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オーストラリアの挨拶はG’day, mate!-オージーやキーウィが話す英語に注目-

ご当地英語オーストラリア

英語には世界中に様々なアクセントがあります。この連載では、映画やドラマ作品に登場する 「教科書の英語」とは違うアクセントや表現に注目しながら、 英語のアクセントの「世界一周」を目指します。英語学者の飯田泰弘さんと一緒に、英語文化の多様性について考えていきましょう。

はじめに

映画で世界の英語を旅する本企画、前回のカリフォルニアからは大きく南下し、次はdown underへと飛びます。Down Underは南半球に位置するオーストラリアやニュージーランドの愛称で、さらにオーストラリア人はAussie(オージー)、ニュージーランド人はKiwi(キーウィ)の愛称も持ちます。今や、TOEICのリスニング問題にもオーストラリア英語が登場する時代です。そこで今回は、映画を通してDown UnderのAussieやKiwiが話す英語を観察します。

Down Underの英語の始まり

オーストラリア大陸へのイギリスの入植が始まったのが1788年。当初はイギリスの流刑地であり、送り込まれる囚人の多くはロンドン東部の下層労働者だったため、彼らが話す「コックニーなまり」も一緒に流入しました。今のオーストラリアで話される英語は3つに大別され、コックニーの特徴が残る英語(Broad Australian: BA)、イギリス本国の標準英語に近い英語(Cultivated Australian)、広く一般市民が話す英語(General Australian)に分類できます。中でもコテコテになまった印象が出るBA英語は、映画『クロコダイル・ダンディー』(1986)の大ヒットで世界に知られました*1

ニュージーランドは雄大な自然を誇り、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどの映画のロケ地としても有名です*2。こちらも1840年にイギリスの植民地となり、隣国オーストラリアとの往来も多かったため、オーストラリア英語と似た英語が話されます。また、先住民マオリ族が話すマオリ語由来の表現もあります。

主人公のミックが、ニューヨーカーに向けてリムジンの中から“G’day”と声をかけるシーンに注目してみましょう。

オーストラリア英語の特徴:発音や語彙

オーストラリア英語の発音と語彙の特徴を見るため、バズ・ラーマン監督の映画『オーストラリア』(2008)から、まずは次の会話をご覧ください*3

Carney : A bit pale. Not a bad-looking sheila, but what’s the story on the luggage? Wants to settle down in the outback, does she? If she stays and Lord Ashley manages to get his cattle down onto that wharf there, then we’ve got a competitor for the army contract, Neil.

カーニー:青白い。美人だが、あの荷物の山はなんだ?奥地に移住するか?彼女がここに留まり、アシュリー卿(きょう)が波止場に牛を運べば、軍相手の商売にライバル出現だな、ニール。

Captain Dutton : Carney’s control of every cattle station in the north jeopardizes the supply of beef to our troops.

ダットン大尉:カーニーの北部の肉牛農場独占は、軍への食肉供給のリスクだ。

(『オーストラリア』より)

BA英語では、イギリス標準英語の「エイ/eɪ/」が「アイ/aɪ/」になります。よってBA英語を話すカーニーの英語では、paleは「パイル」に、staysは「スタイズ」になります。また、「アウ/au/」は「エウ/æu/」になる傾向があり、downは「デァウン」に聞こえます。特徴的な語彙ではsheila「若い女性」が見つかり、さらに「へき地、奥地」の意味のoutback、「大牧場」の意味のstationといった用法も独特で、他の英語圏なら前者はback country、後者はranchやfarmが使われます。

次の「動物の群れ、人の集団」の意味のmobも特徴的です。一方、dingo「ノラ犬」は先住民アボリジニからの借用語です。

I’m as good as black to that mob up there. I mix with dingoes, not...not duchesses.

俺はあそこの黒人たちと同格だ。友はノラ犬たち、貴族はご免だ。

(『オーストラリア』より)

さらにBA英語では、「アイ/aɪ/」が「オイ/ɔɪ/」になる傾向があり、下のdieは「ドイ」に、dyingは「ドイング」に聞こえます。

Mick : Said to meself, “Mick, old son, find yourself a nice comfortable spot and lay down and die.”

自分に言ったよ。「ミック、心地いい場所で死のうぜ」ってな。

Sue : Weren’t you afraid?

恐怖は?

Mick : Of dying? Nah!

死ぬことが?まさか!

             

(『クロコダイル・ダンディー』より)

ちなみに文法的特徴としては、非人称構文のitがsheになることがあり、下では天候のitがsheで置き換えられています。

She’s a beautiful day, isn’t she?

いい天気ですな。

                    

(『オーストラリア』より)

オーストラリアでよく聞く表現

オーストラリアでよく聞く表現には、Helloに相当するG’day(グダイ)、No problem.やSure.の意味のNo worries.、さらにはGood on you.「立派だ、よくやった」といった表現があります。文末にmate(マイト)がよく付く特徴もあるので、G’day, mate!やGood on you, mate!という形は映画でも頻繁に登場します。

Dory : I don’t think I’ve ever eaten a fish.

私は魚を食べたことありません。

Chum : That’s incredible.

すげぇ。

Bruce : Good on you, mate!

立派じゃん!

Dory : I’m glad I got that off my chest.

すっきりしたわ。

Bruce : All right, anyone else? Hello. How about you, mate?

さ、次は誰だ?やぁ、あんたはどうだい?

      

(『ファインディング・ニモ』より)

上はシドニー近くの海にいる魚たちの会話ですが、声優はオーストラリアやニュージーランド出身者で固められており、こだわりが伝わってきます。またこの会話の前後では、BA英語特有の発音や、sheila「若い女性」などの特徴的な語彙も見つかります。

このシーンに出てくる、“sheila”や“Good on you, mate!”など、オーストラリア独特の表現を聞き取ってみましょう。

オーストラリア英語をうまく利用したシーン

以上を踏まえて『クロコダイル・ダンディー』の終盤にある次のシーンをご覧ください。ここでは、オーストラリアに帰国するミックが、ニューヨークのホテルマンに別れを告げます。

Mick : Uh... Have a nice day, Oiving.

Oiving : Uh...No worries, mate!

(『クロコダイル・ダンディー』より)

BA英語のミックのdayはいつも「ダイ」ですが、ここでは必死に口を折り曲げて「デイ」と発音します。一方、それを聞いたアメリカ人の友人は、No worries.やmateで返します。つまりここでは、お互いがあえて相手の国の方言やなまりを使って最後の挨拶を交わしているのです。

このシーンは、オーストラリア英語の特徴を知らないと味わえず、字幕でも表しきれない奥深さがあります。コテコテのBA英語を使うミックが、本編中で唯一dayを「デイ」と発音する場面ですので、ぜひ確認してみてください。

ニュージーランドの英語

ニュージーランド英語は、基本的にオーストラリア英語と類似していますが、異なる特徴もあります。勇者伝説が伝わるマオリ族の少女を描いた映画『クジラの島の少女』(2003)の中での会話を例に見てみましょう*4

Porourangi : In his head, your Koro, he needs a prophet.

おじいちゃんの頭の中は、預言者を求めてる。

Palkea : What’s that?

何それ?

Porourangi : Well, somebody who’s gonna lead our people out of the darkness and who’ll make everything all right again. Only problem is you can’t just decide who those people are just because you want them to be, eh?

人々を暗闇から導き出して、村を再生させる人だ。問題は、それが誰か分からないんだ。

(『クジラの島の少女』より)

まず、母音の/e/が/ɪ/の音になる傾向があり、headは「ヒッド」に聞こえます。また子音の/r/が/w/のようになるため、all rightは「オールワイト」に聞こえます。さらに、よく文末にehを付けて下降調で言うのも特徴とされます。

まとめ

今回はDown Underを訪れ、AussieとKiwiの英語をご紹介しました。もちろんご当地英語は、その国や地域にあるひとつの「傾向」ですし、Down Underが舞台の映画でも必ず特徴的な英語が聞けるとは限りません。

例えば『モアナと伝説の海』では*5、ポリネシア諸島を彷彿(ほうふつ)とさせる景色や、マオリ族を思わせるタトゥー、hakaの踊り、hongiという鼻を押し付け合う挨拶などが登場し、『クジラの島の少女』の出演者も声優をしています。しかしアニメであるための配慮からか、全体的に標準的な英語になっています。

顕著な英語なまりを体験するには、今回触れた『オーストラリア』や『クジラの島の少女』のような、現地の歴史や文化にまで踏み込んだ映画や、『クロコダイル・ダンディー』のようにステレオタイプ的イメージを逆に利用し、露骨な描写で笑いに変えている映画がいいかもしれません。

次回は2021年10月7日(木)に公開予定です。

*1:原題「Crocodile Dundee」。NYの新聞記者スーとワニと格闘しながらジャングルで生きている通称クロコダイル・ダンディーのミックが、ハプニングを通して次第にひかれあっていく恋愛コメディー。

*2:原題「The Lord OF The Rings」。世界的ベストセラーであるJ・R・R・トールキンの「指輪物語」を、ニュージーランドの鬼才ピーター・ジャクソンが映画化した傑作ファンタジー3部作。世界を滅ぼす指輪をめぐる9人の勇者の冒険物語。

*3:原題「Australia」。第2次世界大戦目前の雄大なオーストラリアを舞台に、徐々にひかれあう英国貴族サラと現地のカウボーイを描くロマンス映画。主要キャストは皆オーストラリア出身者で固められている。

*4:原題「Whale Rider」。勇者パイケアがクジラに導かれこの地へたどり着いたという伝説を語り継ぐマオリ族の少女のルーツをめぐる愛と勇気の物語。

*5:原題「Moana」。ディズニーの大ヒット作。美しい海と、その海に選ばれ愛されたひとりの少女の心の成長を圧巻の歌と映像で描いた感動のファンタジー。

飯田泰弘

飯田泰弘(いいだやすひろ)岐阜大学教育学部助教。趣味である映画鑑賞と、中学校から大学までの教員経験を活かし、映像メディアを活用した英語学習や英語教育を考え、発信している。とりわけ、一般の英語学習書には出てこない実例採取が大好き。言語文化学博士(大阪大学)。専門は英語学(統語論)。