Z 世代が驚く! 50 年前のアナログな英語学習法を振り返る

英語学習で用いる機材は、カセットプレイヤーからCDラジカセ、携帯型CDプレーヤー、PCへと移り変わり、現在ではスマホを用いた英語学習が当たり前になっています。メディアの進化と共にどんどん便利になっていく英語学習ですが、デジタル・ネイティブとも呼ばれるZ世代の若者たちにとっては、インターネット以前の英語学習は既に想像し難いものになっているかもしれません。ここではメディアの変遷に注目しつつ、約50年前~40年前の英語学習について振り返ってみます。

1971年、国際化社会の幕開けとともに『ENGLISH JOURNAL』は誕生しました。 「声の月刊誌」として1本のカセットテープから始まった本誌は、「使える英語」「生きた英語」にこだわり、半世紀にわたって英語を学ぶ方、英語を使う方のためのコンテンツをお届けしてきました。

時代は変わり、英語学習に用いる音声はCDを経てダウンロード形式に。現代では、YouTubeやストリーミングサービスなど、スマートフォンを介して英語学習を行う人も多くいます。

現代ではやる気さえあれば、インターネットを使っていつでもどこでも英語学習に 取り組む ことができますが、半世紀前には当然、このような便利な環境は存在していませんでした。多くの現代人は、もしインターネットが使えなくなったとしたら、英語学習をしようにも途方に暮れてしまいそうですが、先人たちは不便な環境の中でも英語を勉強して、身に付けてきたのです。

ここでは当時のメディア環境を参照しながら、約50年前~40年前の英語学習を振り返ってみます。

70年代はカセットテープ隆盛の時代

今から約50年前の1970年代は、カセットテープを使った英語学習が流行した時代です。もしかすると10代や20代の若い人は、カセットテープ自体を見たことがない人もいるかもしれません。磁気テープを容器に収めたコンパクトなフォルムのカセットテープは、オーディオ用の記録メディアの最先端として活躍していました。

『ENGLISH JOURNAL』創刊当時のカセットテープ

日本のカセットテープの歴史は、オランダの総合電機大手フィリップス社が無償公開した規格を元に、日立マクセルが国産カセット「C-60」として1966年に日本で初めて商品化したところから始まります。 ちなみに 、「C-60」の「C」はコンパクト・カセット、「60」は両面60分録音可能の意味です。当時は700円で発売されていました。

続く1968年には、アイワが日本初のラジカセ「TPR-101」を販売開始、カセットテープの本格普及の きっかけ を作ります。続いて、日立マクセルが音楽用カセット「UD」を1972年に発売するとベストセラーとなり、さらに1974年には、高級テープ「UD-XL」も発売され進化が続きます。そして、1979年にソニーが初代ウォークマン「TPS- L2」を発売すると、音楽を「持ち歩く」という今までになかった斬新なアイデアで社会現象にまでなりました。

この意味で、70年代はまさにカセットテープの進化に彩られた時代だと言っても過言ではありません。1980年4月号の『ENGLISH JOURNAL』の以下の記述を見てみると、英語学習においても、当時のカセットテープの隆盛ぶりがよくわかります。

英会話教材というと、すぐ思い浮かぶのがカセット・テープ。大きな書店にはたいていカセット英会話のコーナーが設置されているし、会話教材のセールスマンの電話に悩まされた人も少なくないであろう。
ここにあるように、当時は英会話教材の代名詞といえばカセットテープでした。事実、70年代に販売されていた英語の通信講座はカセットテープを販売する形式のものが多かったようです。例えば、1977年6月号の『ENGLISH JOURNAL』の広告欄には、以下のような「通訳訓練通信テープ講座」のチラシが掲載されています。

『ENGLISH JOURNAL』1977年6月号に掲載された英語の通信講座の広告

新規学卒者の初任給が約10万円であった時代、1時間分を収録したカセットテープ30本と教本10冊の通信講座が、約7万円というのはかなり割高な気もしますが、当時はまとまった英語の音声を手に入れるのは簡単ではない時代。それだけの価値があったのでしょう。

テレビやラジオ講座を使って英語を学ぶ

当時は、テレビの英会話講座も生の英語を耳にすることができる貴重な機会でした。1980年4月号の『ENGLISH JOURNAL』では、NHKの『英語会話』を使った以下のような英語学習がおススメされています。

基礎的な会話文を、テレビについて何度も声に出し、英語に慣れることがこの段階では大切なことだ。歌の時間もあるから、そのときは音痴であることなど忘れて、とにかく歌ってみよう。メロディーがついた英語はいったん覚えたらなかなか忘れない。最初のうちはゲストの話などかいもくわからない かもしれない が、なに 心配 することなどない。英語に耳が慣れてくれば、おぼろげながら何について話しているのかわかってくる。
「テレビについて何度も声に出し」という言い回しに時代を感じますね。現代のような録画機能が無かった時代は、初級英会話の授業でも大変です。今であれば、録画した内容を聞き取れるまで繰り返し流したり、まず字幕だけを確認して英語の内容を 先に 暗記したりなどが可能ですが、当時はそんなことでさえ簡単ではありません。テレビの前にぴったりついて座って、流れてくる音声をすかさず唱えて、一生懸命に練習している英語青年の様子が目に浮かんできます。

またメロディーがついた英語を歌って勉強しようというのも、繰り返し同じ映像を見直すことができない環境で、少しでも英語を記憶に残すための工夫といえるのかもしれませんね。

在日米軍向けラジオ放送であるFEN(現AFN)や、BBC、Radio Australiaなど、海外のラジオ放送も貴重な学習資材でした。BBCの場合は、毎日夕方6時すぎから日本向けに送られてくる短波放送番組を聞いて勉強したといいます。

当時は英語学習に使う機材を揃えるにも一苦労です。ソニーのバンドラジオは当時3万3000円もしました。また映像を見ながら学習するためのビデオディスクプレーヤーに至っては、24万8000円もしたのだから驚きです。現代であれば、スマートフォンを使っていくらでもリスニング練習ができるのだから、英語学習にかかるコストもかなり節約できるようになったといえるでしょう。

『ENGLISH JOURNAL』1982年2月号「こうすれば放送英語は聞きとれる」から

当時ならではの英語学習グッズといえば、「サウンドペーサー」と呼ばれる機材もありました。普通のテープレコーダーでは、スピードを変化させるとピッチも変化し、聞き取りやすい音質を維持することはできませんが、これを使えば0.8~2.0倍の速度で再生することができる優れものです。こちらの機材のお値段は6万9800円。当時、本格的な英語学習を行おうと思ったら、随分とお金がかかりそうなことがわかります。

ネットの代わりに活躍したリファレンスブック

本を読んでいてわからないことがらに出合ったり、あるいは論文やレポートの作成のために数値的なデータが必要になったりした場合、現代ならまずインターネットを使って検索してみるのが普通だと思いますが、約50年前はどのようにして調べていたのでしょうか?

そんなときに役に立つのが、百科事典、年鑑、団体便覧、人名録などのリファレンスブックです。例えば、何か人物について調べようと思う際、現代であればまずはウィキペディアなどを閲覧するかと思いますが、インターネットが無い時代には人名録を使って調べました。

アメリカの有名な人名録であるMarquis’s Who's Whoなどは、人物の名前が見出しとして音順などで配列されており、職業もしくは 所属 機関、住所、電話番号などの情報が一覧になっています。人名録には編集 方針 によって色々なパターンがあり、中には海外へ旅するアメリカ人のために世界各地に在住するアメリカの免許をもつ医師の人名録Traveler's Guide to U.S. Certified Doctors Abroadなどもあったそうです。

これらのリファレンスブックは、大抵は高額なので個人で所有することは滅多にありません。当時はアメリカン・センターやブリティッシュ・カウンシルなどに閲覧しに行かなければなりませんでした。今ではインターネット検索で簡単にいつでもどこでも調べられるようになり、便利な世の中になりました。

当時を振り返ると英語学習が前向きに!

約50年前~40年前の英語学習の環境を振り返ってみると、今の時代はとても恵まれているということが実感できますね。環境的には今よりかなり不利な状況でも、頑張って英語を上達させてきた当時の人たちのことを思うと、尊敬すると共になんだかやる気がでてきます。現代の便利になった環境を有意義に使って、これからも前向きに英語学習に取り組んでいきたいですね。

ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部 「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌『ENGLISH JOURNAL』が、英語学習の「その先」にあるものをお届けします。単なる英語の運用能力にとどまらない、知識や思考力を求め、「まだ見ぬ世界」への一歩を踏み出しましょう!

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