新五千円札の顔「津田梅子」を英語で紹介できますか?

2024年7月に刷新された新紙幣。早稲田大学名誉教授のジェームス・M・バーダマンさんに、前回は「渋沢栄一」について教えていただきました。今回も引き続きバーダマンさんに、五千円札の肖像に選ばれた「津田梅子」についてレクチャーしていただきます。

Lecture:英語で読み解く日本の近代史 第2回

日本の女子教育や女性の地位向上に大きく貢献した津田梅子。英語で彼女の人生をひもといてみましょう。

1.わずか6歳で初の女子海外留学生として渡米

Born the daughter of Tsuda Sen, an expert on Western agricultural techniques, Tsuda Umeko was one of the first Japanese women to study overseas. She was only 6 years old when she became one of a group of students who were sent to the United States with the Iwakura Mission in 1871.

西洋の農業技術の専門家である津田 仙の娘として生まれた津田梅子は、日本初の女子海外留学生の一人です。1871年、岩倉遣外使節(*1)に随行する留学生の一員となってアメリカに送られたとき、彼女はわずか6歳でした。

  • (*1) 岩倉遣外使節:明治初期に政府によって欧米諸国に送られた使節団。岩倉具視が特命全権大使、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文らが副使を務めた。

津田梅子を含む彼女たちは、日本女性初の国費留学生でした。岩倉遣外使節の目的の一つは、少女たちに西洋のしきたりを身に付けさせ、やがては日本女性の模範となって、日本の近代化を促進してもらうことだったそうです。

2.チャールズ・ランマン家での生活

Tsuda stayed in Washington, D.C., with the secretary of the Japanese legation, Charles Lanman, and his wife, Adeline. They had no children and are said to have welcomed her and treated her as their own daughter.

津田はワシントンD.C.で、日本公使館の秘書官チャールズ・ランマンとその妻アデラインの家で過ごしました。子どもがいなかった夫妻は、彼女を歓迎し、実の娘のように扱ったといわれています。

津田梅子が最初に通った学校「ジョージタウン・コレジエト・インスティチュート」の生徒の大半は、地元の政治家や役人の娘でした。彼女はあっという間に英語を身に付け、優秀な学業成績を収めたのです。その一方で彼女は、母語(である日本語)を習得しないまま英語のみを話すように育ったため、帰国後に日本語の壁にぶち当たります。

3. 帰国後は家庭教師、教授として活躍

She first became a tutor in the household of the prominent Ito Hirobumi. She was also offered a teaching position at the Peeresses’ School, or Kazoku Jogakko, a new school established by the government for daughters of the former samurai class. She was appointed associate professor and then promoted to professor in 1886.

彼女はまず、かの有名な伊藤博文の家の家庭教師となりました。また、かつての武士階級の子女のために政府によって新設された華族女学校の教職も得ました。彼女は准教授に任ぜられ、そして1886年には教授に昇進しました。

津田梅子は、帰国して最初のうちは国費留学者としての責任を果たせたと誇らしく思っていました。アメリカで学ぶ機会をくれた国への恩返しとして、これが一番の方法に思えたのです。しかし、やがてはむなしさを感じるようになりました。華族女学校の考えは、少女たちを淑女へ、従順な妻へ、よい母親へと育てる教養学校の位置付けであったため、学問の水準は高くなかったからです。

4.女性の教育と社会的地位向上を目指して

In 1900, she astonished many people by resigning from her honorable position at the Peeresses’ School and founded the Women’s Institute for English Studies (Joshi Eigaku Juku). The curriculum introduced liberal arts and class discussions about contemporary issues, encouraged creativity and promoted the cultivation of individual character.

1900年、彼女は華族女学校の名誉ある職を辞して多くの人々を驚かせ、「女子英学塾」を設立しました。そのカリキュラムにはリベラルアーツや時事問題を論じ合う授業を取り入れ、創造力や個性を伸ばすことを奨励しました。

1889年、再びアメリカに渡った津田梅子は、全額給付の奨学金を受けて、フィラデルフィアのブリンマー大学で生物学を学び始めました。アメリカで学んだ経験は、日本女性の教育に貢献し、女性の社会的地位を押し上げたいという彼女の思いをより強くしました。こうして彼女は、日本女性の高等教育に精力を注ごうと決めたのです。

5.名門女子大「津田塾大学」設立へ

After a long illness, compounded by a busy life, she passed away at the age of 66 in 1929. The school she created underwent several name changes and after World War II it became Tsuda College, with a reputation as one of the most prestigious women’s colleges in Japan.

長期にわたる病に過労も重なり、彼女は1929年に66歳で亡くなりました。彼女が設立した学校は数度の名称変更を経て、第二次世界大戦後には津田塾大学となり、日本有数の名門女子大学の一つとしての名声を得るようになりました。

津田梅子は、アメリカで受けた教育と自らも入信したキリスト教の影響の下、独自の知性と強い個性を持つ、自立した日本女性の育成に力を注ぎました。その教育を受けた若い女性たちは新しいネットワークを築き、日本社会における女性たちが教育を受けるための土壌と機会をつくったのです。

日本の近代史にまつわる語句を要チェック!

「津田梅子」の人生をひもとく英語レクチャーはいかがでしたか?ここに登場する以外にも、日本の近代史にまつわる表現を下にまとめました。知らない語句はチェックしておいて、しっかり復習するようにしましょう!

  • pioneer:先駆者、パイオニア
  • cultivate:~を育てる、~に教養を付けさせる
  • modernize:近代化する
  • returnee:帰国子女、帰国者
  • excel in ~:~に秀でる、~に優れる
  • independence:独立、自立
  • westernized:西洋化した
  • conventional:伝統的な、従来の
  • liberated:解放された、自由になった
  • contribute to ~:~に貢献する
  • obediently:従順に、素直に
  • associate professor:准教授
  • scholarship:奨学金
  • finishing school:教養学校、花嫁学校
  • honorable:立派な、名誉ある
  • curriculum:カリキュラム、全教科課程
  • liberal arts:リベラルアーツ ★教養を高めるために学際的に学ぶことを目指す教育理念。
  • individual character:個性
  • legacy:遺産、受け継がれたもの

皆さんもぜひ、これらの語句を使って日本史について人と話したり、説明したりできるようになりましょう!

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ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)
ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)

早稲田大学名誉教授。1947 年アメリカ、テネシー州生まれ。プリンストン神学校教育専攻、修士。ハワイ大学大学院アジア研究専攻、修士。専門はアメリカ文化史、特にアメリカ南部の文化、アメリカ黒人の文化。著書に『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』(ジャパンブック)、『アメリカ黒人史―奴隷制からBLM まで』(ちくま新書)、『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(講談社選書メチエ)、『毎日の英単語』(朝日新聞出版)、『3つの基本ルール+αで英語の冠詞はここまで簡単になる』(アルクライブラリー)ほか多数。
VARDAMAN’S STUDY
バーダマンの英語随筆

  • トップ画像の写真:山本高裕、構成・文:須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)
  • 本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
  • 作成:2021年1月18日、更新:2024年11月21日

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