
日進月歩する生成AIの存在によって、「英語学習はもう必要ない」という考えが台頭するようになった現代。そんな中で毎日数時間、コツコツと英語を学び続け、英語力を高めている「とげまる」さんという人物がいるのをご存知ですか?「タイパ」「コスパ」も声高に叫ばれる中で、なぜ愚直に英語と向き合い続けることができるのかを聞きました。
目次
AIがあるから「もう英語学習は不要」?
英語や英語学習にまつわる環境は常に変化しています。スマホひとつあれば簡単に良質なコンテンツを利用でき、SNSを通して世界中と繋がることも可能。手間や費用はほとんどかからなくなりました。
そして昨今は生成AIの隆盛により、「英語学習不要論」までもが出ているほど。機械翻訳の精度は格段に上がり、「自分で英語を書く必要がない」現実も確かに存在します。仕事で英語のメールや書類を書く際、ChatGPTが不可欠という人も少なくありません。
つまり、私たちは「英語を学ぶ環境はかつてないほど整っているが、あえて英語学習をする必要もない(かもしれない)時代」に生きているのです。英語との向き合い方に迷う人も多いのではないでしょうか。
そんな現代において、粛々と英語を学び続ける人がいます。その名は「とげまる」さん。毎日欠かさず、時に6時間にも及ぶ英語学習記録をX(@KTogemaru)に投稿し続けています。淡々とした学習報告からは英語への真っ直ぐな想いが滲み出るとともに、TOEICスコア990点、英検1級、国連英検特A級、ケンブリッジ英検CPEの取得など、その実力はかなりの上級者です。
予備校の英語講師としても忙しく活動するとげまるさんに、「なぜ英語を学ぶのか?」、そして「なぜ学び続けられるのか?」を聞いてみました。(文・構成:渡邊 淳)
とげまるさんインタビュー

英字誌で「読む・聞く・話す」のトリプル活用
―― とげまるさんは現在どのような仕事をされているのですか。
福岡の予備校に社員として勤務し、英語講師をしています。主に高校生を対象として大学受験指導をしていますが、社会人に TOEIC や英検1級対策を教えることもあります。個別指導で、生徒さんそれぞれに合わせてカスタマイズした授業を提供しています。
―― 週何日、何時間くらい勤務されていますか。
週5日です。労働時間は固定ではないのですが、平均すると授業しているのは5~6時間くらいですね。ちなみに通勤時間は往復2時間です。授業の準備は授業とは別に週2日の休みの日に行っていて、7~8時間かけています。
―― それはなかなかお忙しいですね……。それでもX(旧Twitter)で毎日、学習内容と学習時間を報告されています。どういう学習なのか、もう少し詳しく教えてください。
英字誌などのメディアを用いた学習が中心ですね。はじめはTOEICの問題集などで勉強していたのですが、英語力が思ったほど上がらなかったことが、学習内容を見直すきっかけになりました。TOEICのスコアは上がっても、生の英語やリスニングにはあまり効果がなかったんです。「もっと生の英語に触れたい」と思っていた時に、国連英検の勉強を始めたこともあって、英字誌を読むようになりました。
――どの英字誌を使って、どんな風に取り組んでいるのですか。
「Foreign Affairs」や「The Economist」などの時事系の雑誌を定期購読しています。国際情勢を知っていると、国連英検にも、英検1級の二次試験にも役立ちますからね。特に、AIや気候変動、アジア、中国、ヨーロッパ、アフリカの情勢についての記事は必ず読むようにしています。また、読むだけではなく、リスニングやスピーキング練習も行っています。
―― 英字誌でリスニングやスピーキング練習というのは、一体どうやって……?
意外に知られていないんですが、The Economistのデジタル版を定期購読すると、購読者専用サイトで一部の記事の音源が聞けるんですよ。その音源を活用しています。
記事を読み終えたら、音源を使ってシャドーイングを行います。0.75倍速から始めて、通常速度→1.2倍速→1.5倍速とスピードを上げて、負荷を高くしていきます。
シャドーイングを終えたら、記事の内容を自分の言葉で要約して1分間で話し、さらにそれに対する自分の意見を1分間で話すアウトプット練習をします。このやり方なら、リーディングだけでなく、リスニングやスピーキングの力も磨くことができます。以上をすべて終えたら次の記事に取り組むようにしています。
- 【The Economist】
WEBサイト:https://www.economist.com/
発行間隔:週刊
購読料:1冊あたり1,499円(※編集部注:参考価格、2025年4月1日時点。購読年数、月払い/年払い、購入サイトなどによって料金は異なるのでご注意ください)- 【Foreign Affairs】
WEBサイト:https://www.foreignaffairs.com/
発行間隔:隔月刊
購読料:1冊あたり3,850円(※編集部注:同上)
AIを介さず「英語を直接理解できる」というアドバンテージ
―― 学習時間と密度がすさまじいですね。そのモチベーションはどこから湧いてくるのでしょう?
ただ「英語が好きだから」というのが大きいです。英語に触れるのをやめてしまうと、これまで積み上げてきたものが崩れてしまいますし、指導者として日々アップデートしていたいこともモチベーション維持につながっています。
―― 最近は「英語なんてAIがあるから学ばなくてもいいじゃないか」とか「英語ばっかりできてどうするの?」といった声もありますが……。
本質として、言語はコミュニケーションをするためのツールです。AIがどれだけ発達したとしても、AIは人の感情を読み取ったり、相手の表情を理解したりすることは難しいのではないでしょうか。人間同士の直接的なやり取りでしか伝わらないことはあると思います。
会話だけでなく、「読む」ことも、筆者の意図を汲み取るという点では立派なコミュニケーションですよね。実は、The Economistの記事をAIに翻訳させると、結構めちゃくちゃなこともあるんですよ。機械翻訳を挟むと時間もかかりますし、英語を直接理解できることで得られるアドバンテージは依然として非常に大きいです。
もちろん英語だけできていればいいとは思いませんけれど、少なくとも私の人生は、英語を学ぶことで豊かになっていると感じています。それは、誰からも否定されるものではないと思います。
―― その通りですね。そもそも、とげまるさんはなぜ英語が好きになったのですか。
英語が自分を救ってくれたからです。大学時代にいじめを受けて引きこもっていた頃、心理カウンセラーの先生から「あなたは英語のセンスがあるようだから、TOEICを勉強してみたら?」と言われたんです。2015年3月21日だと、今でも覚えています。当時の私の英語力は、英検2級、TOEIC405点で、全然「英語ができる」というレベルではなく、その一言をきっかけにちゃんとしたTOEIC学習を始めました。
1年半でTOEIC 405点 → 905点の大幅アップ!
―― ちょうど10年前ですね。TOEIC405点から、どこまでスコアが伸びたか教えてください。
集中して勉強するようになり、半年後の2015年9月に730点、翌2016年1月に845点、9月に905点と順調にスコアを伸ばすことができました。自分が成長している実感が心の支えになり、引きこもり状態を脱することもできました。
900点台後半に入ってからは少々足踏みした時期もありましたが、2021年9月に990点満点を取得。この間、TOEICだけではなく、英検1級、ケンブリッジ英検CPE、国連英検特A級にも合格することができ、今ではこうして英語を教えることを仕事にできています。

(拡大してご覧になりたい方は、 コチラ からどうぞ)
英語「を」学ぶのではなく、英語「で」何かを得るために
―― とげまるさんが今、目指していることは何でしょうか?
「英語のその先」を生徒さんに教えることです。特に高校生には「英語ができたらこういう世界が見える」ということを伝えたいと思っています。
例えば早稲田大学の入試では、The EconomistやThe New York Timesの記事が出題されることがあります。教養あるネイティブが読んでいるメディアの英文は、高校生にはかなりハードルが高いのですが、入試対策を通じて社会問題を取り扱った重厚な英文に触れることで、英語「を」勉強するのではなく、英語「で」情報を得る、英語「で」何かをするということを意識してもらいたいんです。
―― 「受験のためだけ」で終わるのではなく、将来に役立ててほしいということですね。
はい。先ほど話に出たように、AIの台頭によって英語を学ぶ必要性が薄れている、と主張する人もいます。でも、ビジネスの国際共通言語は英語ですし、学術分野でも最新情報の多くが英語で発表されています。英語は、単なる翻訳や情報収集だけでなく、自分の考えを国際的な場で発信したり、多様な文化背景を持つ人々と直接交流するためにも欠かせません。
ですから、受験で合格点を取らせる指導にとどまらず、受験という機会を利用して、英語で考えること、自分の考えを表現することを学んでもらえるような指導を心がけています。
とげまるさんの「TOEIC990点」ロードマップが知りたい
試行錯誤を重ねながら、今も毎日英語と向き合うとげまるさん。その真摯な姿勢に、筆者も含め、身が引き締まる思いの方も多いのではないでしょうか。とげまるさんは自身のXアカウントを通して、毎日の学習記録のほか、記事でも触れたアウトプット練習(スピーチ実例)などもシェアしてくれているので、ぜひ参考にしてください。
スピーキング DAY10
— とげまる| 和田 啓 (@KTogemaru) April 12, 2025
お題はShould a country spend more money on education of vocational skills for practical work than university education?
今回は英検1級のスピーチ形式で喋りました。台本無しで1分でアイデアを考えてそのまま喋ってみました。 pic.twitter.com/kXAGsAynVy
私がやっているライティング勉強法。
— とげまる| 和田 啓 (@KTogemaru) April 12, 2025
ライティングは実は一番苦手な技能なのですが、以下の学習法を習慣にしているお陰で試験ベースで言うとケンブリッジ英検CPEでC2判定を頂けたこと、英検1級のエッセイで安定して30点以上、TOEICのライティングで190/200を取れるようになりました。… pic.twitter.com/JsZetp35TW
スピーチの動画や学習方法、勉強中の語学書の紹介など、とげまるさん自ら実践した上での「本当に役立つ生の情報」が満載です。
そして、英語学習者が最も気になるのはきっと、とげまるさんのTOEICのスコアの伸び方でしょう。2015年3月の405点から1年半で500点アップの905点に到達するとは、驚くべきスピードです。いったいどのように学習したのでしょうか。
そこで、次回から3回にわたって、とげまるさん自身に「990点への道」を語っていただきます!ぜひご期待ください。