タイで仕事を進めるとき、アポイントはどのように取ればよいのでしょうか。名刺交換や挨拶、現地スタッフへの指示や注意の仕方にも、知っておきたいポイントがあります。タイ出張や駐在で役立つビジネスマナーをQ&A形式で紹介します。
目次
※本記事の内容は『タイとビジネスをするための鉄則55』(2016年6月、アルク刊)をもとにしています。
Q.アポを取るときに注意することは?
A.先方の都合でキャンセルされることも。近い日付でアポを設定すると確実。
初めてアプローチする企業にアポ(面会の約束)を取り付けるには、時間を割いて会うだけのメリットを相手側に感じてもらわなければなりません。連絡を入れる時点で、面会の目的を具体的にしておくことが大事です。
また、タイに限りませんが、面会したい企業と何らかのつながりがある人や企業を通じて、最初の連絡をするのは有効です。多くのタイ企業では英語が通じますが、自社にタイ人スタッフがいる場合には、アポ取りを任せてもいいでしょう。
ドタキャンを防ぐには
アポが取れても、当日の朝など土壇場になって、都合が悪くなったと先方からキャンセルの連絡が来ることがあります。緊急案件が入ったり、ダブルブッキングしていたことに気づいたり、あるいは家族に何かあったりと、理由はさまざまです。こんなときには新たなアポを取り付けましょう。
土壇場のキャンセルを避けるのに有効なのは、ずっと先の日時を避け、できるだけ近い日時でアポを取ること。ただ、日本から出張で会いにいくのであれば、1カ月くらい前までにはアポを確定させないと諸々の手配ができません。その場合には渡航が近づいてきたら、再確認の連絡を入れます。さらに、前日または当日朝に連絡しておくことをおすすめします。
交通渋滞の時間帯は避ける
バンコクでは、交通渋滞でこちらが遅れることもあり得ます。そんな場合には電話などで、どのくらい遅れそうかを伝えます。土地勘がなくて時間が読めなければ、現在地を知らせるといいでしょう。
タイの企業の一般的な就業時間は午前8時~午後5時(午前9時~午後6時の場合もあり)。バンコクは通勤時間帯の交通渋滞がありますので、始業直後や終業間際の時間は、アポイントから外すのが無難です。
アポ取得を代行してくれるサービスも
日本からタイに電話をかけるだけでもハードルを感じるかもしれません。現地にコネクションがまったくなければ、アポ取得を代行してくれるサービスを利用するのも一つの方法です。例えば、JETRO(日本貿易振興機構)、タイ国政府貿易センター(東京、大阪などに事務所)などの公的機関のほか、コンサルティング会社などでこうしたサービスを提供しているところもあります。
Q.日々のビジネスシーンで、日本と異なる点は?
A.書類の原本を日本よりも重視する一方、ビジネスマナーについては日本よりカジュアルな面も。
同じアジア圏で文化的に日本と似た面もあるタイですが、商習慣では意外なところで日本と異なる部分があるので、注意が必要です。
名刺交換
名刺交換はミーティングの最初に行うのが一般的です。このとき自社メンバーの役職や役割を簡単に紹介しましょう。タイでは名刺は片手で渡すのが普通ですが、日本式に両手で渡しても構いません。差し出す名刺の向きも、前後どちら向きでも特に問題ありません。
呼び掛け
タイでミスターやミズに当たる敬称は「クーン(Khun)」で男女とも同じです。ビジネスミーティング、特に初対面の場合は「クーン・○○」と呼べば間違いないでしょう。また親しい相手とはファミリーネームではなく、ファーストネームまたはニックネームで呼び合うのが一般的。ビジネス上の付き合いでも、親しくなってくると、「クーンはいらないから」と言われます。さらに「ピー(お兄さん・お姉さん)」「ノーン(弟・妹)」と呼び合う間柄になれれば、信頼関係が築けた証拠。ビジネスでもあいさつは通常、ワイ(合掌)で始まります。本来、目下の人から先に、目上の人に向かってワイをします。私たち日本人(外国人)はタイ式のあいさつの形式を強く意識する必要はなく、ワイも握手も、相手に応じて返せば大丈夫です。
紙の書類の重視
タイでは官公庁などがまだ原本主義をとっています。ですから、全ての書類を紙で用意する必要があります。会社法で関連書類は5年間保管しておく必要がありますが、10年間取っておくのが一般的です。大きな会社では莫大な量になるので、こういった書類を専門に預かる郊外の施設に保管し、顧客のリクエストに応じて必要な書類をオフィスに届けるサービスもあります。タイでは公式文書のサインに青いボールペンを使うのが一般的です。原本のサインごとコピーするケースがあるため、原本とコピーを役所側が見分けやすくするためと言われています。
官公庁への申請手続き
官公庁に提出する書類はタイ語が基本です。会社登記やBOI(タイ投資委員会)認可などは申請システムが確立されているので、必要な書類がそろっていれば比較的スムーズに進みます。ただ、書類に不備があった際、その都度、修正を要求される場合が少なくありません。全ての書類に目を通し終えてから修正個所を指摘するのではなく、担当官が一つ気づいたら修正、また気がついたら再修正という具合です。何度も役所へ出向くことになるので、ミスが少ない書類の作成を心がけましょう。(※)
編集部注:現在は、タイ商務省事業開発局(DBD)の法人登記や財務諸表提出、タイ投資委員会(BOI)の投資奨励申請などでオンライン手続きが利用されています。BOIの投資奨励申請はタイ語または英語でのオンライン提出が可能で、「すべての書類を紙で用意する」「官公庁への提出書類はタイ語が基本」と一律には言えません(2026年9月現在)。
仏教とビジネス
タイの正式文書には通常、タイの仏暦が使用されます。西暦に543を加えると仏暦になる(例 西暦2016年+543=仏暦2559年)ので、覚えておきましょう。
また、タイでは新しいオフィスや工場の開所式、創立記念日などには僧侶を招いて祈祷をしてもらうのが一般的です。オフィスの中や敷地には、サンプラプームと呼ばれる土地神の祠(ほこら)があります。寺院だけでなく、こういった祠もタイ人の熱心な祈りの対象で、その前を通るときには手を合わせるのが一般的です。
Q.タイ人と円滑に仕事をするためのヒントは?
A.日本式の仕事のやり方を押し付けない、決して怒らないことが大事。
駐在員が赴任当初によく言うのは、「ここは日本のようにはいかない」ということです。日本と同じスピード感覚や正確さ、会社への帰属意識を求めてもなかなかうまくいきません。タイ人にはタイ人の価値観や働き方があります。それを理解した上で、うまく彼らと働いていくことが求められます。日系の会社だからと日本式のやり方を一方的に押し付けても、のれんに腕押しです。うまくいかない状況が続くことに対して怒りの感情を持てば自分のストレスをためるだけです。穏やかな気持ちで、郷に入れば郷に従えの精神でいきましょう。
叱ることは最悪の対処方法
業務でミスをしたり、遅刻をしたりしても、叱らないことが大事です。特に人前で叱ることは絶対に避けましょう。一般的にタイ人はプライドが高く、叱られた後、そのまま会社を辞めてしまう可能性もあります。それは会社にとってマイナスですし、他のタイ人スタッフはそうした行動を見ており、あなたへの評価も下がります。
特定の個人に何か言いたいときは会議室に呼ぶなどして、個別に話をしましょう。その際も、感情的にならず、論理的かつ丁寧に「この点が良くないので、こうして欲しい」と説明します。その際、彼らはすぐに分かるようなうそや自分勝手な理屈を言う場合がありますが、それも取りあえず聞いてあげましょう。
垣根を取り払うことが第一歩
では、どうやって、ミスや問題行動を減らしていけば良いでしょうか?解決策の一つは「彼らとの『垣根』を取り払うこと」です。彼らにとって、日本から来たあなたに声をかけるのは少し勇気が要ります。ですから、こちらから積極的に声をかけるようにしましょう。話題は、政治・王室・宗教のこと以外なら何でもOKです。相手の家族のことや出身地など、今どきの日本では個人情報であると問題視されるかもしれないトピックも「自分に興味を持ってくれた」と喜ばれるはずです。相手が女性なら、髪型や服装を褒めるのもいいでしょう。こちらも日本ではセクハラと言われる可能性がありそうですが……。
具体的な指示を出す
仕事においては、漠然と「この案件を担当してください」ではなく、「この件についてA社に連絡してください」のように具体的な指示を出すのがベターです。そして、「この先は言わずとも分かるだろう」と考えず、次の段取りを指示します。指示が間違いなく実行されているかを確認するのも大事です。いわゆる「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)をさせるように、こちらが動くこと。この際、あらかじめ垣根を取り払っておけば、「今日は朝ごはん食べた?ところで、A社に連絡してくれた?」とスムーズに確認できるでしょう。
一番の解決策
会社によってはこのような「ほうれんそう」に関してのセミナーを開き、社員教育を行っているところもあります。また最も効果的なのは、日本で研修を受けてもらうことだと言われています。たとえば1年間かけて日本での仕事を経験すると、なぜ日本式のコミュニケーションが大切なのかが、身をもって理解できるようになるようです。日本への留学経験のある人材なら、ここに述べたような苦労をあまりせずに、一緒に働くことができるとも言えそうです。
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『タイとビジネスをするための鉄則55』Kindle版
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