通訳・翻訳者で、エディ・レッドメインやエド・シーランなどの通訳や英語インタビューも行う川合亮平さんの連載「トーキョー通訳日誌」。川合さんが体験したリアルな通訳現場のお話を通して、通訳者として成長していくための「仕事のやり方」や「英語学習法」などを教えていただきます。第3回では「Stay Home期間中のおすすめ英語学習法」を紹介します。
こんにちは、川合亮平です。
好むと好まないとに かかわらず 、これまで(厳密に書くと今年の2月くらいまで)のライフスタイルと今のライフスタイルが大なり小なり変化した、という方は少なくないのではないでしょうか。
僕の場合、秋からずっとオリンピック関連の通訳を集中的に行ってきたのですが、これまで「会議室で」行っていたのが、おおむね「自宅でパソコンで」、というふうに変化しています。
リアルの場で実際に人の表情や仕草を見て、その場の空気や雰囲気を共有しながらの通訳と、自宅でパソコンから伸びるイヤホンに耳をすませながら行う通訳、醍醐味(だいごみ)という意味ではもちろん前者が勝ります。
それでも、日本語をインプットして同じ意味の英語をアウトプットする、英語をインプットして同じ意味の日本語をアウトプットする、という根本的活動は同じなわけで、形態がどうであれ、その根本の部分は僕に十分なやりがいを与えてくれます。
さて、通訳の仕事のやり方が変化したのと 同時に 、日常も変化しました。
僕個人的にいちばん大きいと感じている変化は、“子どもたちが始終家にいること”です。
それに伴い、家事の量がうんと増え、一人で集中できる時間が(極端に)短くなりました。(まあもちろんいい面も少なくないんですけどね。ただ、今回の記事の構成上、マイナスと取れる面を意図的にフィーチャーしています)
“Stay Home”のニュースタンダード
僕はもともと、朝4時半に目覚ましを鳴らして子どもたちが起きてくる7時前までを、日々の勉強時間(場合によっては仕事をしたり雑務をしたり)に充てていました。
でも“Stay Home”がニュースタンダードとなった数カ月前からは、朝4時に目覚ましを鳴らすようにしています。
日中は、暴れたい盛りの3人の子どもたちが周りで(文字通り、そして比喩的にも *1 )跳ね回っているので、個人的活動が制限されます。ゴマに般若心境を書くような集中力を持っていれば、周りで何があろうが気にせず自己活動に没頭できるでしょうが、僕の集中力では今の所キッズ・ノイズに打ち勝つことは難しいのです。
だから「自分だけの静かな時間を!」という 希望 を叶えるためには、 家族が寝ている時間を最大限活用する 、という発想になるわけです。
ともあれ、僕は今、この“Stay Home”の状況の中、どんな勉強をしているのか?というのを今回はざっと紹介していきますね。
一応断っておきますが、僕の勉強法が正しいというつもりは毛頭ありません。勉強法というのはあくまで個人的なもので、しかもその時々の状況に応じて流動的に変化していくべきものだと思っているからです。
とはいえ、僕のやり方があなたが今行なっている勉強のなんらかのヒントや刺激になったり、または、これから勉強をしたいと思っている方のインスピレーションになったりすれば、とてもうれしく思います。
今僕はこんな勉強をしている
それぞれ深く書こうと思えば長文になってしまうので、以下、ざっと紹介していきますね。
単語・表現・言い回しを頭に刷り込むための音読(主に早朝)
通訳の現場で自分の言葉としてすらすら使える単語や表現をもっともっと増やしていく、というのが僕の勉強の大きな目標になっています。それをコツコツ、確実に自分の中に蓄積していくために、 reminDO というアプリに記録した、『 自分が使えない単語や表現が含まれた文 』、そして『 その単語や意味の英語の説明 』を音読しています。この学習に充てる時間としては1日30分取れればいいかな。
素材を繰り返しシャドーイング(主に早朝)
シャドーイングの素材としては、 『ENGLISH JOURNAL』 、多聴多読マガジン誌、 BBC Learning English(アプリ) から、その時々で自分の好きな素材(1つ3分?10程度)をピックアップしています。しっかり頭に擦り込めるように、 同じ素材をローテーション にして、定期的に 何度も何度もシャドーイング します。時間としては1日30~40分程度が理想です。
知らなかった単語・表現・言い回しをチェックする
上記に書いた音読をするための 例文をreminDOに記録 していく 作業 です。1日3個を目安としています。 抽出 元は、上記のシャドーイング素材、今読んでいる洋書Kindle、または、普段テレビなどを見ていて出合った (自分にとっての)新出単語・表現です。
上記3つまでは、どちらかというと“勉強”という性格が強いのですが、ここから以下は僕にとって楽しみと勉強の境が曖昧なものです。
洋書kindle読書(多読)
2020年は、1年で20冊読破することを目標に毎日読み進めています。全く読めない日もあるけど、1日30分?60分程度読むのが理想。読書の時間は、(今はめっきり少なくなったけど)電車での移動時、“Stay Home”のときは昼過ぎ・夜に取るようにしています。
今読んでるのはコレです
英国の作家 Robert Galbraith 氏の現代ロンドンを舞台にした、本格ミステリー『ザ・ストライク・シリーズ』の第1巻。
『The Cuckoo ’s Calling』
- 作者: Galbraith, Robert
- 発売日: 2013/04/30
- メディア: ハードカバー
そう、実は、 ハリーポッターのJ. K. Rowling氏の別名義 なのです。
「え?!あのJ. K. Rowlingがロンドンを舞台にした本格ミステリー?!」って僕は思いました。初めて知ったときは。
現在3巻まで刊行されており、 今後も 継続予定。BBCのドラマシリーズにもなっていて、日本ではAmazonプライムで有料オプションとして字幕版を視聴することができます。
僕はまだ読み始めたばかりなんですが・・・、え?感想?
期待通り!!
とだけ、 とりあえず 書いておきます。
ポッドキャストを多聴する
ポッドキャスト多聴歴約18年(ちょっと自慢)です。
今の生活の中では、主にジョギングするときや、自転車でスーパーに買い出しに行くときなどに聞いてます。
最近リスニングオプションに追加した番組
Stuck at Home (Fun Kids)
www.funkidslive.comUKの子ども向けラジオ番組のポッドキャスト。
子ども向けなので、英語が易しくて聞きやすいし、内容も自然科学・エンタメ・日常生活・文化など、バラエティに富んでいて普通に勉強になります。
全編を通じてのあくまで陽気な雰囲気も大変気に入ってます。
海外ドラマ・映画
理想的には1日1話、自分のお気に入りの海外ドラマシリーズを見たいと思っているんですが、なかなかそうもいってないのが現実です。現状、土・日に、上記の単語とシャドーイング学習の 割合 を減らして、こちらの時間を取るようにしています。
気になってるけど見られてない英国ドラマ
BBCの2019年の話題ヒット作、Good Omens(グッド・オーメンズ)。
宣伝ビジュアルを見る限り、ド派手なファンタジー・コメディのようなんですが・・・。
そのほか
夕食の支度をするときに BBCのiplayer というアプリを使い、家のSONYのスピーカーからBBC Radio2のライブ放送を流しています。勉強といえるのか?それはなんとも言えませんが、まあなんとなく雰囲気づくりですね。どんな形であれ 英語のインプット量は多いに越したことはない と思っているので。
学習の新たな習慣となるか?
これはまた別記事として書ける 可能性がある トピックなのですが、最近、 オーディオブック がすごくいいなと思い始めています。
事情があり、つい先日1冊のオーディオブックを1週間程度で読了(聴了)しました。
その エンタメ度、学習効果、時間効率 のポテンシャルの高さをひしひし感じています。
ちなみに この小説なんですが。
アンカーを持つことの大切さ
現在のパンデミックの状況を受けて、将来が以前にも増して不透明に感じられ、ある種の不安を感じていらっしゃる方は少なくないかもしれません。
僕自身はどう感じているかというと、ビフォーコロナの際の心理状態と比べて、実は内面的にはそれほど、いやむしろほとんど変化していません。
「自分は精神的に強いのだ」と言いたいのでは決してなく、たぶん、“ 将来の不透明性 ”というのは、僕にとってはそれほど真新しい現実ではないからです。
平坦ではなかったこれまで13年間のフリーランス人生を振り返ると、それは常にそこにあるものでした。
13年をかけて、その状態に徐々に慣れてきた、といえるかもしれません。
自分でコントロールできない諸行無常の外部の状況と(できるだけ穏やかに)共存していく上で、フリーランスとして僕が学んだある種の 処世術 を今回の記事の最後にシェアさせてください。
それは、「 自分だけのアンカーを持つこと 」です。
アンカー=(船の)いかり、ですね。
どれだけ海が荒れていようが、どれだけ風が吹こうが、アンカーさえしっかり固定していれば船が漂流する 心配 はない。
つまり、周りの状況がどうであれ、 自分がコントロールできる・自分が頼れる何かを持つ 、ということですね。
そして、僕にとってのアンカーの一つは「 勉強をすること 」なんです。
フリーランスとして経済的安定感に欠ける(少なくともそう感じる)ケースはこれまで少なくなかったのですが、そんなときでも動揺せず「とにかく今自分にできる勉強に集中するんだ。勉強さえしていれば大丈夫なんだ」と思えるように今はなっています。
多少大げさかもしれませんが、根本的にはそういうことです。勉強することで実力が上がれば、それに応じてチャンスも訪れるんだ、という自信です。
「じゃあ勉強さえしていれば、本当に仕事は来るんですか?その因果関係を説明してください」と言われてしまうと、あなたが納得できるような回答はおそらくできず、「実体験上はそういうことになってます」という甚だ根拠に乏しい答えしか思い浮かばないのですが・・・。
でも僕的にはそれで十分だと思っていますし、勉強は 今のところ アンカーとしての役割をしっかり果たしてくれています。
だから明日の朝も勉強します。
あなたのアンカーは何でしょうか?
では、次回の記事でお会いしましょう。
川合亮平でした。
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文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳者。エディ・レッドメイン、ベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、エド・シーランなど、俳優・ミュージシャンの通訳・インタビューを多数手掛ける。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『 「なんでやねん」を英語で言えますか? 』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在11冊。
イギリス関連の記事: https://www.british-made.jp/author/kawai
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