「夢中になるから英語が話せる」がモットーの「英語芸術学校マーブルズ」(東京都江戸川区)を主宰する小口真澄さんは、東京学生英語劇連盟で英語ミュージカルを教える演出家としても活躍しています。そんな小口さんに、演劇のメソッドを取り入れたコミュニケーション術を教えていただきます。
5月5日、6日に東京の世田谷区民会館で、 モデルプロダクション(MP)こと東京学生英語劇連盟 による英語ミュージカルの公演がありました。演目は『The Wiz 2018』。『オズの魔法使い』がベースになっているお話です。私が初めてMPで演出したときの演目は 『The Wiz 2004』、『The Wiz 』の2004年バージョンでした。今年の演出者は、当時私の生徒の1人として参加した渋谷真紀子さん。彼女はアメリカ留学後、アジア人として初めてブロードウェイ演出部に入るという快挙を成し遂げました。そして、自身のホームともいえるMPで演出をしに来てくれました。
目的があるから、英語で意思疎通できるようになる
さて、このMP、毎年約100名の大学生が関東近郊から集まり、英語のみで3カ月間のリハーサルを進めていきます。英語を話すのは出演者だけではありません。大道具や衣装のスタッフも照明や音響スタッフもみんな英語でコミュニケーションします。
そして、3カ月するとみんな英語がうまくなっています。どうしてだと思います?
英語をずっと話し続けて英語脳が作られたから。はい、確かにそうだと思います。でもそれだけではありません。
中には英語を専門に勉強している学生や、帰国子女の学生などバイリンガルの学生もいます。一方、英語は苦手、受験後は英語とは無縁の生活をしているという学生もいます。ですから英語のレベルはバラバラです。
それでもみんなが3カ月後に英語で意思疎通ができるようになっているのは、 相手が伝えたいことを理解しようと努力して聞くから なのです。そして、どうしても コミュニケーションしなければならない大きな目的があるから なのです。
演劇では大げさに気持ちを込める?それは間違いです!
演劇というと、「大げさに立ち振る舞う」「感情を込める」と思われがちです。しかし、セリフや立ち振る舞いは、登場人物が物語で果たさなければならない目的と、相手へのリアクションで成り立っています。リアクションとは自分が相手から与えられた言動に反応することですよね。つまり、相手の言動に集中して、よく見てよく聞くことが大 前提 なのです。
本当のコミュニケーションは“Talk and Listen”にあります。「話して聞く!」あたり前ですよね。 とてもあたり前のことなのですが、最近は人の話を聞かずに、ただただTalk!の人が増えています。「相手に興味を持って」「相手をよく見て」「相手の言うことを聞いて」そして「話す」がコミュニケーションの基本です。
MPの学生たちが英語のコミュニケーションがうまくなる理由は大きく2つあります。
- 3カ月後に公演を成功させるという大きな目的があるのでそれに向けて必死になるから。
- 英語の得意な人も、そうでない人も、よく聞いていないとお互いに誤解が生じます。そのため、相手を理解しようとしてよく聞くから。
英語だからこそ、あまり英語ができないからこそ、聞いて理解しようとする力と、相手に伝えようとする力が付くのですね。演劇の手法に学ぶ英語のコミュニケーションを上達させる方法はこの2つだと言えます。
- 数カ月以内に必達しなければならない目標を立てること
- 相手に興味を持ってよく話を聞くこと
「伝えたいことがある」ことが英語上達のいちばんの早道
ご職業は?と聞かれて「英語を教えています。」と言うと、「じゃあ 英語ペラペラですね?」と言われます。英語ペラペラって何なんでしょうね?ただペラペラ内容のないことを話していても意味はありません。遠回りのように思えますが、自分の意見を持つ、言いたいことがある!伝えたいことがある!というのが、英語がうまくなる一番の早道なのです。
体を使って「頭・心・体」全部を結びつけて練習しましょう
まず、どうしても伝えたいことがあること!相手の話をよく聞いて、自分の言いたいことを伝えること。伝えたいことを伝えましょう!
まずは、簡単なフレーズを使って練習してみましょう。同じ表現でも、いろいろな意味で使える例です。以下のフレーズを、場面を想像しながら言ってみましょう。
for you.">This is for you.
今、このフレーズを4回も練習しちゃいましたね。 具体的に 場面を思い浮かべたことで、同じフレーズを無意味に4回唱えるよりも、相手に伝える言葉として言うことができたと思います。この練習方法をしていると、英語と自分がどんどん結びついていきますよ。
so .">I guess so .
では、今年のMPの演目『The Wiz』の台本の一場面を使ってみましょう。まずは、以下の場面を読みます。
(『オズの魔法使い』がベースになっているお話です。ライオンは悪い魔女に捕まってしまい、お城で水運びの仕事をさせられています。ドロシーも捕まり、別の場所でこき使われていましたが、 久しぶり にライオンに出会うことができます)
Lion: Dorothy!(ドロシー!)“I guess so .”は、「大丈夫かい?」と聞かれたときに「そう思う」などのように使いますが、この状況から見ると、ドロシーはもしかしたらボロボロかもしれません。でも、ライオンを 心配 させないように精一杯気遣って、「元気!」とは言えないけれども「そう思う」とまでは言えるということで、“I guess so .”となったわけです。Dorothy: Lion!(ライオン!)
Lion: Are you all right ?(大丈夫?)
Dorothy: I guess so . (そう思う)
この表現、別の状況でも使えます。たとえば、反抗期A子がお父さんに「A子お前大丈夫か?」と聞かれて、「あ~もう、父ちゃんうざったい!」。 心配 してくれてるのは分かるけど、「会話したくないから、あっちに行っていて!」と思いながらの“I guess so .”。
Dad: A子! Are you all right ?( A子、おまえ大丈夫か?)ドロシーの“I guess so .”とは、違いが歴然としてますよね。A子: I guess so .(あ~もう、父ちゃんうざったい!会話したくないから、あっちに行っていて!)
さて、『オズの魔法使い』の場面に戻りましょう。そんなドロシーとライオンのやり取りを見ていた悪い魔女が突然現れて、こう言います。
(悪い魔女登場)
Wicked Witch : I don't remember telling anyone to take five ! 5分休憩を取れ なんて言った覚えはないけど!“ Take five.”は「5分休憩する」の意味です。“Let’s take a five-minute break.”を短くした言い方です。
同じフレーズを「どんな状況で」「誰に向かって言うのか」そして「何を伝えたいのか」と考えることでそのフレーズが生きて本当に意味になるものなのですね。
英語を習得するためにおすすめしたい方法は、自分の生活に起こりうる状況を思い浮かべ、「この状況だったら」と想像力を働かせて、自分なりの言い方をしてみることです。楽しんでみてください!
小口 真澄(こぐちますみ)
英語芸術学校マーブルズ 主宰。米カリフォルニア州にある演劇学校「アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツ」で演劇を学び、現地の子どもたちにミュージカルのコースなどを教えた経験を持つ。
英語芸術学校マーブルズ 紹介動画: https://youtu.be/7sfasFxB53U
各種ワークショップ開催中: https://marbles1008.net/
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