40歳で英語教育を研究するために大学院に進学!誕生した英語独習メソッドとは?

松岡 昇さん

『ENGLISH JOURNAL』50周年を記念して、『ENGLISH JOURNAL』「ENGLISH JOURNAL ONLINE」の執筆陣に、「英語学習のこれまでとこれから」というテーマで寄稿していただきました。国際コミュニケーションと社会言語学を専門とし、大学や企業で教える超人気講師の松岡 昇さんは、45年前のEJとの出合いや、そこから生まれた英語独習法、英語と歩んだ半生を語ってくださいます。

EJの「生の英語」との衝撃的な出合い

『ENGLISH JOURNAL』創刊50周年おめでとうございます。

EJの歴史は私の本格的な英語学習史と一致します。EJが世に出て間もなく大学を卒業した私は、EJと衝撃的な出合いをしました。

インターネットが普及した今と違って、当時「生の英語」に触れることはほとんどできませんでした。辛うじて聞けたのがラジオのFEN(Far East Network、極東放送)。極東に駐留するアメリカ軍の基地関係者とその家族向けのラジオ放送で、現在のAFN(American Forces Network、アメリカ軍放送)の前身です。ただ、参照できるスクリプトも解説もないので、ただ聞き流すだけで有効な学習にはなりませんでした

もちろん書店にはカセットテープ付きの英語教材はありましたが、いずれも「人工的」な英語でした。それとは一線を画していたのが、EJです。

今から10年前のEJ40周年記念のときに、私はお祝いのビデオメッセージで当時(今から45年前)の様子とEJとの出合いをこんなふうに話しています。

The English I had listened to until then on audio tapes was totally artificial. Dialogs and speeches were all recorded in studios and read from prepared scripts by professional voice actors; they were always too perfect in grammar, pronunciation, structure and everything. Therefore, I was stunned when I first heard speakers in “English Journal” speak in a completely different way. They often stopped to think for a moment, stammered from time to time, and even made mistakes. Some of them were non-native speakers and they spoke different types of English. Everything was new to me; so real and natural!

私がそれまでカセットテープで聞いていた英語は、完全に人工的なものでした。会話もスピーチもスタジオで録音され、プロのナレーターたちがあらかじめ用意された台本どおりに読んでいたものだったのです。その音声は、文法、発音、構造、すべてにおいて常に完璧過ぎました。そのため、『ENGLISH JOURNAL』でまったく違う話し方をしているのを初めて聞いたとき、私は衝撃を受けました。その話者たちは一瞬黙って考えたり、時々言いよどんだり、言い間違えたりすることさえありました。話者の中にはノンネイティブスピーカーもいて、異なる種類の英語を話していました。私にとって何もかもが新鮮で、現実味があり自然でした!

この衝撃的なEJとの出合いで、私は「生の英語」に触れるために語学留学は必要ないことを確信しました。

以後、毎月EJを購入してはカセットテープが擦り切れるほど繰り返し聞き、スクリプトを読み、シャドーイングをし、時には書き写し、とにかくフルに音声も紙面も活用しました。

中でも気に入っていたのはインタビューでした。仕事場のインタビューでサンフランシスコのケーブルカーのコンダクターが話す英語を聞いたり、家庭訪問のインタビューで5歳の女の子のおしゃべりを聞いたり、そうした英語がとても新鮮でした。

大学院での研究もきっかけはEJ

EJを通して学んだ「生の英語」は、のちに40歳にして大学院に行く動機になりました。当時は予備校で英語を教えていましたが、入試英語のあまりにも現実離れした実情に疑問を持ち、日本の英語教育について改めて考えてみようと思ったのです。

最初の論文は「国際コミュニケーションのための英語教育――日本における英語教育の現状分析と提言:大学入学試験問題の影響を中心に」(1997年)でした。

この研究の目的は、日本人の目標とすべき英語を見直し、現実的な目標に沿う教育に軌道修正することでした。当時の大学入試の英語試験は奇問・難問が多く、かつリスニング力を審査しないものでした。その試験が高校英語教育に与える影響は甚大で、その影響分析することから始めました。そして、分析に基づき入試問題を改善する提言をしました。

提言の中心は、大学入試センター試験*1をはじめ各大学の入試にリスニングを導入すること、また、奇問・難問を排し、代わりに標準的なレベルで文章量を増やして審査することの2点でした。

こうしたアイデアは、EJの「生の英語」との接触があってこそ生まれたものでした。EJとの長年の付き合いが、研究の起爆剤になり、研究を支えてくれたのです。

うれしいことに、この論文を出した9年後に、センター試験にリスニングが導入され、また、筆記試験についても徐々に奇問・難問が少なくなり、平易な、しかし文章量の多いリーディングテストが行われるようになってきました。

もちろん、私の論文でそうなったわけではありませんが、入試改革の流れに一石くらいは投じることができたのではないかと勝手に自負しています(私立大学の問題には相変わらず奇問・難問が多く悩ましいのですが)。

EJとの付き合いから独習メソッドが誕生

45年前に始まったEJとの付き合いは、途中毎月でないこともありましたが、絶えたことはありません。私の英語学習のコア教材であり続けました。

EJを使いながら独習した経験は「松岡式12ステップ英語独習法」を生み出し、私の講演や企業研修、著作などのバックボーンとなりました。

著作も、『日本人は英語のここが聞き取れない』(2003年、アルク)から最近の『桂三輝の英語落語』(共著、2020年、アルク)まで、こうした流れの中で生まれものです。

さらに、私にとっての教科書であるEJに、特集記事を書かせていただく光栄にもあずかりました。最近の特集では、今年5月号の特集「名曲で学ぶ洋楽英語」の「英語学習by音楽」があります。

「1000時間」を提唱するヒアリングマラソン

EJとの出合いは、いつの間にか、EJを副教材とする通信講座「1000時間ヒアリングマラソンにつながっていきました。ちょうど20年前に、この講座のコーチを引き受けることになったのです。

私は、このプログラムの「1000時間」という、実に正直なところに引かれました。「簡単」「~だけで」とうたう学習書や教材が市場に横行する中で、「1000時間」を宣言するのは勇気が要ることです。しかし、真剣に英語力を付けてきた人なら、誰もがこれを正論と認めるでしょう。

そんな「ヒアリングマラソン」のランナー(受講生)を、今も応援しています。

50年前と5年後の英語学習

EJが世に出た50年前の1970年代から90年代前半まで、一般の英語学習者が使える教材は本が中心で、時々、音声に触れる程度でした。90年代後半になってインターネットが普及してくると、ブラウザがまさに世界の「窓」になりました。

今やインターネットは私たちに欠かせない「社会インフラ」になり、ウェブ上にはあらゆるコンテンツがあふれ、英語学習者にとって不足のものは何一つなくなりました。皆さんは有効に活用できているでしょうか。

今の時代に高校生だったらよかったのにと私は悔やみますが、悔やんでも何も始まらないので、ウェブ上のテキスト、音声、画像、動画を十二分に利用させてもらっています。

私が毎日欠かさず見ているのは、「NHK WORLD-JAPAN」です。また、ブラウザのお気に入りバーには、「英辞郎 on the WEB Pro*2と「OneLook」(英英辞典集)が常備されています。アメリカのテニスコーチのレッスンを動画で見ることも、週末のルーティーンです。このように、好きな材料で好きなように英語を学ぶことができますね。

さて、この先の英語学習はどうなっていくでしょうか。いや、それ以前に、この先、英語を学習する必要があるのでしょうか。

ウェブ上には自動翻訳機能があり、その性能は日進月歩です。

私の手元の記録では、2013年に「愛しています。あなたが好きです。」とエキサイト翻訳に入力すると、“It loves. You like it.”という英訳が出てきました。ほかの翻訳機能も同レベルの訳出でした。ところが最近では、同じ日本語をGoogle翻訳に入力すると、“I love you. I like you.”と訳してくれます。

この進化の背景には、2016年以来、翻訳でAIの使用が開始されたことがあります。精度については入力する日本語の質によっても異なりますが、説明文的なものであれば平均85点前後と言えるでしょう。

しかも、AIは学習するので、さらに進化することは確かです。5年もすれば実務的な文書の読み書きは、AI翻訳でほとんど事足りるのではないかと予想します。

音声の認識精度も上がっています。こうなると、若干のタイムラグを気にしなければ、聞く・話すこともAI翻訳で済むかもしれません。

近年のテクノロジーは指数関数的に進化している、つまり2が4、8、16、32にと、かつての足し算的進化とは比較にならない速度で進化していると言われます。加えて、スーパーコンピューターの数千万倍の計算速度を持つ量子コンピューターが実用化されれば・・・ああ、もうわからない。5年先もわからない。

どうなるかわかるまで、英語が必要な人はテクノロジーを上手に利用しながら勉強を続けたらいい、英語が好きな人はAI翻訳も量子コンピューターも関係ない、というのが結論になりそうです。

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松岡 昇(まつおか のぼる)青山学院大学院国際政治経済研究科修了。専門は、国際コミュニケーション、社会言語学。現在、獨協大学、東洋大学及び大手企業を中心に講義やセミナーを務める超人気講師。アルクの通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ。『桂三輝の英語落語』(共著、アルク)など著書多数。