英語学習や試験などの本番でパフォーマンスが格段に上がる簡単な方法とは?

学習法や教材を工夫するのも大切ですが、確立されたメソッドや良質の教材だけでは、高いレベルでの外国語習得は難しいでしょう。しかし、「自律的学習者」になれば、おのずと英語力は上がっていきます。語学やそれ以外の学びにも一生役立つヒントを、第二言語習得の専門家、新多 了さんが紹介します。第4回は、「未来志向のモチベーション」です。

影響 を与える要因は?">英語学習に最も 影響 を与える要因は?

さまざまな要因が私たちの英語学習に 影響 を与えます。その中で何が一番大事かと問われれば、私なら迷わず モチベーション と答えます。

早期英語学習も、海外留学も、オンライン英会話も 影響 しますが、モチベーションの 影響 力の大きさに比べれば、ささいなことです。この連載のタイトル、「自律的学習者への変身術」の重要なカギもモチベーションにあります。

モチベーションについて考えるとき、いつも頭に浮かぶのが次の言葉です。

You can lead a horse to water but you can’t make him drink.

馬を水飲み場に連れていくことはできるが、無理やり飲ませることはできない

日々、大学生に英語を教えていますが、「強制」しても結局うまくいかないことをいつも実感します。もちろん、授業で 指示 したことに学生たちは文句も言わず 取り組み ます。でも、それが本当に力になる かどうか は、それぞれの持っているモチベーションにかかっています。

最近注目を集める千代田区立 麹町中学校の取り組み の一つに、宿題の全廃があります。宿題は強制的で、どうしても「やらされる学習」になってしまいがちです。宿題を思い切ってやめることで、生徒自身が自分の学習について当事者意識を持って考えるようになり、モチベーションを生み出すのが狙いです。

麹町中学校の 取り組み は、You can lead a horse to water but you can’t make him drink.の優れた実践だと思います。

「何をどのように学ぶか」よりも大事なことは、「どうすればモチベーションを生み出せるか」、そして「どうすればモチベーションを持ち続けることができるか」。それができれば、学習は勝手に進んでいきます。

モチベーションはどこから来るのか?

英語学習にはモチベーションがすごく大事ということを強調したところで、どうすればモチベーションが湧いてくるか考えてみましょう。それを知るためには、モチベーションはどこからやって来るのかを知るのが近道です。

心理学には数多くのモチベーション理論があり、その多くはSLA(第二言語習得)でも研究されています。すごく大ざっぱに言えば、無数にあるモチベーション理論は3つの視点、「過去」「現在」「未来」のいずれかと深く関わります。

過去・現在・未来から来るモチベーション

つまり、モチベーションは私たち自身の 「過去」「現在」「未来」に対する思い から湧き上がってくるのです。

この中から、今回は未来志向のモチベーションについて説明します(次回は「現在」、最終回では「過去」に関わるモチベーションについて説明する予定です)。

可能性 ">3つの 可能性

私たちの未来にはさまざまな 可能性 があります。

最も想像しやすいのは、今の自分のままで達成できそうな「現状維持の姿」です。何か新しいことにチャレンジしなくても、これまで通りやっていけば実現する将来像。これは、英語では what we could become と表現します。

2つ目は、今のままでは難しいけれども、頑張って達成したいと思う「理想的な姿」です。そのためにはこれまで経験がないことにも果敢にチャレンジして、新しい力を身に付けていかなければいけない。英語では、 what we would like to become です。

最後は、できれば避けたい「残念な姿」です。人生何が起こるか分かりません。不運に見舞われたり、突然何もやりたくなくなったりすることもあります。英語では、 what we are afraid of becoming です。

この中で、どの姿を思い描いているときにモチベーションが湧いてくるでしょうか?

イメージがパフォーマンスに直結する

ある心理学の研究では、大学生にいろいろな将来像を想像しながら学習を行ってもらったところ、理想的な姿を思い描いている学生が最も良いパフォーマンスを発揮しました(Ruvolo & Markus, 1992)。つまり、将来に対するポジティブなイメージがやる気を生み出し、それがベストパフォーマンスを引き出したのです。

一見、驚くような研究結果ではないでしょう。でも、とても大事なことを示しています。それは、 どんな将来像を思い描いているか、たったそれだけでパフォーマンスが大きく変わる ということです。

例えば、大事な入社試験の面接に、どんなイメージを持って臨むでしょう?「失敗するかも・・・」と頭の中がネガティブなイメージいっぱいで行くと、本来の力を発揮できません。

人生の勝負時では、わくわくするくらい理想的な将来像を思い浮かべる。そう意識することで、最善の結果に近づけるのです。

「未来の目的地」を表すgoalとvisionの違いは?

ポジティブな未来について考えることは、モチベーションの供給源です。特に、長い期間にわたってモチベーションを持ち続けるには、理想的な将来像を思い描くことが、英語学習にも 有効 であると多くのSLAの研究で示されています。

ところで、 「未来の目的地」を指す言葉にgoalとvision があります。goalを持つこととvisionを持つことはどのように違うのでしょう?

まず、両者は時間的な距離感が異なります。goalはどちらかといえば近い地点を指すのに対して、visionという言葉からは遠い未来の姿がイメージされます。

また、「数値目標」と言われるように、goalは客観的で計測可能ですが、visionは主観的で感覚的です。

「未来の目的地」は、goalとして設定することも、またvisionとして思い描くこともできます。

例えば、次の表は「海外留学をする」と「キャビンアテンダント(CA)になる」という2つの目的地のgoalとvisionの例を表しています。

goal vs. vision

英語学習の話題からはそれますが、goalとvisionの関係は、「お金持ちになること」と「幸せになること」の違いにも似ています。どれだけお金を持っているかは測定可能ですが、どれだけ幸せかは主観的な思いであって数字で測ることはできません。主観なので、本人が幸せなら、他人が何と言おうと幸せです。

この表からも分かる通り、visionとgoalは相互補完です。どちらもモチベーションを生み出しますが、ルートが異なります。

目の前の短期的な目的を達成するにはgoalを設定することが 有効 。でも、いつもそれだけだとくたびれてしまうし、 そもそも 面白くありません。英語学習は苦行ではなく楽しい旅だと考えるなら、わくわくするようなvisionを思い描くことも大切なポイントです。

つまり、 visionを最終目的地としていつも心に秘めながら、その途中にあるgoalsを一つ、また一つとクリア していく。そうすれば、モチベーションを持ち続けながら順調に学習を進めていけるはずです。

英語を使っている姿を思い描く

英語学習のカギは、モチベーションを持ち続けること。これは何度強調してもし過ぎることはありません。そして、そのための 有効 な方法の一つが、 自分が英語を使っている 具体的な 将来の姿を思い描く ことです。

皆さんは、どんな英語の使い手になりたいでしょうか?誰か 具体的な モデルがいますか?

「自分の親は英語が話せる」とか、「いつも英語を教えてくれる先生に憧れる」など、身近にモデルがいる人はラッキーです。いつもその人を観察していれば、自然と 具体的な イメージが湧いてきます。そして、精巧な将来像を思い描くことができれば、その姿に引き寄せられるように英語も上達します。

もし身近に見当たらなければ、テレビや映画の中で探してみるのも一つの方法です。今では、インターネット上にgood examplesがあふれています。例えば、 TED Talks では、有名人から一般人まで、多彩な話し手による英語のプレゼンを見られます。

執筆者である私自身の理想像は?というと、「あまり 主張 し過ぎず、それでいて自分の芯はしっかりと持っていて、自分の考えを自分の言葉で堂々と伝えられる人」。それがイメージとしていつも心の中にあります。

それは、特定の誰かがモデルというわけではありません。これまで出会った人たち、例えば、大学院の指導教官、職場の 同僚 、街で偶然目にした知らない人、などなどの複合体が、私の憧れる英語スピーカー像を形成しています。このようにvisionは、実在する個人でなく、自分の中だけで生きているハイブリッドでもいいのです。

ぜひ自分なりの 理想とする英語の使い手 を思い描いてみましょう。きっと英語に対するモチベーションが湧き上がってくるはずです。

 

※この連載記事で案内していたシンポジウム「グローバル社会で生き抜く力を育てる外国語教育」(2/29、立教大学)は、コロナウィルスの感染 拡大 を受け、開催延期となりました。代替開催日は現在調整中ですが、決まり次第立教大学ウェブサイト( www.rikkyo.ac.jp )で お知らせ いたします。

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文:新多 了(にった りょう)

立教大学外国語教育研究センター教授。著書に 『はじめての第二言語習得論講義――英語学習への複眼的アプローチ』 (共著、大修館書店)、 『「英語の学び方」入門』 (研究社)など。現在は、立教大学の新しい英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。

編集:GOTCHA!編集部

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