ハーバード大学やスタンフォード大学など、世界の名門大学の講義が動画で見られる時代。今回は、通訳・翻訳者で英語教育の研究にも携わる佐々木南実さんが、ペンシルベニア大学のオンライン講座を体験します。
目次
fresh off the boatとは、「船を下りたばかり」、つまり「上陸したて」のアジア系移民を揶揄するアメリカ英語のスラング。それを逆手にとって台湾系アメリカ人のグルメなお兄ちゃんを描いた Fresh Off the Boat(邦題:『フアン家のアメリカ開拓記』)というシチュエーション・コメディ番組もあったっけ。
なんだかんだ言っても、移民に対してオープンで懐が深いのが、アメリカ。少なくとも、去年の11月まではそうだったはず……。
今回ご案内するのは、トランプ大統領の母校でありながら、選挙期間中から反トランプ運動の舞台となっているペンシルベニア大学(University of Pennsylvania、通称UPennまたはPenn)。アメリカ東部にあるペンシルベニア州の都市フィラデルフィアにあるこの大学は、アメリカで4番目に古い伝統校だ。
さあ、船を下りたらフィラデルフィアを目指せ!トランプの母校で英語を学ぶ外国人留学生の気持ちになって、「今」のアメリカを見てみよう。
移民に役立ちそうな講座が充実
アイビー・リーグに属する伝統校でありながら、第9代のハリソン大統領以来、大統領輩出に縁がなかったこのペンシルベニア大学。
トランプ自身は「わが母校Penn」「俺はPenn卒だから」と、ことあるごとに高学歴を自慢するが、大学側からは一切言及はなし。むしろ卒業生たちからは「彼は編入生だから……」など、距離を置く発言が相次ぎ、キャンパスは現役Penn生によるさまざまな反トランプ運動の舞台となっている。
そんな名門大学Pennだが、MOOCを横断的に検索できるClass Centralで調べてみると、英語が分からないままアメリカに上陸してしまった人のためのMOOC講座が非常に充実している模様。
トランプ時代のアメリカにあえて乗り込んでやろうという、気合いの入った移民になったつもりで、これらのコースを見てみるとしよう。
アメリカ大学受験から就職までのABC
Penn ELP(English Language Programs)のページを見てみよう。
「メディアリテラシーのための英語」「ジャーナリズムのための英語」「STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)のための英語」「ビジネスと起業のための英語」「アメリカ大学受験のためのエッセイ指導」など、英語を学ぶビジネスパーソンが必見の講座がずらりと並んでいる。
MOOCなら、これらが全て無料で聴講できるのだ。
ほとんどの講座が5週間で受講でき、その内容の充実度がすごい。今から紹介する「外国人のためのアメリカ大学出願入門」は、修了すれば留学生どころか、留学アドバイザーになれてしまいそうな盛りだくさんな内容である。
Penn以外の大学のアドミッション・オフィサー(入試選考の担当者)へのインタビューも載っていて、各大学が求める留学生像などをつかむことができる。
日本のアメリカ大使館などで開催される「留学フェア」にブースを設けていそうな大学が色々と出てくるので、そのようなイベントと併せて情報を得て、自分に合った大学を探すのに使うといいだろう。
そして、後述するビジネスパーソン向けの入門講座、English for Career Developmentでは、アメリカでの職探しの方法から履歴書の書き方、面接のノウハウなど、就活の全体像を見ることができる。
ELP(English Language Programs:留学生向け大学付属の英語準備コース)だけあって、ビデオの中の話し方もゆっくりで、英語も平易なものになっているので大変分かりやすい。
1時限目:Applying to U.S. Universities(外国人のためのアメリカ大学出願入門)エリック・ハイド教授
ハイド教授の講義は、ローレン・ポープという人の著書『人生を変える大学の選び方』からの引用で始まる。
要点をまとめると以下のようになる。
- 大学の「ランキング」は、実は教育の内容に関係のないデータばかりで決まっている。
- 入学者の統一テスト(SAT)のスコアや教授の給与など。
4年間で若者の魂にどんな変化が起きるかなんて、まったくランキングには反映されていないのだ。これでは、やってくる患者の病気の重さで病院をランキングするようなもの。
そして「このコースは大学入学の話ですから、とにかくあなたが主役です」と続く。あなたが欲しい学習環境、あなたが欲しい学習の内容、あなたが払える学費の限界。妥協しない、しかし無理もしない大学選びをすすめてくれるのである。
大学進学の本来の意味を問いかけてくれる、これは、できれば日本の高校生や保護者の方にも受けて欲しいコースである。
予習のための推奨読書
2時限目:Positive Psychology: Character, Grit and Research Methods(ポジティブ心理学:性格、やり抜く力とリサーチ・メソッド)クレア・ロバートソン教授、アンジェラ・ダックワース教授
以前の日本は「学歴社会」と言われていたが、教育界はそこから脱却しようと努力している。
現代の学びに大事な一つの「柱」となる要素に「やり抜く力」(Grit)というのがあるが、ペンシルベニア大学にはGritをテーマに大ヒットを飛ばし続けるアンジェラ・ダックワース教授がいるので、これは見逃すわけにはいかない。
ダックワース教授は心理学の立場から色々な角度で「天才」に光をあて、要するにイチロー的な天才の天才たる所以(ゆえん)をあぶり出した。それがGrit「やり抜く力」なのだ。
このコースは、ダックワース教授の大学での講義のビデオと、心理学の基本的なリサーチ・メソッドを教えてくれるクレア・ロバートソン教授のビデオが交互に出てくる。
聴講後には、Gritのコンセプトを理解し、自分も心理学の調査に出られる状態になるという、二度おいしいコースになっている。生徒たちに「やり抜く力」を教えたい、学校の先生にもぜひとも受講してほしい。
ダックワース教授のサイトには「やり抜く力」が測れるGrit Scale(根気測定)もある。あなたの根気はどの程度?
予習のための推奨読書
教育は希望だと、やっぱりアメリカの大学は教えてくれる
トランプの移民政策にがっかりしても、日本の教育改革にちょっとした頼りなさを覚えても、それでもやっぱり大学進学には意味があるという希望が湧いてきたのが、今回のMOOC留学の感想だ。
移民はアメリカを目指し続けるし、アメリカは英語を教えることをやめはしない。学びの場には希望があり、学びの場の扉はいつでも学生たちに向かって開かれている。
われわれも、強くたくましく、学び続けていくしかないのだ。Gritを持って!
というわけで今回は、ペンシルベニア大学の門をたたいてみました。次回以降もMOOCの向こうに無限に広がる知の世界を主体的に探究し続けますよ!
ペンシルベニア大学が提供するその他のコース
English for Science, Technology, Engineering, and Mathematics(科学、技術、エンジニアリング、数学に関する英語)
「地球温暖化」について語るときに必要な、STEM的な語句を丁寧に教えてくれるこのコース。
読書課題はすべて、英語学習者のレベルに応じて書き換えた記事が読めるNewselaを使うので、自分のペースで学習できる。Improving Communication Skills(コミュニケーションスキルを向上させるコース)
自分が有利になるコミュニケーションのスキルを教えてくれるという、頼もしいコース。
相手のうそを見抜く方法、英語での交渉術、そして英語での謝罪のやり方。ビジネスですぐに使える批判的なコミュニケーションスキルが身に付く。English for Career Development(キャリア構築のための英語)
英語を母語としない人のための、求人情報の見方、履歴書・カバーレターの書き方から面接対策までを5週間でカバーする。
聴講はもちろん無料だが、修了証も「学資援助に申し込めば無料で取得できる」とあり、簡単なフォームに記入するだけで申請できる。
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