立ち上がれ、アジア人【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

「アジア人がはやっている」と聞いた。本当だろうか。

日本人の友人が、高校生の娘にボーイフレンドができたといって見せてくれた写真の彼は、ベトナム系。

彼女の娘も白人と日本人のハーフだし、アジア系同士というのが心地いいのかね? と聞いたら、

「いやそれがね、最近はアジア系と付き合うのがクール、ってことらしいよ」

・・・だそうで。これまでは、Jockと呼ばれるガタイのいい体育会系の白人男子が人気の主流と相場が決まっていたものだが、最近では、あえてハズすのが通らしい。

ウチの娘の仲間うちでも、アジア人がウケているのだそうだ。こちらは付き合うとかいうことではなくて、アジア人ネタで盛り上がって楽しそうにしているアジア人の仲間に入りたい、ということのようである。どこからどう見ても白人の男の子が、「オレにはフィリピン人のおばあちゃんがいるから、実は25%はアジア人なんだ! だから仲間に入れてくれ!」などとお願いしてきては、「アンタどこから見てもアイルランド系の白人でしょうが」と言い返されているらしい。

アジア人ネタは、ちょっと自虐的だ。目が細いのをネタにして「おい、寝てる場合じゃないぞ、起きろ!」とか、何か失敗すると「No rice for you tonight!(今夜はメシ抜き!)」などなど。アジア人でない人が、こんなことをアジア人に向かって言ったら大変なことになるが、アジア人同士が自虐的に言い合って「くくく・・・」と喜んでいる分には一向に問題はない。

アジア人の子たちがネタにするステレオタイプはほかにもある。学校の成績がいい、IT系に強い、おとなしくて存在感がない、親が厳しい、顔が似ていて区別しにくい、車の運転が下手くそ、背が低い、運動が苦手でどんくさい、胸もお尻もペタンコ、などなど。「酔っ払い運転ではなくアジア人なだけです」というバンパーステッカーを見掛けただの、コンピューターが壊れたら、茶碗一杯の白飯と一緒に玄関先に出しておけば、どこからともなくアジア人がやって来て直していってくれる、とかいうような自虐ジョークを言い合っては仲間うちで楽しんでいるらしい。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

また、weeb(ウィーブ)という人もいる。これは、wannabe Japaneseと呼ばれる一群で、日本人になりたい非日本人(多くの場合白人)。またの名をwapanese ともいう。たいていアニメが好きだったり、コスプレにのめり込んでいたりするが、オタクと違うのは、日本人になりきりたい、とけっこう真剣に考えていることである。面談で娘の学校に行ったときに、廊下に「Japanese Club」という貼り紙があったので娘に入会を勧めたら、「あれはweebs のクラブだから入りたくない」と言われた。

ウィーブとは具体的にはどういう人のことなのかと尋ねたら、「トーマスがそうだね」という答えが返ってきた。娘の習い事にいる、ちょっと年上の男の子だ。アニメもマンガも好きで、J-pop もよく聞いている。ウィーブの最大の特徴は、知っている日本語を会話の端々に挟みたがる、というものだが、トーマスは、私の顔を見ると「コンニチワ」とあいさつしてきたり、何かしてあげると「アリガト」と言って胸の前で手を合わせてお辞儀したりする。「スゴイ」「カワイイ」などもよく言う。日本人はお礼を言うときにいちいち相手を拝んだりしないから、ちょっと違うなあと思う。アニメやマンガから仕入れた情報を元に自分の中で勝手に作り上げた日本に憧れているというか、酔いしれているという感じである。

ウィーブたちは、非ウィーブの人たちをnormies(ノーマルな人たち)と呼んで区別し、自分たちが彼らの目に奇異に映っていることは承知しているが、気にしないらしい。なぜなら、自分たちは「スゴイ」から。おめでたいほどの自己肯定感が、ちょっと独特の世界だ。

というわけで何かとホットなアジア人だが、一方ではこんな記事もある。アジア系アメリカ人は、組織の中で経営幹部に昇進する率が最も低い人種なのだそうだ。

アジア系は、学歴も高く、アメリカの人口に占める割合が5.6%のところ、専門職に占める割合は12%。収入も高くて成功している人種だと思われがちなのだが、組織におけるトップレベルに占める割合について見てみると、ハイテク、法曹、金融などさまざまな分野で一様に低いのだそうである。成功している人種というイメージが先に立ってしまうせいで、マイノリティーでありながら、ほかの人種のように優遇や配慮がされない―というか、端的に言えば、忘れられがちということのようである。自己主張をあまりしない人種、ということもあるのかもしれない

そんなアジア系アメリカ人は、model minority と呼ばれている。模範的な少数派とでも訳そうか。優秀で勤勉、素行もよくて、不平等な扱いに文句も言わず、存在感がない・・・。

それって結局、今の若い世代のアジア系がギャグにしているステレオタイプそのままではないか。ネタにして自虐的に笑い合っている場合ではない。内に向かわず外に向かうべし、と言いたい。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年2月号に掲載された記事を再編集したものです。