年末年始の過ごし方は万国共通?なかなか日常に戻れないイギリスの年末年始

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で20年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

年越しまでは「お祝い気分」だけど、元日は・・・?

イギリスの12月の慌ただしさは、毎年「すさまじい」レベルだ。気ぜわしいのはもちろんだが、クリスマスカードの準備と郵送、プレゼント用ショッピング、大小パーティーや食事会、そして自宅用の買い出しなど、あれこれやることが多過ぎる。

イギリス人は12月早々から休暇に入るか、会社には「一応行っている」だけのクリスマスモードになっている人が多いので、この時期をこなせるのだろう。しかし(私を含め)12月も通常どおり働く人にとってはハードな時期。12月は楽しみであると同時に、なんとか乗り切ろうと戦闘態勢になる月でもある。

クリスマスが終わっても、大みそかは「年越しパーティーの日」なので、ここまではお祝い気分が続く。そして元日(New Year’s Day)を迎えるのだが、この日から空気がガラリと変わり、突然やって来る「ふぬけ感」には毎年笑ってしまうほどだ。

イギリスでも1月1日は祝日だが、感覚的には「年が明けた」というだけ。お祝い・お祭り感は全くない。テレビ番組も「クリスマススペシャル」は多いが「新年特番」はあまり聞かないし、ニュース番組の進行も年が明けたら通常どおり淡々と進む。

多くの人にとっての元日とは、大みそかに痛飲した後の二日酔いから立て直すための日。紅茶やコーヒーをあおるように飲み、一日中パジャマ姿でゴロゴロ過ごしているうちに終わってしまう。では1月2日から人々がシャキッと行動し始めるのかというと、実はそうでもないのだ。

道端にゴロンと転がるクリスマスツリーは、1月恒例の風景。

カレンダー上は1月2日から平日なので、世の中的にはこの日から通常運行のはずだ。しかし次の週末まで有給休暇を取っている人も多く、通勤ラッシュがすぐに始まるわけではない。

カフェやパブはクリスマス前後の3日間以外は営業しているし、銀行や公共サービスも1月2日から始まるのだが、国中に漂うグダグダでぼんやりした雰囲気がしばらく続くのが常。子供たちの学校は例年1月4日から始まるため、「この日まではのらくらしていても良し」としている家庭も多いと聞く。

「いよいよまずい」体になったら、まずは散歩しよう!

このダラダラ期間に人々が何をするのかといえば、まずは「散歩」。何しろ1カ月にわたり散々ごちそうを食べ、大みそかに「締めの大宴会」をしたのだから、体ははち切れんばかり。

「いよいよまずい」「スーツが入らない」と焦り、罪悪感を帳消しにするべくダイエット開始の決意表明も込めて、寒空の下、ぞろぞろと歩き始めるのだ。元々イギリス人は散歩が大好きなのだが、この時期の公園にはそんな「にわか散歩族」も含めていつも以上に人が出没し、天気が良いと公園が混雑しているほど。

2021年1月に撮影した公園の風景。もっと混んでいることも多い。

しばらく歩くとリフレッシュして「ちょっと痩せたかも?」と気分も良くなるのだが、そんな話を自称万年ダイエッターである友人のフィルとしていたら、「この“ちょっとリフレッシュ”がくせ者なんだよ」と言っていた。

「毎年元日に『今月は禁酒(Dry January)しよう』と決意し、せっせと散歩したり、なんならちょっと走ったりもするんだけどさ、家に帰るとクリスマスのケーキやらスナック類が山盛り残っているよね。小腹がすいたら食べないわけにはいかないよ」と苦笑い。確かに大量に残ったクリスマス用の食品を一つ一つ消費していくのも、年始の変わらぬ光景だ。

年が明けても飾られ続ける、クリスマスツリー

こうした1月初旬恒例の「祭り感はゼロなのに、なかなか日常が戻ってきていない」中途半端な感じは、あくせくするのが嫌いなイギリス人らしいなあと思うが、まだクリスマスツリーが飾ったままであることも一因かもしれない

日本では12月25日が終わった途端に年始飾りに移行するが、イギリスでは1月5日まではどの家も、ツリーやドアの前のリース、デコレーションなどがそのまま飾ってある。これは「十二夜」というキリスト教の伝統によるもの。1月6日は誕生したばかりのイエス・キリストを祝福し、東方の三博士が参拝したとされるエピファニー(公現祭)であり、この前日にツリーを片付けるのが習わしだ。

クリスマスリースやライトアップが外されるのも1月5日。

イギリスでは生木のツリーを飾ることが多いが、役目を終えたツリーを道端に置いておくと各地域のごみ収集サービスが回収してくれるシステムになっている。この回収期間が遅めの設定になっている地域の場合、もっと長い間ツリーと共に暮らすので、「非日常のぼんやり感」が必然的に持続するのかもしれない。

そんなふうにスローに始まるイギリスの1月。通勤通学が通常に戻り、「年明けダイエット」にも飽きた頃、本当の意味でやっと新しい年が動き出す。そして人々の意識は次の休暇であるイースターに向かい始めるのだ。

今年こそ「ぐうたら&スローな1月」をみんなで迎えたい

昨年(2020→ 2021年)の年末年始、イングランドはコロナ禍による厳しい行動制限下にあったため、誰もが経験したことのない静かな年越し・年明けとなった。

この原稿を書いている10月中旬現在、どんなクリスマスを過ごし2022年を迎えるのかは不明だが、ロックダウンとならなければ2年ぶりにどんちゃん騒ぎが楽しめるはずだ。できれば人と会って笑い合って過ごしたい。そして散々飽食した上で、二日酔いから始まる「ぐうたら&スローな1月」を迎えたいと願っている。

EJ
文:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

写真:宮田華子
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年1月号に掲載した記事を再編集したものです。

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