「文化通訳者」になるために、語学力だけでなくもう一つ大切なことは?

「文化通訳者」になるために、語学力だけでなくもう一つ大切なことは?

「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌ENGLISH JOURNAL(EJ)の「Lecture」。今月からは、シンガーソングライターで数々のJ-POPの歌詞英訳も手掛ける、ネルソン・バビンコイさんによるレクチャーが始まります。「文化通訳」とはどのような仕事なのか、日本語の歌詞を英訳する際に大切にしていることなどについて教えていただきます。

ネルソン・バビンコイさんってどんな人?

ネルソン・バビンコイさんは、米津玄師SEKAI NO OWARITHE BAWDIESゲスの極み乙女。など日本のメジャーアーティストの英語詞や英訳詞に携わる、アメリカ出身の作詞・訳詞家として幅広く活動されています。

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Lecture:ココロを伝えるJ-POPの「文化通訳」第1回

レクチャー第1回では、ネルソンさんが行っている「文化通訳」とはどのような仕事なのか、日本語の歌詞を英訳する際に大切にしていることなどについて教えていただきます。ぜひ音声も聞きながら、いっしょに学んでいきましょう!

1. 「文化通訳者」の仕事とは?

Over the years, I’ve had the pleasure of translating and producing English lyrics for Japanese bands like SEKAI NO OWARI, Kenshi Yonezu, Gesu No Kiwami Otome and plenty more. If you have ever listened to songs by those artists in particular, I’m sure many of you will agree with me that the original Japanese lyrics are quite unique and often have vague messages. Of course, that is part of the beauty of the Japanese language and a testament to its artistic adaptability, but that means it also requires a high level of literacy in both languages to correctly translate.

長年にわたって大変うれしいことに、「SEKAI NO OWARI」「米津玄師」「ゲスの極み乙女。」など、たくさんの日本のバンドのために、歌詞を英訳したり、英語の歌詞を作ったりしてきました。特にこういったアーティストの曲を聴いたことがある方の多くは同意してくださると思いますが、もともとの日本語の歌詞がユニークで、時にメッセージが曖昧だったりします。もちろん、それも日本語の美しさの一部であり、日本語が芸術的に非常に柔軟であることの証拠でもあるのですが、だからこそ、正しく訳すためには両方の言語の高度な読み書き能力も必要とされるわけです。

日本語の歌詞の特徴と、それを英訳することの難しさについて話しています。「文化通訳」とは日本語と英語両方の言語の高度な読み書き能力が必要とされる、とても大変な仕事ですね。

2. 語学力だけでなく「好奇心」を持ち続けることが大切

Becoming a cultural interpreter really comes down to being a genuinely curious, globally minded human being. Of course, speaking a second language is a must, but that’s a skill that can be acquired through traditional education, whereas curiosity is more of a mindset. Why is curiosity significant? Put simply, cultural interpretation requires you to express concepts and values to an audience to which those concepts and values may not inherently resonate.

文化通訳者になること、それはつまり、真に好奇心旺盛で世界志向の人間になるということです。もちろん、第二言語を話せることは必須ですが、それは従来の教育で身に付けられるスキルです。一方、好奇心というのはむしろ、(教育によって身に付けるものではなく)心的態度の問題です。なぜ好奇心が大切なのでしょうか? 簡単に言うと、文化通訳には、さまざまな概念や価値観にもともと共感しているわけではない受け手に対しても、それらを表現することが求められます。

先ほど、日本語と英語両方の読み書き能力が必要とありましたが、実は語学力だけでなく「好奇心」がとても重要だとネルソンさんは話しています。ここでの好奇心とは、新たな経験や知識を求め続けながら、自分の周りの世界や、それに対する自分の理解について疑問を持つことです。

例えば日本とは別の文化を持つ受け手に対して、これまで知る機会が一度もなかった語句・文化を知っていると期待することはできませんよね。そのため、日本の外にはまったく存在しない表現や単語を表すために、また別の方法を探し出さなければならないのです。

3. おすすめの第二言語学習法

One great thing about learning a language through pop-culture content is that it organically teaches you colloquialisms and useful phrases that you may not find in a textbook. Ultimately, I believe this is one of the best ways to learn how to speak a language while deepening your understanding of the culture.

Another way to improve your understanding of a culture is to immerse yourself in poetry. When I started to understand Japanese poetry, I remember being impressed by many Japanese poets’ uncanny ability to express a lot through a little. For Japanese-language students short-form poetry like haiku is a great place to hone your cultural interpretation ability. Learning how to interpret Japan’s multifaceted seasonal words also helped me improve my English vocabulary, so it’s a win-win.

ポップカルチャーのコンテンツから言語を学ぶことの利点の一つに、教科書では目にしないような口語表現や便利なフレーズを自然に学べることがあります。結局のところ、その国の文化の理解を深めながら言葉を話せるようになるには、これが最善の方法の一つではないかと思います。

文化への理解を深めるもう一つの方法は、詩をじっくり味わうことです。私が日本語の詩を理解し始めてきた頃、多くのことを少し(の言葉)で表現できる、数々の日本の詩人たちの不思議な力に感動したのを覚えています。日本語を学ぶ人たちにとって、俳句のような短い形式の詩は、文化を解釈する力に磨きをかけるのにぴったりです。日本の多面性を持つ季語の翻訳の仕方を学ぶことで私は英語の語彙力も豊富になったので、双方ともにメリットがあるのです。

ネルソンさんが日本語を勉強し始めたのは、アメリカ、南カリフォルニアの高校生の頃。当時はYouTubeやソーシャルネットワークも発展しておらず、日本語のDVDやCDを借りて見たり聞いたりして学んでいたそうです。

当時と違って現在はさまざまな学習コンテンツに恵まれているので、ぜひ皆さんも好きな映画、ドラマ、音楽など興味の持てるものを見つけて学習に役立ててください

音楽・歌詞の翻訳にまつわる語句を要チェック!

「『文化通訳』の仕事」に関する英語レクチャーはいかがでしたか?全音声の中で登場する、音楽や歌詞の翻訳にまつわる表現を下にまとめました。

  • lyrics 歌詞 ★通例、複数形。
  • catchy 人の興味を引く、魅力のある
  • vague 曖昧な、漠然とした
  • literacy 読み書き能力、知識
  • curiosity 好奇心
  • globally minded 世界志向の
  • resonate 共鳴する、共感する
  • pop-culture ポップカルチャーの、大衆文化の
  • colloquialism 口語的表現
  • be impressed by ~ ~に感動する
  • multifaceted 多面的な
  • broaden a horizon 視野を広げる ★ここでのhorizonは「視野、範囲」の意。

 

皆さんもぜひ、これらの語句を使って「音楽」や「歌詞の翻訳」について人と話したり、説明したりできるようになりましょう!

レクチャーの全音声・スクリプトと和訳はENGLISH JOURNAL 10月号で!

英語レクチャーが充実! EJオリジナル動画はこちら

ENGLISH JOURNAL の連載「Lecture」ではこれまで、ロッシェル・カップさん(経営コンサルタント)に「英語での働き方」、ギャヴィン・ブレアさん(ジャーナリスト)に「Brexit問題」、ソンヤ・デールさんに「ジェンダー/LGBT」、勝又泰洋さんに「神話」、フー・ユィーングさんに「身近な医学」についてレクチャーしていただきました。ぜひこちらも併せてお楽しみください!

トップ画像の写真:山本高裕、構成・文:須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)

ネルソン・バビンコイ(Nelson Babin-Coy)

ネルソン・バビンコイ(Nelson Babin-Coy)15歳のときに2週間の交換留学をきっかけに日本が好きになり、日本語を独学する。名門カリフォルニア大学バークレー校の東アジア言語・日本語学科を卒業。在学中に慶応義塾大学に1年間留学し、日本語能力試験N1(1級)を取得。2007年10月に再来日し、音楽、芸能活動を始める。2018年に永住権を取得。現在はSEKAI NO OWARI、米津玄師、THE BAWDIES、ゲスノ極み乙女。など、日本のメジャーミュージシャンの英語歌詞の提供や英語プロデュースを行い、NHK WORLDなどの番組に出演しながら番組全体の英語監修も担当。『二階堂家物語』で映画俳優デビューし、バイリンガル俳優としても話題に。ほかに日本の海外向け番組やアーティストのプロデューサー、テレビパーソナリティー、YouTubeのクリエイターなど、さまざまな業界で活躍中。
公式サイト:https://www.nellybc.com/
Twitter:https://twitter.com/babin_coy
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCCVXvioNdjRJsuCrwkbnUMw
Instagram:https://www.instagram.com/babincoy/