アルクの 『中国とビジネスをするための鉄則55』から、これから中国とのビジネスを始めたい人、中国出張・駐在を控えている人たちに向けて、現地で役立つ情報をQ&A形式でご紹介します。第3回は「中国人とよりよい関係を築くコツ」です。
Q 中国人とうまくコミュニケーションを図るポイントは?
可能性 は数値化して示すなどを心掛けましょう。">A あいまいな表現を避ける、二重否定は使わない、 可能性 は数値化して示すなどを心掛けましょう。
声が大きい、自己 主張 が強い、言いたいことを遠慮なく言う――こうした点から中国人に対して、わがまま、身勝手、話を聞かないといったマイナスイメージを持つ日本人が多いようです。しかし、それは日本人の大きな誤解です。言うべきことははっきり 主張する こと、これが中国人のコミュニケーションスタイルなのです。
逆に、中国人の方も日本人に対して、別の意味で違和感を持つようです。それは、言いたいことをはっきり言わない、あいまいな言い方ばかりする、言うことと考えていることが違うといった違和感です。
さらに日本人に対して、何を考えているか分からない、無表情で冷たい、いつもニヤニヤしている(不気味なほほ笑み)と感じている中国人も少なからずいるようです。親しみを示すための表情もどうやら逆効果であるようです。また、日本人特有のあいまいな言い方は中国人とのコミュニケーションの中でしばしば誤解を生みます。
相手に言うべきことははっきり言う、あいまいな言い方をしない
「分からないわけでもないのですが……」
「できないとはっきり申し上げているわけではなく、何とか前向きに善処し……」
「そこを何とかこちらの事情もおくみ取りいただき……」
日本人同士ならよくありがちなコミュニケーションの様子ですが、恐らく中国人には通用しないでしょう。表現があいまいです。気持ちを察してもらったり、背景を理解してもらったり、言葉以上のコミュニケーションを中国人に期待しない方が無難です。言うべきことははっきりと言葉にして告げるべきです。
日本人同士なら場の空気を察して、相手の言わんとしている意図をくみ取ります。しかし、中国人とのコミュニケーションはなかなかそういうわけにはいきません。あいまいな言い方をせずに、できることは「できる」、できないことは「できない」、「イエス」は「イエス」、「ノー」は「ノー」とはっきり言うべきでしょう。
可能性 を数字で表現し相手に伝える( 可能性 の数値化)"> 可能性 を数字で表現し相手に伝える( 可能性 の数値化)
「田中さん、来月上海で重要な会議がありますが、日本から出席できますか?」
「いやぁ、行けないわけじゃないんだけど……、今はっきり行けるとは即答できない事情があって……、何とかしたいと思うのだが……」
田中さんは上海に行くのでしょうか? 行かないのでしょうか? そもそも 行く気があるのでしょうか? 田中さんの答え方はあいまいです。
そこで「できる かどうか 」の 可能性 を 具体的な 数字で表して相手に伝えるという方法を試してみてください。「 可能性 の数値化」という吉村流の表現方法です。
「田中さん、来月上海の重要会議、出席できますか?」と同じく中国側の質問。
「現状で行ける確率60パーセント、行けない確率40パーセント。その理由は……」と数字で回答。続けて、「しかし、いま抱えている課題の 処理 が月末までに終われば、行ける確率90パーセント、行けない確率10パーセント」と表現します。
つまり、「できるか、できないか」または「するか、しないか」といった 可能性 を数字に置き換えて分かりやすく表現するわけです。もちろん数字は個人の感覚的なものです。できる かどうか をざっくり表現するもので、微妙な違いには 具体的な 根拠があるわけではありません。しかし、少なくとも言わんとする意図は伝わるはずです。
「善処します」「前向きに検討します」はやる?やらない?
「善処します」という言葉は本当に実行するのか、それとも社交辞令的にその場を取り繕ったのか、それともまったく実行する意思がないのか、日本人なら相手の表情と場の雰囲気を察して理解します。しかし、中国人には果たしてそのニュアンスが伝わるでしょうか? もし、「善処します」という言葉を額面通り 受け取る と肯定の意味です。
「善い方向へ対処する」ことです。「前向きに検討します」とは、「相手が期待する方向へ方策を考えること」です。言葉の意味的には「イエス」であるはずです。 しかし、日本人が「善処します」という言葉を使うときはむしろ否定の気持ちを表すことが多いのではないでしょうか? 少なくとも積極的に実行するときには「善処します」とは言いません。仮に「 可能性 の数値化」で表現するとしたら、限りなくゼロパーセントに近い数字でしょう。
「善処します」は否定的な見解を述べるときや結論を先延ばししたいとき、または結論を導き出すまでの時間を稼ぎたいときに日本人同士で使う言葉です。もし、議論の先送りや時間稼ぎであれば、それは作戦の一つです。しかし、中国人との対話では不用意にギャップを生まないためにも使うべきではありません。やはり言うべきことは言葉にしてはっきり伝えること、これがコミュニケーションの基本と考えるべきでしょう。
「社に帰って検討します」にも要注意
「社に帰って検討します」は別の意味で要注意です。キーワードは「決定権」です。もし、あなたが「社に戻って検討します」と言うと、中国側は「あなたは決定権を持たされていない担当者」と受け取ります。基本的に決定権を持っていない担当者とは話し合いやビジネス折衝をしないのが中国人です。相手の担当者は決定権を持たされて話し合いに臨んでいるはずです。
「上司に相談してきます」「部長の 判断 を仰ぎます」も同じです。決定権が自分にないことを相手に暴露しているようなものです。話し合いの当事者はあくまでも自分であるという姿勢が必要です。
仮に最終決定には社長の 承認 が必要な場合でも、「私が許可を取り付けてきます」「私が社内を説得して持ち帰ります」といった主体性を相手にしっかり示すべきです。「社に帰って検討します」という言葉は「私には決定権がない」と相手に宣言しているようなものです。使い方にはぜひ注意してください。
Q 会議の参加者全員にCCメールを送ったら、中国側に嫌な顔をされました。どうしてですか?
A 有益な情報であればあるほどリーダーが管理し、誰と共有するかはリーダーが決めるもの、と中国人は考えるからです。
「ミーティング後、CCメールを先方の参加者全員に送ったら嫌な顔をされた」
「なぜ全員にメールをCCするのかと相手のリーダーからクレームが来た」
ちょっと戸惑うかもしれませんが、中国側とのやりとりの中でこうしたケースがしばしばあります。良かれと思って送ったCCメールを受け取った相手がきちんと見ていなかったり、責任者からクレームの返信が来たりすることがあります。CCメールとはメンバー間で情報を共有することが目的であり、日本であれば関係者全員にCCメールを送ることは一般的なのですが、中国では必ずしもそうではありません。
「 今後 、CCメールはやめてください。メールは私あてでオーケーです」「誰と誰に情報の共有をさせるべきか、それは私が 判断 します」「重要な情報はまずは私にメールしてください」と考えるリーダーが多いようです。
必要な情報を誰と誰に伝えるかはリーダーが 判断 し、決めるべきことと考えます。 有益な情報であればあるほど情報はリーダーが管理します。
相手からメールの返信がないというケースもしばしば
また、「メールを送っても返信が来ない」「相手からの応答が遅い」というケースがあります。日本語のメールなのか英語でのメールなのか、さらに相手は英語が得意な担当者か、それとも苦手な担当者か、それによっても対応のスピードは違ってくるかもしれません。しかし、まったく返信がなく、こちらから送ったメールを「見ているの かどうか 、それすら分からない」といったケースも少なくありません。
日本的な常識では、メールを受け取ったときにまず「メールを見た」ということを相手に返信するでしょう。その上で、もし 具体的な 回答に時間が必要であれば、「いつまでに返答する」「○日間待ってほしい」というやりとりをするのが一般的です。
しかし、中国とのやりとりではまったく返信がなかったり、いくら返信を要求しても対応が遅かったり、期待通りには返信が来ないこともしばしばです。また、メールのやりとりだけではコミュニケーションには限界があります。
特に、相手の会社の代表メールに対して初めての 問い合わせ をするときや、担当者がまだ正式に決まっていない段階でのやりとりには注意が必要です。誰が窓口なのか、誰が担当者なのか、キーパーソンを探し出すまでが大変です。
また、やっと見つけ出したキーパーソンもスピーディーな返信をしてくれるとは限りません。答えにくい質問は避け、最初はできるだけ受け答えしやすい内容でやりとりを始めることが相手とのスムーズなコミュニケーションのコツです。
NO 」メールでやりとりする">返信は「YES」「 NO 」メールでやりとりする
すぐに 返信がほしいメールは「YES・ NO 形式」のメールが 有効 です。たとえば「納期は予定通り今月末で間に合いますか?」というメールを相手に送るとき、メール文の中に、□ YES □ NO という選択肢をあらかじめ書いて送るのです。相手はこちらからの質問に対して、記号を黒に塗りつぶし、■ YES、または■ NO で回答してきます。
または□ OTHERSという選択肢を加えておき、そこに書き込みをしてもらうことで相手の考えを引き出すという方法もあります。YESか NO か、できるだけシンプルな形で回答を迫るという点が、 すぐに 返信メールが欲しいときのコツです。
相手への問い掛けは「三択メール」でやりとりする
私はメールのやりとりでは、原則として「5W1H」の質問はしないようにしています。「5W1H」の質問とは「どう思いますか?」「何が問題ですか?」「どのように進めるべきでしょうか?」など、疑問詞を使った疑問文です。これは吉村流ですが、相手に対する質問はすべて「三択」で相手に投げ掛けます。
「納期 に関して お知らせ ください」というメール文に続けて、
□ 予定通り、□ 若干遅れる 可能性 あり、□ 遅れる 可能性 が大きい
という選択肢をメールに書いて送ります。 もし、「遅れる 可能性 が大きい」と知らせてきたら、「どのくらい遅れる 可能性がある か知らせてほしい」と伝えて、
□ 1週間程度、□ 1カ月程度、□ それ以上
と選択肢をまたメールに書いて相手に送ります。
さらに、対処方法を確認する場合も「どう考えますか?」「どうすればいいと思いますか?」といった疑問詞での質問(「5W1H」を使ったやりとり)をしません。 ここでも三択で、
□ テレビ会議を行いたいのか、□ 日本側の中国出張を 希望 するのか、□ 根本的な 契約 の見直しが必要と考えているのか
といった三択で問い掛けます。
「なぜですか?」「どのような状況ですか?」といったメールはできるだけ避け、答えを先回りして相手の考えを三択で引き出すことを心掛けます。これがメールをスピーディーにやりとりするコツです。
Q 中国人とうまく付き合っていくために心掛けることは?
A 「当たり前」を疑ってみる。お互いの文化や価値観などの違いに気付くことが大事です。自分たちの常識を一つ一つ再点検してみましょう。
異文化理解の基本は当たり前と思うことを疑ってみる姿勢を持つことです。私たちが当たり前だと思っていることで、実はそうではないことがたくさんあります。日本人が「常識」だと考えていることが世界から見ると「非常識」であるということもあるのです。こうした違いに気付くこと(気付き)、自分たちの当たり前をもう一度確認してみること(自己確認)、接点を見つけ出すこと(接点探し)、この三つの階段が異文化理解を深めるためのプロセスです。ここではビジネスシーンでよくある中国人と日本人の当たり前の違いをいくつかまとめてみましょう。
お礼を言わない中国人
食事会の翌日、部下から「昨日はごちそうさまでした」とお礼の一言がない……。中国ではその日のお礼はその日にその場で済ませることが基本。日を 改めて お礼を言うことは「また私にごちそうしてください」という催促の意味に受け取られることもあります。催促することは「はしたないこと」と考えて、あえてお礼は言わないのです。お礼がなかったからといって「礼儀知らず」というわけではないのです。
同僚 が残業していても定時に帰る"> 同僚 が残業していても定時に帰る
「大変だね。よかったら何か手伝おうか」と声を掛けるのが日本では一般的でしょう。 協力 し合って、助け合って仕事をするのが日本流です。しかし、中国では一人一人が与えられた職務を果たすことを考えます。「自分がやるべきこと」「果たすべき役割」を意識して仕事をします。残業をしている相手に「手伝おうか?」と声を掛けることは、実は失礼なことです。こちらは親切のつもりで言ったのに、「私の仕事に口を出さないで」「自分の仕事を取らないで」と考える中国人もいます。
初対面の相手にいきなりプライベートな質問をする中国人
中国人は出身、家族、結婚、子ども、仕事、年収など、初対面の相手が遠慮なくいきなりプライベートな質問をしてくることがあります。これは「少しでも早くあなたを知りたい」という気持ちの表れです。急接近で一気に二人の距離感を縮めてくるのが中国人の特徴。「早く仲良くなりたい」「あなたに興味を持っている」という気持ちの表れです。失礼な態度だとかなれなれしいとか思わないで、皆さんの方からも急接近してみてください。これはむしろ歓迎すべきことなのです。
初対面の相手を食事に誘う中国人
同じように初対面の相手でも遠慮なく食事に誘うのが中国人です。「食事をする時間がありますか?」「次はいつ中国に来ますか?」「ぜひよかったら食事でもご一緒に」と積極的に誘ってきます。「時間があったらぜひ」「機会があれば」といった社交辞令的な答え方は避けて、興味を持った相手ならむしろ積極的に皆さんの方から食事の機会を作ってみてください。
冷めた料理には手を付けない中国人
基本的に中国人は冷めた料理は食べません。料理はすべて熱々のものを出すのが基本です。ミーティング中、昼食にお弁当を出すとき、どんなに立派な高級仕出し弁当であっても冷めていたらダメです。レンジで温めたコンビニ弁当の方がむしろ喜ばれます。アツアツのものじゃないとダメ。冷めたものは「残り物」、残ったご飯は「残飯」と考えるのです。
異文化理解とはどちらが正しいか、どちらの方が優れているかといったように、どちらかに優劣を付けることではありません。もちろん、異なる価値観を否定して、排除することがあってはいけません。しかし、違いをそのまま受け入れればいいかというと、そうでもありません。相手の価値観に合わせることでも、相手のすべてを無条件に受け入れ ることでもないのです。
まずは、自分たちとどこが違うのか、どう違うのか、違いに気付き、自分たちの当たり前を再確認し、接点を見つけ出していこうという姿勢を持つことが大切です。