英単語の中にはさまざまな意味を持つ「多義語」が多く存在し、複数の語義を知らないと英文を正しく理解できないことがあります。しかし、単語が持つすべての意味を覚えるのはとても大変。そこで、多義語の上手な覚え方をご紹介します。Vol.2では「語義の関連性の見つけ方」について解説します。
「語義の関連性」に関する解説はVol.1で確認できます。
語義の関連性の見つけ方
「語義の関連性」はどのように見つけ出すことができるのでしょうか。ここでは、多義語の学習法として「コアとなる意味を覚え、その意味とほかの意味との関連性を見つけていく」ことを実践的に例示してみたいと思います。
ear(耳)という単語を例にご説明します。まずは英和辞書でear を引いてみましょう。
ear 名詞
◆ 耳、耳殻(じかく)
◆(花瓶・水差しの)取っ手
◆羽角(うかく)※フクロウ科など一部の鳥の頭部に見られる左右対称の羽毛
◆(新聞などの)囲み記事
◆イヤホン〈通例複数形。口語表現〉
◆ 聴力、聴覚
◆(言語や音楽の)音感
◆傾聴、耳を傾けること、注意
なお、「(トウモロコシ・麦などの)穂」を意味するearも出てくると思いますが、これはear(耳)とは語源的につながりはなく、両者はいわゆる 同音異義語(homonym) です。
さて、earのコアとなる意味は聴覚器官としての「耳」です。 人間の身体部分はさまざまなものに転用される傾向があります 。この語のコアの意味であると考えられる「耳」と類似性が感じられるものはどの語義でしょうか。
「花瓶・水差しの取っ手」と「耳」は、形はもちろん、何かの端に付いているという点で、位置関係でも類似しています。また、フクロウやミミズクなどの頭部に立っている「羽角」は機能的には耳ではありませんが、形や付いている位置が「耳」と似ていますね。 「囲み記事」とは、新聞の一面の脇にある小さな記事で、広告や天気予報などが掲載されている部分を指しますが、こちらも端に位置しているという点で「耳」と共通しています。
一方、「イヤホン」は「耳」に付ける物なので両者は隣接・共存関係にあります。「聴力・聴覚」は「耳」と密接に関連しており、「音感」や「傾聴」も「耳」と切り離して考えることはできません。 このように、多くの場合 多義語の異なる意味は互いに関連し合っているので、自分なりにその関連を見いだしてみると、バラバラであった意味同士が結び付き、記憶しやすくなります 。
新たな意味を推測する力
英単語の学習は、コアとなる意味を中心に、辞書に掲載されている語義だけを覚えれば事足りるのでしょうか。
答えは否です。単語は、過去に意味を変化させてきただけではなく、 現在の使用においても文脈に応じて意味を伸縮自在に変化させる可能性を秘めている からです。こうした場合でも、本記事で学んだ意味の転用パターンを頭に入れておくと、ある単語が私たちの知らない新たな意味で用いられている場合でも、文脈の助けなどを借りてその意味を推測することができます。次の文の意味を考えてみましょう。
「ハンバーガーが支払わずに立ち去った」とはどのようなことを言っているのでしょうか。まさかハンバーガーに足が付いているとは考えられませんよね。ではこの文がファストフード店の店員の言葉だとすると、hamburger の意味が少し見えてこないでしょうか?
普通、店員は客の名前を知らないので、客を区別する際にその客が注文したものに言及することは大変便利です。ハンバーガー店では、「顧客」と「注文した物」は密接に関連しているので、後者から前者への意味の転用が起こることは十分に予測できます(「顧客」と「注文した物」は広い意味で隣接・共存関係にあると言ってもよいかもしれません)。
したがって 、この文は「ハンバーガーを注文した客が、支払わずに立ち去った」という意味になります。英和辞書でhamburgerを調べても、おそらく「ハンバーガーを注文した客」という意味は記載されていないでしょう。ですから、私たちは 意味転用のパターンの知識を使って、場面にふさわしい意味を推論することが求められる のです。 それでは次に、以下の文の意味を考えてみましょう。
I’m so tired, I need to go get Starbucksed.
Starbucks は皆さんご存じのように、アメリカ発祥で世界的に有名なコーヒーのチェーン店ですが、この文では語尾に-edが付いていることに注目してください。つまり、驚くことにこの文ではStarbucksは固有名詞ではなく動詞、より厳密に言うと過去分詞として用いられているのです。 英語では名詞や固有名詞を簡単に動詞に転換することができます 。
ではこの文のStarbucks はどのような意味になるでしょうか?Starbucks は動詞として使われると、「スターバックスでコーヒーを飲む」という意味になるので、この文は「疲れたので、スタバに行ってコーヒーでも飲まなくちゃ」ということになります。この場合、スターバックスは一般的にはコーヒーやお茶を飲む場所なので、「スターバックス」と「コーヒーを飲む」という行為には密接な関連(広い意味で共存関係)があると言えます。それに対して、上文のStarbucks は「スターバックスでハンバーガーを食べる」という意味にはならないでしょう。なぜなら、「スターバックス」という場所と「ハンバーガーを食べる」という行為は、通常は結び付かないからです。
英単語の学習では、すでに確立している複数の意味を覚えることも大切ですが、今回例に挙げたように、 場面ごとに新たに生み出された意味に出会ったときに、即座に対処できる能力を身に付けておくことも重要 なのです。
連載「多義語の真実」記事一覧
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
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