエディンバラっ子におすすめしてもらう飲食物は、 どれもこれもとってもおいしいスコットランド風に言えば、 gutsy )。

写真は、トーストした サワードウブレッド(sourdough bread) というパンに、ぐちゃぐちゃにつぶして海塩を混ぜたバナナを塗って、分厚いベーコンとメープルシロップを添えた、デューク通りのTwelve Triangles Kitchen Tableというお店の、ベーコンバナナメープルトースト。

確かに、「えっ?」と思う。けど、おいしい。甘じょっぱい。

このサワードウブレッドというパンは、どうもスコットランドの定番らしい。

「Anything Scottish?」ってポルトベロビーチのカフェで聞いて出てきた、ガッツリ元気の出る朝食。サワードウブレッドのトーストに、目玉焼き、薄くて甘くないパンケーキ、ベーコン、ソーセージ、焼きトマト、ブラックプディングというレバーみたいな味の真っ黒い何か、そして、ハギス。

羊の内臓と、むちむちプチプチした麦の粒を、羊の胃袋に詰めて作る、とにかくむちむちプチプチした スコットランド料理、ハギス

もう一つの国民的飲料IRN-BRUはスコットランド人の証し

それから、これ。ムキムキマッチョがBの字を支えるロゴの、「 IRN-BRU 」。

「スコットランド人ならみんな絶対知ってるよ!おいしくて、強くなるよ!」

日本のビスコのキャッチコピーみたいなことを言っている、美術館のカフェのお兄さん。このIRN-BRUは、「アイアンブルー」と発音される炭酸ソフトドリンクで、「スコットランドのもう一つの国民的飲料(ウイスキーじゃない方)」と言われたりするらしい。

美術館の庭に持っていって、プシュッと缶を開けてみると、なんていうか、「化学?!!」という感じの匂いが立ち上る。恐る恐る、コップに少し出してみる。液体の色はなんか、ラインマーカーかポストイットみたいなビカビカの蛍光オレンジ

飲み物の色じゃない。文具の色。でも飲んでみる。その味は・・・とにかく、ケミカル。マッドサイエンティストのフラスコの中身みたいな味がする(飲んだことないけど)。

「飲んだかい?」

カフェのカウンターに空き缶を返しに行くと、お兄さんは軽く缶を振る。

「よ~し、全部飲んだね!」

謎に認められた。

「これでバッチリだ。ほかのスコットランド人にも、IRN-BRUを飲んだぞ~!って言うといいぞ~。じゃ、よいを!」

なんかよくわからないけど、なんか、よかった。

そんなこんなで、「あれを飲んでよ!」「これ食べて!」のニコニコ顔に取り囲まれるエディンバラでの3日間があっという間に終わってしまった。

きっと、まだまだ、知らないものだらけ。また今度、スコットランドに行ったなら、 ネス湖のあるインヴァネス とか、 ペイズリー模様で知られるペイズリー なんかに行って、こう聞いてみようかな。

「Anything Scottish?」

今回のEnglishes:ゲール語、スコットランド語、スコットランド英語

スコットランドで 公用語として話されているのは、英語とゲール語(Gaelic)

スコットランドの地に古くから暮らしてきたケルト人の言語であるゲール語を、「 英語と同等の敬意を持って( with equal respect to the English language) 」公用語とするよう定めた、2005年の「 Gaelic Language (Scotland) Act 2005 」から、ゲール語が公用語と見なされるようになった。

このほか、 スコットランド語(Scots) と、発音などの面でスコットランド語の 影響 を受けた英語である スコットランド英語(Scottish Standard English、SSE) が話されている。

「スコットランド語は英語とは別だ!」と一線を引きたがる声もある一方、スコットランド語には古代の英語、いわゆる古英語が色濃く残っているという一面もある。また、古フランス語の 影響 とみられる語彙もあり、スコットランドの人々が海を渡って現在のフランスやイングランドの人々と関わり合ってきた歴史を感じさせる。

無理やり日本の言語状況に例えれば、ゲール語、スコットランド語、スコットランド英語の関係は、古語、京言葉、京都のアクセントや語彙を混ぜて話されるいわゆる標準語、という感じだろうか。

日本のアニメにも登場する 「アイアイサー!」は、命令受諾を意味する「Aye, aye, sir!」 から来ていて、これは各国の海軍用語としても聞かれる。 aye 」は、もともとスコットランド語で「yes」の意味 だ。

ほかに使いやすい表現としては、 「すてき」を意味する「 bonnie / bonny や、 「小さな」という意味の「 wee がある。これは、古フランス語から現代フランス語に至って使われ続けている、同じく「よい、好ましい」を意味する単語「bon」から派生したものと思われる。「Bonny wee baby!」と言えば、「かわいい小さな赤ちゃん!」となる。

「Bonny (wee) baby!」のように、リズムや語感を整えて歌うように話すのも、スコットランドの言葉の特徴と言える。例えば、教科書的な英語で「 pale(青白い) 」と言うところを、スコットランド的な表現では、語感のよい「 peely-wally 」と言うことがある。

本連載が書籍化!書き下ろしも!

英語にコンプレックスがあった。でも英語を学んだから、世界中のいろいろな人たちに出会えた。そして、「英語は1つではない」と知った。――米軍基地の街に育ちながら「ネイティブ英語」に違和感を持っていた著者が、世界12カ国100都市以上を旅する中で多様な人々や言葉と出会っていく様子を描いたエッセイ。

シングリッシュ、マオリ英語、ピジン英語など、各地で独特な英語の歴史や表現、オランダ語やフランス語などの他言語と英語との関係も紹介。旅行気分を味わえる写真付き。

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文・写真(トップ・プロフィール写真以外):牧村朝子(まきむら あさこ)
文筆家。著書『百合のリアル』( 星海社新書小学館より増補版 、時報出版より台湾版刊行)、出演『ハートネットTV』(NHK-Eテレ)ほか。2012年渡仏、フランスやアメリカで取材を重ねる。2017年独立、現在は日本を 拠点 とし、執筆、メディア出演、講演を続けている。夢は「幸せそうな女の子カップルに『レズビアンって何?』って言われること」。
Twitter: @makimuuuuuu (まきむぅ)

トップ写真:【撮影】 田中舞 /【ヘアメイク】堀江知代/【スタイリング、着物】渡部あや

編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

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