ダブル三冠王も夢じゃない?そんな大活躍を見せている大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・エンゼルス。そのチーム名には、AngelesとAngelsという似た言葉が並びます。それぞれの言葉の意味はなんでしょうか。由来と併せて紹介します。
「二刀流」大谷選手が止まらない!
MLB(メジャーリーグベースボール)で前人未踏の「二刀流」を続ける、エンゼルスの大谷翔平選手の活躍が止まりません!彼の活躍のニュースは、いつも日本中を元気にしてくれます。そこで今回は、(勝手に)大谷選手応援企画ということで、エンゼルスが拠点を置くロサンゼルスや野球文化を取り上げながら、字幕のムコウをのぞいてみたいと思います。
「ロサンゼルス・エンゼルス」の面白さ
アメリカの多くの都市にはニックネームがあり、ロサンゼルスは通称City of Angels(天使の街)と呼ばれます。この理由は、ロサンゼルス(Los Angeles)という名がもともと、スペイン語で「天使」を表すangel(アンヘル)の複数形angelesに、定冠詞losが付いたlos angelesに由来することにあります。つまり英語だとthe angels(天使たち)になるので、通称「天使の街」になるということです。
これを踏まえて、大谷選手が所属する「ロサンゼルス・エンゼルス」というチーム名をよく見てみましょう。何か不思議なことに気付くでしょうか?
Los Angeles Angels
そうです、AngelesとAngelsという、語尾が異なる「天使たち」が並んでいます。でも、この理由はすでにおわかりですね。前のAngelesは「Los Angeles」の一部ですので、スペイン語の複数形語尾の「-es」になり、一方、後ろのAngelsは英語のチーム名ですので「-s」のみが足されるというわけです。
2種類の「天使たち」をまとめて確認できるLos Angeles Angelsは、とても面白いチーム名だと思います。
字幕の中の「天使たち」
映画の字幕でも、いろんな「天使」を確認することができます。次のセリフを見てください。
(1) City of Angels ... May 6th, 1800 hours, Los Angeles. No sign of life.
”天使の街"よ・・・。5月6日。18時。ロサンゼルス。人影なし。
(『バイオハザード IV:アフターライフ』より)(※1)
(2) Three dead and five others wounded as a pair of lions escaped City of Angels Zoo.
ロサンゼルス動物園のライオン2頭が脱走。3名死亡、5名負傷です。
(「ズー」シーズン1第1話より)(※2 )
(3) I don’t think you are supposed to be carousing around the Angel City any more than I am.
お前らのほうがロサンゼルスで騒ぎを起こしたくないだろ。
(「プリズン・ブレイク」シーズン4第3話より)(※3)
(1)では、ゾンビの街と化したロサンゼルスを見た主人公が、2種類の「天使たち」を使っています。(2)では、ロサンゼルス動物園を愛称で述べているため、Angelsの表記になっています。(3)では、「-s」がないバージョンも確認できます。
「LA」と「ロス」
日本ではロサンゼルスを短く「ロス」と呼ぶことが多いですが、英語の略名はLA(エルエー)を用います。スペイン語の「ロス」はもともとtheしか意味しないので、日本語の略名のおかしさが分かりますね。
しかし映画では、音声で明らかに「LA」と言っていても、日本語字幕が「ロス」になることが多々あります。いずれも2文字である「LA」と「ロス」の書き換えは、文字数削減の効果は薄いので、日本でより親しまれた形を優先する翻訳者の「配慮」といったところでしょうか。
She was in LA, I was in NY. We had a fight on the phone, she hung up, I didn’t call her back.
彼女はロス、俺はNY。電話でケンカして、それきりさ。(『ダイハード3』より)(※4)
ロサンゼルスと映画
ロサンゼルスにはハリウッドがあり、映画とのつながりも非常に強いと言えます。実際に2003年には、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がカリフォルニア州知事に就任し、この出来事は映画内で(時にこっそりと)触れられることがあります。
次のシーンでは、カリフォルニアで天変地異が起こると知ったジャクソンが、電話で妻に避難を促しています。
Jackson: California is going down. Pack up the kids now!
ジャクソン:カリフォルニアは海に沈む!すぐ子どもと荷造りを!
Kare: They just got back. God, you sound like a crazy person. The governor just said we’re fine now.
ケイト:帰ったばかりよ。どうかしてるわ。知事は “大丈夫だ” って。
Jackson: The guy’s an actor! He’s reading a script!
ジャクソン:知事は役者だ!台本を読んでるだけだ!
(『2012』より)(※5)
「州知事が安全と述べている」と反論する妻に、ジャクソンは「あいつは役者だから信じるな」と突き返します。シュワルツェネッガー氏の州知事時代に作られた映画ならではの、面白いやりとりと言えます。
再び、ロサンゼルスと野球
ロサンゼルスには、ドジャースというMLB球団もあります。トルネード投法で有名な野茂英雄さんが、1995年に渡米し、最初に所属したチームとしても知られています。
1年目から新人王を獲るなど、大活躍した当時の野茂さんの人気の高さがわかるシーンが、この時期に公開された映画で見つかります。たとえば、ロサンゼルスが舞台の『ライアーライアー』(※6)では、親子の会話に野茂さんがたびたび登場します。
Son: Baseball stuff! Can we play? I’ll be Nomo. You can be Jose Canseco.
息子:野球セットだ!一緒にやろうよ。僕は野茂で、パパはホセ・カンセコね。
Son: Cool! Still wanna be Jose Canseco?
息子:やった!パパはやっぱりホセ・カンセコやりたい?
Father: Oh, yeah. Who else is gonna hit that famous Nomo slider?
父:当然。野茂の有名なスライダーを打てるのは彼だけだ。
(『ライアーライアー』より)
興味深いのは、最後の父親のセリフです。野茂さんには最大の武器「フォーク(fork-ball)」という真下にストンと落ちる変化球があり、日本の野球ファンには有名でした。しかし、セリフでは「野茂のあの有名なスライダー(slider)」になっています。なぜでしょうか?
これは察するに、アメリカの野球事情が関係しています。1995年当時、フォークはMLBでは投げる投手が少なく、知名度が低い変化球でした。そのため、きっと脚本家も野茂さんの「有名な変化球」の呼び方が分からず、MLBでも知名度があり、同じく縦方向に変化する「スライダー」を代用したと予想できます。このちょっとした発言から、いかに野茂さんのフォークが当時「魔球」だったかが伝わってきます。
なお、同じくセリフに登場するホセ・カンセコは当時の強打者で、2015年末、ジャスティン・ビーバーと熱愛報道が出たモデルのジョージー・カンセコのお父さんです。
まとめ
今回は映画を通して、ロサンゼルスやアメリカの野球文化の特色をご紹介しました。みなさんも映画を観る時には、どの街が舞台になっているのかにも注目すると、意外な発見があるかもしれませんよ。
次はどんな活躍で大谷選手は私たちを驚かせてくれるのでしょうか。天使の街で奮闘する大谷選手から目が離せません!
トップ写真:David Mark from Pixabay 本文写真:Alonso Reyes, kaleb tapp from Unsplash