TOEIC対策のカリスマ講師、ハマーこと濵﨑潤之輔さんの連載「明日の風を今日吹かせよう」。第3回で取り上げるコトバは「暗記するな、吸収せよ」です。ハマーさんは「暗記」自体は否定しません。むしろ肯定していると言った方がいいかもしれません。では、「吸収せよ」とはどういうことでしょうか。
「暗記」はいけないことではない
今回は「暗記」の話です。暗記という言葉の意味は非常に広範です。例えば大学受験などの勉強では、「暗記は大変だ」「そのときだけしか役に立たない」など、ネガティブな使われ方をされることがあります。一方で、ビジネスや自己啓発の書籍では、「暗記するのが一番だ」という肯定的な内容も見られます。
このように、幅広く使われる言葉ですから、学習者は「意味がある暗記」と「意味がない暗記」があることを理解しないといけません。意味がない暗記はないかもしれませんが、「意味が薄い暗記」は確かにあるのです。
極端に言うと、TOEICを含む英語の勉強は、全て「暗記」だと思います。英単語を覚えることは、単語の意味、使い方、発音などを覚えることであり、これも全て暗記の一形態なのです。
悪い意味での「暗記」とは?
では、悪い意味での暗記とはなんでしょうか。それは、意味を理解しようとせずに覚えることを指します。意味を理解せずに何かを覚えるという行為、これが巷で言われる「丸暗記」というものなのです。
僕が中学生だったとき、通っていた塾では中学の英語の教科書の内容を全て暗記することが必須でした。当然のことながら、その内容を理解した上で教科書の英文を覚えることが望ましいのですが、中にはただ暗記テストに合格したいがために、とにかく英文を唱えて覚え、「先生、覚えました!」という生徒も少なからずいました。
そんな生徒は、暗記した英文を唱え、その場では合格してはいましたが、唱えた英文の意味は理解していませんでした。ただ文字を覚えただけの丸暗記、その知識は「塾のテスト」をクリアする以外に使い道がないわけです。これが、悪い意味での暗記なのです。汎用性がなく、他の場面では1mmも役に立ちません。もちろん学校の中間テストや期末テストでは、多少は役に立つことがあるかもしれません。中学校の定期テストでは教科書の英文が、そのままの形で出題されることもありますから。でも、主語やその他の単語が少し変わっていたりすると、もうどうしようもなくなってしまうのです。
今日のハマーのコトバ
そこで、今回の「暗記するな、吸収せよ」という言葉の話です。
僕が考えるのは「悪い意味での暗記をするな、いい意味での暗記をせよ」ということです。吸収するということは、覚えた単語やフレーズが教科書に掲載されているままではなく、他の形で試験に出題された場合でも、それらを応用して使うことができるようになることです。理解しているからこそアウトプットもできる、ということだと思うのです。「A=B」と覚えるだけでなく、その続きに発展させること。知識を吸収し、自分が使いこなせるストックとして蓄積することが重要なのです。
では、語彙を増やしたいときに、どんな勉強をすればいいのか、という話をしましょう。例えば今が「無」の状態、つまり英単語を一つも知らない状態だとしましょう。これは極端な例ですが、小中学校で英語を学んだものの、その後、勉強は一切していない、もしくはこれからTOEICの勉強を始めるのだけれども、当然のことながら受験経験がない、というような状況です。
そんな場合、最初は暗記から始めてよいと思います。例えば「provide」は「~を供給する」という意味だと覚える。それだけでいいのです。初めは英語と日本語の1対1対応の暗記で十分です。単語を見てその意味が言えるようになることが大事です。今はどんな教材でも音声が付いていますから、音を聞いて意味が分かる、それだけでもよいと思います。それを積み重ね、だいたい1000語以上のストックを作ることが必要です。
中学レベルの英文法も、初めは暗記で問題ありません。何もない状況から始めるわけですから、暗記は避けられません。そこで、なぜ現在完了形がこのように使われるのかといったことを深く考えず、これはそういうものなのだと、そのまま暗記するのです。
そして、単語と文法のストックが終わったら、次は吸収の段階です。吸収とは、持っている知識を別の形で吐き出せる状態になることです。別の場所でその表現に出合ったり、似た表現を見かけたりしたときにも、意味を理解し、聞いて分かるようになっていることが重要です。これができて初めて、自分が暗記したものを本当に吸収し、使うことができるようになったといえるのです。
自分が一つ上のステージに上がったように思えること。そういった気付きを得て初めて、「知識を本当に吸収できた」といえるのではないかと思います。これは「腑に落ちる」という表現がふさわしいかもしれません。そんな瞬間が積み重なることで、暗記した内容が本当に吸収されていくのです。
TOEICの勉強であれば、同じ問題を何度も解くなど、出合いの機会がたくさん必要だと思います。そうすることで、人は大切な何かに気付けるのです。自分がやったこと、覚えてきたことを「使えている」と気付いたときは、本当にうれしい。そんな経験はありませんか? やってきたことに意味があったぞと感じる瞬間。これが「吸収する」ということなのです。
濵﨑潤之輔さんの本
濵﨑潤之輔さんの新刊!『観光客を助ける英会話』
困っている外国人観光客を手助けしよう!
困っている外国人観光客を手助けするためのシンプル英語を学ぶ本です。街中や観光地で、外国人が困っているらしい姿を見かけたことはないでしょうか。たとえば、道に迷って目的地にたどり着けない、駅構内で乗るべき電車が分からない、飲食店で日本語のメニューしか用意されておらず注文できない、など。そんな場面で、なんとか力になりたい、と思ったことがある方は少なくないはず。本書はそんな方々が対象読者です。
●英語に苦手意識があっても大丈夫
本書は、英語に苦手意識がある方、学生時代に学んで以降、ずっと英語から離れていた方などを想定して、そうした方々が無理なく使えるように、1つの文のワード数はできるだけ少なくしました。シンプル英語だから、英語が初級レベルでも学びやすく、そして忘れにくいです。
●40場面、240フレーズを収録
外国人観光客と比較的多く遭遇するであろう、駅、観光スポット、小売店、飲食店などの代表的な40場面を選び、計240のフレーズと、そのフレーズを使った対話例を収録しています。たとえば以下のようなフレーズです。
「途中まで一緒に行きましょう。」
「観光案内所で無料Wi-Fiを使えます。」
「スマホにQR コードを表示させてください。」
「食物アレルギーはありますか。」
1人ですべてを解決できなくても、一次的な対応をする場合に使える表現や、英語ができる人につないであげる際に使える表現も収録しています。付属音声で練習して、実際に街中で使ってみましょう。
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。