バイデン大統領はZ世代に不人気?アメリカの若者が求める「プログレッシブな」政治

前回2020年の大統領選の18〜29歳の投票率は、4年前に比べて11%も上昇し、史上最も高くなりました。アメリカの若者の政治意識は、なぜ急に高まったのでしょうか?ミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみさんが解説します。

アメリカZ世代に支持されるトップアーティスト、ビリー・アイリッシュ、アリアナ・グランデ、ハリー・スタイルズ・・・彼らの共通点とは? 

答えは、常に政治な発言をしていることです。

でもずっとそうだったわけではありません。歌手は歌だけ歌っていればいい、と言われたのはわずか20年前。
当時は若者の投票率も低迷していました。

ところが、前回2020年の大統領選の18〜29歳の投票率は、4年前に比べて11%も上昇し、史上最も高くなりました。

若者の政治意識は、なぜ急に高まったのでしょうか?

政治への無関心は命に関わる

2000年ごろ、つまり今のZ世代が誕生した頃から、アメリカでは大きな問題がとめどなく噴出し始めました。

その最たるものが学校での銃撃事件。銃撃犯から身を守る避難訓練は、幼稚園から高校まで日常の光景になりました。次に気候変動。大規模な自然災害など、悪化する環境問題が未来に暗い影を落としています。さらに深刻な格差拡大で、多くの若者世代は結婚・出産を遅らせ、マイホームの夢も遠くばかりです。

そこに襲い掛かったのがパンデミック。政府の対策の遅れで多くの人が亡くなり、アメリカ人の平均寿命は3年も縮まりました。ほぼ同時にブラック・ライブス・マター運動が勃発。長く光が当たらなかった、黒人などマイノリティーに対する、制度的人種差別が露呈しました。

こうした問題を、自分たちがいくら頑張っても解決することはできない。 法律を変えるなど、政治が動いてくれなければどうにもならない。 それどころか、黙って見ていたら自分たちの命にも関わる。何かしなければという危機感こそが、この世代を政治的な行動へと駆り立てているのです。

Z世代を駆り立てるアンチ・トランプ

トランプ政権時代、環境対策も銃規制も大幅に後退、格差はさらに拡大しました。政治的な分断がエスカレートし、議会襲撃という大事件が起こり、ヘイトクライムなどの暴力事件も多発。さらに彼が指名した超保守の最高裁判事により、妊娠中絶が憲法違反という判断が下されることになったのです。

7割がトランプ不支持だったZ世代は、2020年の選挙で何が何でもトランプを落選させるために投票しました。その結果投票率は上がり、バイデン大統領が当選したのです。

大統領には期待しない、求めるのは社会主義的な施策

ところがバイデン大統領はZ世代には全く不人気です。トランプ氏を落選させるために、対抗馬バイデン氏に票を投じただけで、最初からそれほど期待もしていませんでした。

なぜなら若い世代は、中道バイデン氏よりずっと左寄りの、プログレッシブな政治を望んでいるからです。どうしようもなく広がった貧困を解決するためには、国がもっと積極的に生活を保障する、社会主義的な政策が必要。それが若い世代の考え方です。また、大企業と富裕層優遇の保守共和党には強い反感を抱き、彼らと協調しようとするバイデン氏のやり方には失望を感じています。

政治をもっと若くファッショナブルに

そんな若い世代が支持するプログレッシブ政治家の代表が、32歳の下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(通称AOC)です。

AOCは身につける物もおしゃれで、ビヨンセやハリー・スタイルズなどのセレブと共に、ファッション・アイコンに選ばれたこともあります。

テルファーのヴィーガン・レザー・バッグやスティラの赤い口紅など、彼女の影響でヒットした商品も少なくありません。AOCによって、政治家のイメージは大きく変わり始めています。

今年の中間選挙では、初めてのZ世代下院議員となる見込みの、25歳のマックスウェル・フロストが注目です。人種的にももっと多様な若い人材を議会に送り込むことで、政治を変えていこうとしているのです。

ニュース大量消費世代は、行動する世代

Z世代が政治に関心が高いもう1つの理由は、スマホ中心のライフスタイルです。多くがSNSからニュースを得ていて、24時間ニュース漬けになっていると言っても過言ではありません。知識の量は年長世代と比較にならないほど多く、状況の深刻さへの理解も深いのです。

しかもただネットで発信しているだけではありません。同じ考えを共有する者同士が繋がり、素早く行動を起こす。ストリートでの生身の抗議が、ネット上よりずっとパワーがあるのをよく知っているからです。

抗議デモこそ民主主義の実践の場

日本でも 政治に対する若者の意識は日に日に高まっていて、オンラインの署名なども活発になっています。でも実際に抗議行動となると、二の足を踏む人が多いのではないでしょうか。

アメリカZ世代は、行動を起こすのを躊躇したり恐れることは一切ありません。なぜならこの国には民主主義に裏打ちされた、抗議行動の伝統があるからです。1960〜70年代のベトナム反戦、公民権運動など、若者が連帯することよって社会や政治を変えてきた歴史は、アメリカ人にとって大きな誇りなのです。

ニューヨークでよく見かけるのは、幼稚園児くらいの子供たちを連れて、デモに参加している親たちの姿です。抗議行動こそ民主主義の実践教育の最高の場、と考える人が多い証拠です。

若者票の行方が気になる中間選挙

若いZ世代を投票や抗議デモなど政治行動に駆り立てているのは、国の未来に対する強い危機感です。

ではZ世代は、来月11月8日の中間選挙でも高い投票率を叩き出すのか? 

これには懐疑的な見方も出ています。なかなか変わらない政治に対し失望しきってしまい、投票しないの
ではと考えられているからです。

ただ今回は、トランプ元大統領の息のかかった候補者が何人も出馬しています。彼らを阻止するために投票するのか? また、妊娠中絶を禁止にした共和党の政治家を、引き摺り下ろそうという動きも見逃せません。今回も、若者票の行方から目が離せない選挙になりそうです。

Z世代と政治を知るためのキーワード

中間選挙

Midterm election
4年に1度の大統領選の間の年に行われる選挙。下院全議席と上院の約3分の1議席、州知事などの重要な選挙が同時に行われる。

制度的人種差別

Systemic Racism
法律や社会の慣例に組み込まれた差別のこと。雇用、教育、医療にまで根深く浸透している。

プログレッシビズム

Progressivism
社会の変革により、人々の生活を向上させていこうとする政治思想。個人の自由を打ち出すリベラリズムに比べ、市井の人々の声をより重んじるのと、政府の役割が大きいのが特徴。

 シェリーめぐみ
シェリーめぐみ

ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 1991年からニューヨーク在住。NYハーレムから、激動の米国をリポートするジャーナリスト。 ダイバーシティーと人種問題、次世代を切り開くZ世代、変貌する米国政治が得意分野。早稲田大学政治経済学部卒業 ホームページURL: https://megumedia.com/

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