英語の文章を読んでいて、「たぶんこういう意味だろうけど、なんだかしっくりこない」と思ったことはありませんか。もしかしたら、それは「読める」つもりになっているだけの「誤読」かもしれません。書籍『「英語が読める」の9割は誤読』をチェックしましょう。
翻訳家が掲げる「4箇条」とは?
書籍『「英語が読める」の9割は誤読』の著者は、越前敏弥(えちぜん としや)さん。数々の文芸作品を手掛ける著名な翻訳家です。その名前を目にしたことがある人も多いのでは?
翻訳家としてだけではなく、翻訳術を指南する講師としても活躍しています。プロの翻訳家でもあり、指導経験が豊富な講師でもあることから、英語学習者が間違いやすいポイントをよく知っているというわけです。
そんな著者が、本書で掲げる「誤読・誤訳を減らす4箇条」は次の通り。
1 原則として左から右へ読み、「 予想 →確認」と「 予想 → 修正 →確認」のプロセスに意識を向ける。一見、どれも当たり前のことのように思えますが、実は私たちがおろそかにしていることばかり。これができていないから、誤読や誤訳をしてしまうのです。2 「形の違和感」「意味の違和感」を察知するアンテナを敏感にする。そのためには、ある程度の文法・語彙の知識も必要である。
3 自分の弱点である文法事項を知り、その部分を 強化する 。
4 自分の知識を過信せず、つねに調べ物を怠らない。
では、文法力や語彙力が、英語の読解にどう 影響 してくるのか、本書の例を見てみましょう。
英語は「左から右へ読む」
まずは、一見ごく簡単に見える以下の英文です。あなたならどう訳しますか?
The author wrote the novel was her best friend.本書によれば、高校生だと半分くらいの人が、「その小説を書いた作家は彼女の親友だ」と読んでしまうそうです。
そうなる理由は、先ほどの「誤読・誤訳を減らす4箇条」の一つ目、「左から右へ読む」というルールを守っていないから。
著者は次のように推理します。
おそらく、ざっと全体を見て、左端の The author と右端の was her best friend が 同時に 目にはいり、「その作家は親友だ」という骨組みが最初に頭のなかにできたのでしょう。つぎに、残っている真ん中の wrote the novel が目にはいり、(中略)「その小説を書いた作家は彼女の親友だ」とし、それなら意味が通るからOKとしたはずです。「確かに自分もそう考えていた」という方もいるかもしれません。簡単な単語が多いと、パッと見て分かったような気になってしまいますよね・・・。
しかし、英文法の知識があれば、ここで自分の間違いに気づけるはず。「その小説を書いた作家は彼女の親友だ」という意味なら、英文は次のようになるからです。
The author who wrote the novel was her best friend.言われてみれば確かにその通り。それでも読み間違えたのは、やはり「左から右へ読む」というルールに従わなかったからです。
本書では、次のように言い切っています。
誤読・誤訳が多い人は、まずこの「左から右へ読む」に気を付けてください。(中略)このルールを無視して速読しても、誤読の山を築くだけです。英語は「左から右へ読む」 。初めて英語に触れた小学生でも知っていることですが、英語に慣れている(と思っている)人ほど、実はおろそかにしているかもしれません。リーディング力アップのために、深く心に刻んでおきましょう。
ちなみに 、先ほどの英文の意味は次のようになります。
The author wrote the novel was her best friend.その小説は自分の親友だ、とその作家は書いた。
語彙の知識も必要
もう一つ、興味深い例を紹介しましょう。
2020年、テレビでもネットでもこんな英文をよく見かけましたね。記憶に残っている方も多いと思います。
Black Lives Matter .この英文、初めて見たときどういう意味だと思いましたか?
正直に言いますと、私は「黒人の命は問題だ」という意味かな、と思ってしまいました。 matter は名詞だと思ったのです。でも、それでは文法的に変だという感じはしましたが・・・。
この場合の matter は「~は重要である」という動詞 。となると、よく見かける「黒人の命は重要だ」という和訳で合っているんだと思ってしまいますが、そうすんなりとはいかないのが言語の難しいところであり、深いところです。
本書では次のように述べています。
英語表現としてのニュアンスを考えるとき、忘れてはいけないのは、動詞の matter はふつう肯定文では使われないということです。"Does it matter ?" や " It doesn’t matter .” など、疑問文や否定文で用いられるのがふつう。つまり、"Black Lives Matter ." というとき、 matter には単に「重要だ」ではなく、「重要じゃないなんて、とんでもない!」という反発・抵抗の響きが確実にあります。本書によれば、"Black Lives Matter ."に対しては「黒人の命をないがしろにするな」くらいが適訳とのこと。とても強い抗議の気持ちが込められているんですね。
matter という一つの単語に込められた深い意味が分からなければ、このメッセージの真意をくみ取ることはできません 。「黒人の命は重要だ」という和訳は、間違いではないかもしれませんが、大人しすぎるような気がします。
「誤読・誤訳を減らす4箇条」には、「ある程度の文法・語彙の知識も必要」「自分の知識を過信せず、つねに調べ物を怠らない」とありましたが、確かにその通りです。
まとめ
本書には、英文解釈の問題が40問、訳しにくい単語や熟語が40例も載っています。読み進めるにつれ英文や語彙の知識を磨けるので、初心者から中級者の英語力アップにぴったり。
さらに、著者が翻訳の仕事を続ける中で突き当たった難問や、文芸翻訳ならではの技巧を紹介した章もあり、翻訳に興味のある上級者も楽しめます。
私自身は、語彙や文法の学習は大切だとは思うものの、なんとなく面倒に感じていました。しかし、それが身に付いているかいないかで、これだけ読解力に差が出るんだなと実感し、「やっぱり頑張らなくては!」という気持ちに。これを機に大学受験向けの文法書を買ったので、コツコツ復習していきたいと思っています。
書籍『「英語が読める」の9割は誤読』は、英語を正しく読むことの難しさと面白さが分かり、やる気が湧いてくる本でした。
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