NBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンから学ぶ3つの英語表現

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第7回はNBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンに学ぶ英語表現です。

NBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンの魔力

新型コロナウイルス問題で全世界のプロスポーツがストップしている中、私は動画配信サービスのスポーツドキュメンタリー番組を視聴しています。暇があったら見るか・・・と、 とりあえずウォッチリストに放り込んでおいた(でも放置プレイの)番組を、ネタ探しも兼ねて自宅警備中に一気見(binge watch)しました。

特にNBAのレジェンドであるマイケル・ジョーダンのキャリアを主題としたドキュメンタリー映画「The Last Dance」では、文字通り勝利のためにはすべてを犠牲にするジョーダンの覚悟が本人の言葉と共に描かれています。

Winning has a price.
勝利には犠牲が伴う。

と、はっきり言い切るジョーダン。今回は彼を中心に学んでいきましょう。今さらジョーダンのハイライト動画を見せるのは野暮(やぼ)な感じもしますが、彼が引退してから約20年後の今でも、その突出したフィジカルと高いバスケットボールIQは、見る者を釘付けにする魔力があります。

▼動画が見られない人は こちらから 別のブラウザでご覧ください。

自分の力のすべてを使って相手を「ぶち倒す」

第1回 ではコービー・ブライアントのMamba mentalityを取りあげましたが、ジョーダンも闘争心の塊。練習も含めて負けるのが大嫌いで、メディアがほかの選手をジョーダンと同列で語ろうものなら、それをモチベーションにして次の試合はその選手を徹底的に潰すことを最重要課題としました。潰すといってもケガをさせるわけではなく、自分は大量得点して、守備では相手に何もさせないことで、実力の差をまざまざと見せつけたのです。

プレーオフでクライド・ドレクスラーというスター選手と対戦したときも、一部のメディアが2人を対等として語るのに憤り、以下のような発言をしています(0:20あたりから)。

You know what’s gonna happen tomorrow. I’m gonna give it to this dude .
明日どうなるかわかってるよな。 あいつを徹底的に倒してやるぜ

Give it to him.のitは何を指しているの?と思う読者がいるかもしれませんが、これは何か物理的なものではなく、「自分の持っている力」という概念です。この力のすべてを使って相手を「ぶち倒す」「打ち砕く」「負かす」「やっつける」という意味になります。この表現は使う文脈と、使う人の表情も大事かもですね(笑)。

ジョーダンも言いたい放題のトラッシュ・トーク

スポーツマンシップが重んじられる日本ではあまり考えられませんが、プロスポーツの世界ではtrash talk(トラッシュ・トーク、相手をからかったり挑発したりすること)は日常茶飯事。ジョーダンも観衆を沸かせるようなスーパープレイを披露したあとは、辛辣なトラッシュ・トークで対戦相手の感情を揺さぶり、最終的には心を砕いていました。

1990年代にライバルのニューヨーク・ニックスに所属し、ジョーダン率いるシカゴ・ブルズに大事な試合では連戦連敗を喫(きっ)したパトリック・ユーイングは30年後の今もからかわれているそうです(1:30あたりから)。

He’s been talking trash from the first day that I met him, and he still continues to talk trash, telling me that I have never beaten him when it counted.
あいつには初めて会った日から トラッシュ・トーク されてるよ。というか今も言われてる。「勝負所でお前は俺に勝てなかった」ってね。

あえてそのまま訳しているのは、 trash talkは「からかう」「挑発する」「悪口を言う」「たわごとを言う」などいろいろな意味が含まれていて、日本語には等価の表現がないからです。ただ重要なのは、トラッシュ・トークは主に相手を動揺させるためのものなので、必ずしも真実でなくてもよいこと。「そのクソシュート、本気で入ると思ってるわけないよな?」「お前の妹、深夜まで歌舞伎町でホスト漬けだって?」「俺の車椅子の婆ちゃんでもお前になら勝てるぞ」など、なんでも言いたい放題。もちろん、真実であれば心にグサッとくるものですが・・・。

練習でも闘争心をあらわにしてケンカが多発

トラッシュ・トークといえば、ジョーダンは日々の練習でも闘争心をあらわにしてチームメイトに厳しい言葉を浴びせていたので(彼なりの鼓舞の仕方だった)、緊張感の高まりからケンカに発展することも少なくなかったそうです。もっとも、90年代のNBAは今よりずっとフィジカルなプレーが許されており、練習でも激しい接触の連続がケンカに発展するのはそう珍しいことではなかったと元選手のスティーブ・カーは語っています(3:20あたりから)。

On every team that I was ever on, there were three or four practice fights a year. It was not uncommon. Generally, those things remained under wraps .
私が所属したチームでは、どこでも例外なく年に3回~4回は練習でケンカがありましたよ。珍しいことではありませんでした。普通は 表沙汰にはならない ですけどね。

under wrapsは「秘密にする/隠す」「表沙汰にならない」「公にしない」などという意味があります。wraps(包装紙など何かを覆う物)のunder(下)という第一印象で、何か大きな紙やシートでモノを全部隠してしまうようなイメージを持ってしまいそうですが(私も長い間そう思ってました)、実はこれ、語源は馬術にあるのです。もともとは手綱を引いて馬の速度を落とすことをunder wrapsと表現していました。これはネイティブのアメリカ人でも知らない人が多いのではないでしょうか。ぜひ居酒屋でのうんちくとして使ってください。

勝つためにはコーチや経営陣にも厳しかったジョーダン

勝つためには対戦相手に、仲間に、そして時にはコーチや経営陣にも厳しかったジョーダン。でも有言実行でしっかり結果を残すから、選手も彼についていったのでしょう。毎日のように「かわいがられた」元チームメイトのスコット・バレルも次のように語っています。

It made me a better player.
おかげで選手として成長できた。

ことあるごとにジョーダンのトラッシュ・トークの標になった彼にこうも言わせるとは、さすがレジェンドですね!

バスケとマイケル・ジョーダンから学ぶ3つの英語表現

give it to 人
叩き潰す/倒す/やっつける

対象人物を「叩き潰す」「倒す」「やっつける」などの意味ですが、この表現は用法より表情や言い方のほうが大事かもしれませんね(笑)。「あの野郎、お灸をすえてやるぜ」的な迫力があったらいいです。ちなみに「思いっきり説教してやるわ」という意味でも使えます。

talk trash
からかう/挑発する/たわごとをほざく

あえて日本語で表現するなら、trashを言う側であれば「からかう/挑発する」、受ける側であれば「たわごとをほざく」でしょう。もっともtrashの射程は「からかう/挑発する」よりも広いので難しいのですが・・・。たとえばプロ野球の野村監督は現役時代(捕手)、打者が気になるようなことをボソッと言って心理的に攪乱(かくらん)していたとか。からかうわけでもなく、挑発もしていませんが、これも立派なトラッシュ・トークです。

under wraps
秘密にする/隠す/表沙汰にしない

「秘密にする/隠す」「表沙汰にしない」という意味です。Keep it under wraps.とKeep it hidden/concealed.はほぼ同じ意味。砕けた表現なので、フォーマルな場面ではあまり使われることはありません。

「スポーツで英語!」過去の連載はこちら

関根さんが本業の通訳について語る連載はこちら

関根さんの本

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」 https://blogger.mikesekine.com/

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