世に英文法本は数々あれど、「話す・書く」などのアウトプットを意識した本はなかなかありません。今回取り上げる『英文法の鬼100則』は、その珍しい方のアウトプット系英文法本。発売以来ベストセラーとなっている本書を、早速チェックしてみましょう!
アウトプットのための英文法
本書の一番の特徴は、アウトプットを意識した文法解説をしていることです。
英文法が得意な人でも、英語を書いたり話したりするときには迷うこともあるのでは?
リーディングや穴埋め問題なら文脈から推測することもできますが、書いたり話したりするときに「ここはa?それともthe?」「ここは過去形?現在形?」と悩んでいたら、なかなか先へ進めませんね。
文法事項でいちいち悩むことなく、スムーズに自分の考えをアウトプットできるようになるには、「ネイティブスピーカーにとって当たり前の感覚」を、「なるほど!」と心から納得して身に付けるしかありません。そして、何度も「なるほど!」と納得でき、どんどん読み進めたくなるのが本書です。
本書では文法事項をどのように解説しているのでしょう?分かりやすい例を2つ紹介しますね。
5歳以上なら分かる!「可算名詞」と「不可算名詞」
多くの人が苦手とする「可算名詞」と「不可算名詞」。日本語話者にとってはなじみにくいものです。しかし本書によれば、なんと5歳以上なら誰でも理解できるとか。どういうことなんでしょう?
人間は、モノを次の2種類の方法で認識しているとのこと。
①「形」としてモノを認識するこの2種類の認識の仕方を、人間は5歳くらいまでに身に付けるそうです。 具体的に 見ていきましょう。②「性質・材質」としてモノを認識する
目の前にスマートフォンがあるとします。このとき、スマホは①、 すなわち 「形」として認識されています。このスマホをハンマーでたたいて粉々にしたらどうなるでしょうか?
「粉々になったスマホ」は、もう「スマホ」ではありませんね。「金属片」とか「残骸」、「部品」です。5歳児でもこれらを指して、「スマホ」とは呼ばないでしょう。
氷の場合はどうでしょうか。
まずはスマホと同じく「これは氷だ」と、「形」として認識されます。しかし、氷の場合はスマホと違って、どれだけ細かく砕いても別のモノにはなりません。
同様に 、ケーキやパンも、半分に切っても4等分しても変わりません。ケーキはケーキだし、パンはパンです。つまり、 氷やケーキ、パンのことを、私たちは「形」ではなく、「性質・材質」として認識している のです。
ここまでくると察しが付くかもしれませんが、可算名詞か不可算名詞かは、基本的に次のように分類できます。
①「形」で認識するもの=数えられる名詞=可算名詞スマホは細かく砕かれたらスマホとは呼べなくなりますが、氷は砕かれても氷のまま。英語の世界で、1個、2個と数えられるものは、次のように定義できます。②「性質・材質」で認識するもの=数えられない名詞=不可算名詞
それ以上崩してしまったら、それとは呼べなくなってしまう「形」のことcake は崩しても cake という「材質」なので、このままだと不可算名詞ですが、「切り分けたケーキ= piece of cake」は「形」なので数えることができ、可算名詞です 。そこで、a piece of cake となったり、two pieces of cake となったりするわけです。
cake ではなく、piece の方が複数形になるのも、うなずけますね。複数になるのは cake ではなく piece だからです。
いかがでしょう?「〇〇は可算名詞、××は不可算名詞」と機械的に丸暗記するよりも、ずっと納得して覚えられると思いませんか?
to 不定詞">どう使い分ける?動名詞と to 不定詞
もう一つ、区別が難しい例を見ておきましょう。
動詞の後ろに来る目的語が、動名詞か不定詞かで迷ったことはありませんか?
動詞ごとに暗記するという手もありますが、書いたり話したりするときにサラッと使い分けられるようになりたいものです。本書ではどのように説明しているのでしょうか。
まずは、動名詞と不定詞のおさらいから。
to は「これから向かう」">不定詞の to は「これから向かう」
本書では、 不定詞の to は「→」というイメージ だと説明しています。多くの場合、「これから(その 動作 に)向かう」というイメージです。例えば・・・。
I want to eat something.「私はしたい→何かを食べることを」というイメージですね。不定詞が来る動詞にはほかに、want(欲しい)や need (必要である)があります。いずれも、今は思っているだけで、それが「実現するのはこれから」です。本書では次のようにまとめています。何か食べたい。
「実現するのはこれから」という意味の動詞なら目的語は不定詞まずこれを覚えておいてください。
動作 の途中・最中」">動名詞は「 動作 の途中・最中」
これに対して、 動名詞は ~ing ですから「 動作 の途中・最中」というイメージ です。
I enjoyed swimming.この英文の場合、「泳いでいる最中」に「楽しいと感じた」ということです。私は水泳を楽しんだ。
本書では次のようにまとめています。
「動詞+動名詞」になることで、「Aしている最中にBを行う」という意味が出ます。動名詞は「~している最中」。これも覚えておいてください。
不定詞と動名詞を使い分けよう!
ここまでくればあとはもう簡単です。不定詞も動名詞もあとに取れる動詞で、使い分けをチェックしましょう。
Remember to see him next Sunday.次の日曜日に彼に 会うことを 忘れないでね。
I remember seeing him at the party.最初の文では、「覚えている→彼に会うことを」と言いたいので不定詞が来ます。「彼に会うこと」が「実現するのはこれから」ですよね。私はそのパーティーで彼に 会ったことを 覚えている。
2番目の文は、「(彼に)会っている最中」のことを「覚えている」ので 、~ing の動名詞を使うわけです。
いかがですか?こう考えると迷いようがないと思いませんか?
もう一つ同じような例を見てみましょう。
Oh, I forgot to buy a sandwich.あ、サンドイッチ 買うのを 忘れてた。
Oh, no ! I forgot buying a sandwich.不定詞を使うか動名詞を使うかで、意味が全く反対になってしまう文です。でももう大丈夫ですね。わぁ、サンドイッチ 買ったのを 忘れてた。
1文目は、「サンドイッチを買う」という行為が「実現するのはこれから」であり、「忘れた→サンドイッチを買うことを」と言いたいので不定詞を使います。2番目の文は、「サンドイッチを買っている最中」のことを「忘れた」と言いたいので動名詞を使うわけです。
こんな人におすすめ
このように本書では、「~と言いたい場合にどういう文法を使うか」という視点から文法項目を解説しているため、理解したことを「書く・話す」に すぐに 応用することができます。
さらに、説得力のある英文を書くことに特化した章もあるので、英文メールを書く必要のある社会人や、留学の準備などで英文エッセイを書く必要がある人にもおすすめです。
まとめ
本書は、1項目につき4ページという構成。全体で435ページあります。
時間のあるときに少しずつ、1項目ずつ読むこともできますが、できれば1章分くらいはまとめて読むことをおすすめします。その方が、相乗的に理解が増し「なるほど!」という体験をたくさんできるはず。
もっとも、「毎日〇〇ページずつ」というような目標は不要かもしれません。分かりやすい解説やイラストのおかげでぐいぐい読み進めることができるので、気が付いたら1冊丸ごと読み終わっているはずです。
膝を打ち過ぎて痛くなるかもしれませんので、ご注意ください!
文:尾野七青子
都内某所で働く初老のOL兼ライター。本書は、このレベルの文法書としては本当におすすめです。子孫に読ませたい。
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