「棒」も「酒場」もbar。その理由とは?【多義語の真実 Vol. 1】

「棒」も「酒場」もbar。その理由とは?【多義語の真実 Vol. 1】

英単語の中にはさまざまな意味を持つ「多義語」が多く存在し、複数の語義を知らないと英文を正しく理解できないことがあります。しかし、単語が持つすべての意味を覚えるのはとても大変。そこで、多義語の上手な覚え方をご紹介します。Vol.1では「語義の関連性」について解説します。

「多義語」とは?

多義語とは何かを学ぶ前に、英語圏でよく聞かれるジョークをご紹介します。

A man walks into a bar with a duck on his head.

The bartender says, “Can I help you?”

The duck says,“Yes, you can get this man off my butt!”

男が一人、頭にアヒルを乗せてバーに入って来る。

バーテンダーが「いらっしゃいませ、何かお手を貸しましょうか?」と言うとアヒルは答える。

「ああ、この男を俺のケツから引き離してくれ!」

これは、A man walks into a bar・・・/A guy walks into a bar・・・(ある男がバー[酒場]に入ると・・・)から始まるbar joke(バージョーク)の一例です。男が酒を飲むためにバーに入ると、すぐに何かが起こり、それが笑いを誘います。

アメリカやイギリスではコメディアンだけでなく、一般の人々の口からもよく聞かれるこのジョークには、数えきれないほどのバリエーションが存在しますが、その中の一つに次のようなものがあります。

これは少しひねったジョークで、これを聞いた人はまず、「ある男がバーに入ると」というお決まりの場面を思い浮かべます。しかし、次にOuch!(痛っ!)と聞こえるので、bar は「バー」ではなく「棒」のことで、「男は棒に頭をぶつけた」ということがわかります。このジョークは、barという単語が持つ2つの意味をかけた「しゃれ」にもなっています。

このbar のように、複数の意味を持つ単語を多義語(polysemous word)と呼びます。

複数の語義の関連性

複数の英和辞書でbar の意味を調べてみると、一般に下に記載されているようなさまざまな意味を確認することができます。

bar 名詞

◆ 棒、棒状の物、かんぬき、桟 ◆ 柵、鉄格子 ◆ 障害物、障壁

◆(飲食店の)カウンター ◆(カウンター形式の)酒場、バー

◆(法廷などの座席を区画する)手すり、仕切り ◆ 法廷、被告席 ◆ 弁護士業

◆《音楽》小節(線) ◆(色・光などの)縞、筋、帯 ◆砂州(さす)

bar の意味は「棒」と「酒場、バー」のほかに、法曹界や音楽の分野にも及び実に多様で、それらの中には関連性がほとんど見えてこないものもあります。一般に、使用頻度の高い基本的な語彙ほど多義的であると言われています。

英語を学習する際、文法を理解するとともに語彙力を上げることが重要なのは言うまでもありません。語彙の学習に当たっては、語彙数を増やす量的な学習だけでなく、使用頻度の高い語の複数の意味を覚えるといった質的な勉強も必要でしょう。

しかし、多義語の中にはbar のように多岐にわたる複数の意味を持ち、しかも一見したところでは異なる意味の間につながりが見えないものが少なからずあります。そのため、英語を学習している皆さんが多義語の意味を覚える際は、複数の意味をバラバラに丸暗記することが多いのではないでしょうか。こうした「ただ覚える」という学習法は、なかなか記憶に定着しにくく、苦痛を伴います。 そこで、本連載では、多義語の効率のよい(そして楽しい)覚え方を学んでいただけたらと思います。

語が経てきた歴史をたどる

上で取り上げたbar のさまざまな意味は、一見関連性が明らかではありませんが、多義性は過去に起こった意味変化が集積したものなので、多義語が経てきた道をたどることで、 多様な意味をつなぐ糸が見えてきます

bar の語源を調べてみると、12世紀後半にフランス語から借用され、借用当時は「(門などを固定する)横木、かんぬき」などの「棒状の物」を意味していたことがわかります。また、「棒状の物」で土地などを囲うフェンスなどを作ったことから、「柵」という意味を発達させます。柵は外から侵入しようとするものにとっては「障害」になる一方、2 つの領域を分け隔てる役割も果たします。後者の役割から、客側と従業員側を分ける「カウンター」の意味が発達し、カウンターがよく見られる「酒場、バー」の意味も担うようになりました。

また、同様に法廷内において「(裁判官席や弁護士席と、傍聴席を仕切るための)手すり」 を意味するようになり、さらに「法廷」やそこで職務を行う「弁護士(業)」も指すようになりました。17 世紀中頃からは音楽用語として、楽譜で小節と小節を分け隔てる「小節線」の意味でも用いられています。

このようにbar という語が経てきた歴史をたどることで、バラバラであった意味の間に結び付きを見つけることができます。一見縁もゆかりもないと思われた2つの意味、「棒」 と「酒場、バー」が結び付いていることを知ることは、多くの英語学習者の皆さんにとって、新鮮な発見になったのではないでしょうか。

語義の関連性を見つける

以上のことから、多義語の学習においては、まずはコアとなる意味(多くの場合、語源的意味で、bar の場合は「棒状の物」)を覚え、それをほかの語義と関連付けていくことが重要です。そして、異なる意味の間のつながりには一定のパターンがあるので、それを知っておくことも大切です。

多義語の複数の意味の間には多くの場合、何らかの「類似性」が見られます。上に掲載 されているbarの語義をもう一度ご覧ください。

「棒状の物」から「桟」、「柵」、「鉄格子」への意味の転用は形の類似性によります。「帯」や「砂州」も細長で棒状の形をしています。「柵」、「カウンター」、「法廷の手すり」は空間・場所を仕切る機能が共通しています。

ほかに多義語の意味の間によく見られるのは「(空間的・時間的な)隣接・共存関係」です。 例えば「カウンター」と「バー」の2つの意味の間に「類似性」は感じられませんが、「バー」の店内には「カウンター」が設置されていることが多いので、両者は空間的に隣接・共存関係にあります。「法廷の手すり」と「法廷」も同様の関係です。「法廷」と「弁護士(業)」については、法廷は弁護士が活躍する場所なので、両者は隣接・共存関係にあると言えます。このように、異なる意味のつながりは決してランダムではなく、それらの間には何らかの「類似性」や「隣接・共存関係」が存在するのです。

 

※Vol.2では、「関連性の見つけ方」についてより詳しく解説します。2020年4月22日公開予定

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執筆:寺澤 盾(てらさわ・じゅん)
東京大学大学院修士課程修了(修士)、ブラウン大学大学院博士課程修了(博士)。東京大学大学院総合文化研究科教授。英語史専攻。英語がたどってきた1500年余りの歴史とともに、世界に広がった英語の多様性に関心を持つ。『英語の歴史』『英単語の世界』(いずれも中央公論新社)、『聖書でたどる英語の歴史』(大修館書店)など著書多数。

イラスト:亀山 鶴子

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年5月号に掲載された記事を再編集したものです。