英語学習で達成感を得ることは難しいことじゃない!【中山哲成さんインタビュー】

『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』の著者で、多数のメディアで取り上げられている、名物タクシー乗務員の中山哲成さんに、英語での接客エピソードを伺いました。前回の面白接客エピソードに続いて、2回目は「達成感が得られる英語学習法」についてお届けします。

タクシー運転手の仕事は、英語学習にベストな環境

10代から20代にかけては、ミュージシャンになりたい、いや、やっぱり作家を目指すぞと、夢を追い掛ける青春でした。そのたびに挫折を繰り返していましたが、やがてタクシー運転手の仕事に就いたとき、よし、これでやっていこうと思うようになりました。仕事が性に合ったのです。

タクシーの仕事はシフト制です。私の場合、1日20時間働いて次の日は休み、というシフトを選んだので、自分の時間をたっぷりとることができます。その時間を使って、大好きな音楽をまたやろうか、それとも小説を書こうかと考えを巡らせた末、見つけた答えが「英語」でした。

私がタクシー運転手になったのは2014年1月で、オリンピック・パラリンピックの東京招致が決まった数カ月後です。おりしも訪日外国人数は初めて1千万人を突破し、タクシー業界全体が「これからは英語だ!」と沸き立っていました。実際に乗務をしていても、外国人のお客さまを乗せることは、けっこう頻繁にありましたから、じゃあ英語をやってみようかと考えたのです。

そういうわけで、私が英語の勉強を始めたのは、タクシーの仕事をするようになったことがきっかけでした。もちろんそれ以前にも、英語を勉強しようと思ったことが、ないわけではないのです。10代の頃から、ロック、ヒップホップ、ハリウッド映画と、アメリカン・カルチャーが大好きでしたから、英語ができたらもっと楽しいだろうなと、ずっと憧れはありました。でもその時々にやりたいことがあって、何となく英語は後回しになっていたのです。

それが30歳を転機に、やっと英語と向き合う機会が訪れました。柔軟な働き方ができる今の仕事なら、まとまった勉強時間が取れますし、外国からのお客さまを相手に、学んだ英語をすぐ業務に役立てることもできます。英語学習に取り組む上で、ベストなタイミング、ベストな環境でした。

英語が話せるようになって、毎日が楽しい!

音楽でも何でも、新しいことに挑戦するとき、私はとりあえず教則本から入るタイプです。英語をやろうと決めたときも、まず書店へ足を運び、英語コーナーで自分に合った教本、勉強がしやすそうな教本を買い求めました。こうしてゼロから始めた私なりの英語学習法は、次回、詳しくお話しようと思いますが、英語が話せるようになったおかげで、変わったことはいくつもあります。

まず、毎日がすごく楽しくなったことです。大げさに聞こえるかもしれませんが、理解できる言語が1つ増えただけで、人生が前より豊かになりました。私は留学をしたことも、海外に住んだこともありません。でも英語自体が世界中で使われている言語だからか、英語を話すようになると、視野が広がり感覚もグローバルになってきます。今はインターネットがこれだけ発達していますから、海外のニュースも見放題、Netflixなどを契約すれば海外ドラマも見放題。言葉さえできれば、世界はとても身近になります。

勉強を始めて、だいぶ英語が分かるようになってきた頃です。タクシーを走らせていて、町を行く外国人の姿がふと目に入り、「そうか、今の自分はこの人たちとも話ができるんだな」と、感慨深く思ったことがあります。

今は世界中にSNSで知り合った友だちがいます。アメリカにも、カナダにも、ルーマニアにも、ジャマイカにも、フィリピンにも。Skypeで外国人に日本語を教えていたので、仲良くなった教え子が来日すると、あちこち案内したりもします。

人間の幸せというのは、お金でもなく、地位でもなく、究極的には人とのつながりではないでしょうか。そして英語でつながることができる人の数は、日本語のそれの比ではありません。英語を通して、自分は日本人というより地球人なのだ、という気持ちが湧いてきました。

英語力「ゼロ」から相手に通じるようにまでなれた達成感

仕事でも外国人のお客さまと、英語で話が弾むことはよくあります。アメリカ・テキサス州出身のある翻訳家とも、お客さまと運転手として出会って、よい友人になりました。こうなると、いつもの乗務がどんどん楽しくなってきます。

私たちが勉強する目的は、仕事のためだったり、将来のためだったりしますが、もしかすると、もっとシンプルに考えてもいいのかもしれません。練習をして、楽器がうまく弾けるようになったり、スポーツが上達したりするとうれしいですよね。英語の勉強も同じで、練習してだんだん上手に話せるようになれば、それ自体が喜びです。

街で困っている人に道を教えてあげるとか、乗り物で席を譲ってあげるとか、ほんの小さなことでも人に感謝されると、嬉しくて一日中気分がよいものですが、英語ができるようになると、外国人のお客さまにすごく喜ばれることが増えます。

そういうときに感じるうれしさは、バイリンガルの人には、ちょっと分からない感覚かもしれません。私のように、まったく英語が話せなかった人間が懸命に勉強して、やっと相手に通じた、喜んでもらえたという、その全部をひっくるめた達成感がそこにあるからです。

接客の仕事には、英語を通じてそういう感動を味わう機会が、いくらでもあると思います。飲食店なら、「この料理はこんな味です」とか、「今日はこの料理がおすすめですよ」とか、 ちょっとした英語のフレーズを覚えておいて、外国人のお客さまがメニューを選ぶときに、伝えてあげてください。そしてその料理を注文したお客さまが、食事のあとで「おいしかった!」と笑顔を返してくれたなら、自分のひとことで誰かをハッピーにできた喜びと、頑張って話した英語が通じた喜びとで、きっと何倍も嬉しい気持ちになると思います。

夢は、自分らしい観光サービスを提供する個人タクシー

私はタクシー運転手の仕事が好きです。これからもこの仕事を究めていきたいし、できればいつか独立して、個人タクシーをやりたいですね。英語のホームページを作り、SNS も積極的に活用して、自分ならではの観光サービスや情報を、お客さまに提供したいのです。

英語に関しては一昨年、「第5回タクシー運転者『英語おもてなしコンテスト』 」で優勝するという幸運に恵まれ、昨年は自分の英語学習体験を基に、まで出すことができました。けれども私の英語力は、まだまだ未熟です。今でも洋画や海外ニュースが100パーセント聞き取れないことや、お客さまとの英語の会話で、聞き漏らすことがありますから、もっともっと英語の精度を上げたいと常に思っています。

ただ、TOEIC で何点を取るとか、資格をいくつ取るとか、英語でお金を稼ぐといったことは、あまり考えていません。私の頭の中には、言葉にして伝えたいことが、たくさんあります。しかしネイティブスピーカーでもなく、勉強を始めたのも30歳になってからなので、話したいことを母国語と同じくらい自由自在に英語で話すのは難しい。それはよく承知しているつもりです。その上で、果たしてどこまで英語力を伸ばせるのか。自分自身の成長を楽しみに、チャレンジを続けていきたいと思います。

中山哲成さんが2018年10月19日(金)に羽田空港国際線ターミナルビルTIATスカイホールで開催された第5回タクシー運転者「英語おもてなしコンテスト」の開催風景。

中山哲成(なかやまてつなり)

タクシー乗務員。英語学習法の本『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』の著者。『PRESIDENT』、イギリス経済誌『The Economist』など、多数のメディアで取り上げられ大注目。「タクシー接客英語コンテスト2018」最優秀賞受賞。
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文: 田中洋子/写真:山本高裕/構成:増尾美恵子